北野武、又の名をビートたけし。
昔、銀座のサイセリアというバンドが入っているナイトクラブでよく出会いました。ドラムはあの有名なジミー原田さん90歳近くまで叩いていました。
キリンビールの小瓶を一本必ずプレゼント、嬉しそうにウィンクします。素敵なミュージシャンだった。バンドを囲む円状のカウンターに一人ポツンとたけしはグラスを傾けていました。男の色気があり物静かでした。
お金にならない事は一切喋らないのでしょうか。
落語家や漫才師たちの業界で金にならなくても喋り続けるのは明石家さんまだけです。(ビョーキです、三年間程仕事をしました)
北野武は凄いインテリです、特に理数系に強いのです。彼の映画はかなり理数系の作りです。彼は人を見い出し、育てる天才です。
大島渚監督もそうでした。大島監督は一に素人、二に歌い手、三、四がなく五に役者というキャスティングの天才でした。ビートたけしは、そのまんま東、ダンカン、つまみ枝豆、寺島進、大杉漣、モナ、真木蔵人、金子賢、安藤政信、白竜、ビートきよし、ガダルカナルタカ、松尾伴内、浅草キッド、ラッシャー板前、井手らっきょ、グレード義太夫、なべやかん達を世に出しました。みんな足を向けて眠れません。
それと彼は芸人たちへの敬意を強く持っています。映画の中に必ず色物の人たち、パフォーマンスの人たち、封間の人、沢山の芸人の人を登場させます。
三味線、長唄、手品、タップダンスなどを起用します。人一倍人に対し繊細なのです。彼の絵はプロより全然上手い、芸能人の画家たち八代亜紀、加山雄三、朝比奈アンナ、雪村いずみ、北島三郎、川津祐介、石坂浩二、工藤静香、米倉斉加年、岸ユキ、榎木孝明等、みんないい絵を描きます。中でも彼の絵は山下清の様です。よくまあこんなに描いたもんだという位驚く程繊細かつ色彩豊かな絵を描きます。最近ではツルんで飲まず仕事が終わるとアトリエに入っているそうです。
銀座サイセリアのママとは銀座で一番長い付き合いでしたが、数年前店を閉じました。系列店をソニービルの側でやっているはずです(プチサイセリア)多い時は週に3回は行ってました。いいジャズと、いい女と、いい友達です。
ある時ママが言いました、あそこに居るのが今売り出しのビートたけし。お店の女の子片っ端から手を付けられてんのよ、凄いモテるのよと。まあ夜の世界はそれが何だという世界だからOKなのです。借金山ほど抱えても大作映画を作る、そんな男は北野武のみ(私の映画は短篇超低予算)。政治家になんかならないのがいい。終生芸人を目指しているから男の色気と洒落がある。リスペクトされる男とは決して夢から逃げずに夢追う男、そして人を見い出し育てる男、だからいつまでも殿でいられるのです。
ある本でこんな言葉に出会いました。一人は松下電器の創立者松下幸之助さんです。商品開発をするのは赤字の垂れ流し、赤字は人間の血と同じや、だから血を止めなあかんのや、自分の開発している商品を抱いて寝るんや、きっといいアイデアが出る。
一人はソニーの創立者井深大さんです。よそと同じ商品を作っても駄目だ、何年赤字を出し続けてもいい仕事をしなさい。仕事の報酬は仕事なんだ、いい仕事をすれば次にいい仕事が生まれると。
お金を沢山残して後世尊敬された人はあまりいないのです。
私はあのビートたけしがバイクで事故を起こしたのは北野武に還るための自殺的儀式だったのではとこの頃思うのです。
自らの顔をピカソのゲルニカの様にしてビートたけしと決別したのです。あの酷い顔が凄くいい顔にあの時見えたのは私だけだったのでしょうか。あの事故以後の北野武は世界のキタノとして仕事を残し人を残す。世界中の映画人からリスペクトされているのです。
多大な借金を背負っても。
この一週間私も目指しています再びカンヌを、乞うご期待。