今年一月場所で東関部屋の力士、高見盛(36)が引退した。
私は大相撲大好き人間である。
ある年、とても親しい知人の娘さんの結婚式に招待されスピーチを頼まれた。
知人とは家族付き合いをさせてもらっていた。
私の娘と知人の娘さんが同じ歳であった。
そのめでたい結婚式に知人側親戚として当時の立行司木村庄之助さんが来ていた。
立行司といえば行司の横綱である。
私はスピーチでこんな事を話した。
人生を相撲に例えて嬉しい事、良い事つまり白星、嫌な事、辛い事つまり黒星がそれぞれいろんな形で生まれる。
共に白髪になって自分たちの人生は一生懸命頑張って8勝7敗、つまり一つ勝ち越しならよしとするか、こんな内容であった。
青森から出てきた高見盛が千秋楽に勝った。
それでも負け越しが決まっていたので現役を続ければ次の場所は幕下となる。
相撲界の習慣で場所中に引退を口にしたらその時点で引退となる。
ロボコップ高見盛は上半身の半分を白いテープで固めて千秋楽、歯を食いしばって取り組んだ。両手の拳を握りしめ、顔面を打ち、胸を叩き、気合いを入れた。突き合い、押し合い、そしてはたき込んで勝った。
入門以来残した戦績は263勝264敗であった。千秋楽で敗けを一つだけにしたのだ。
劇的な数字と言える。記録より記憶に残る名力士であった。
ミスタープロ野球長嶋茂雄の最後のホームランは444本だった。
ホームラン記録は次々と後輩に追い越されていったが、記憶に残る選手としての存在は未だ不動である。一生懸命思い切り力を出した者にしか記憶に残らない。
高見盛は正に精一杯やり遂げ精一敗の数字を残した。
彼は引退後差し出された色紙にこう書いた「不屈と不安 元高見盛」と。
楽してお金を儲けようなどと思ってはいけない。
何やらバブルのムードが出て来た。ふくらんだ風船は必ずはじけるのが必定である。
汗まみれ、泥だらけ、心も体も傷らだけの先にその日、その日の報酬がある。
相撲の取り組みとは、一番一番“一生懸命取り組め”から来ているだろう。
苦の後には楽があるやも知れぬが、楽の後には苦だけがしっかり待っている。
よし、もうひと頑張り、もう一番だ。相撲には取り直しがある。
人生にはやり直しがある。