こころザワザワする、珍しい人と出会った日は戸惑う日であった。
携帯電話を持っていない(正しくは使えない)私にとって公衆電話の存在はありがたい。
新橋駅か東京駅で通勤時は下車する。それ故どこにあるかは分かっている。
新橋駅に於いては品川寄りの改札口に出て右に向かいキオスクの売店斜め前に二台ある。他には東京駅寄りに降りて虎ノ門の方に向かうとTAKA-Qというメンズショップがある、その前はタクシー乗り場、そこからホップ、ステップ、ジャンプ位のところに公衆電話ボックスがある。
昨日午後五時二十四分ころである。
私は新橋駅キオスクの斜め前の公衆電話を利用した。
二台ある内の右の方に10円玉を三枚入れた。会社の人間と話すために。
あーモシモシ、◯△君はいる、ハイ!います、変わりますと話していると、プーンと異臭がした。
何だこの臭いはと見れば、これぞホームレスというおじさんが公衆電話のところで四つ持っている紙袋の中をゴソゴソ点検している。モシモシ、あ、◯△ですけど。
どーも、今日は家の方に用事があるのでこのまま帰るけど、明日の夜は…いまねえ隣にホームレスのおじさんがいるんだよといった。
おじさんが何をしたかというと、公衆電話のお金が出て来るところを指でこねている。
もしかしたら10円が残っているかもしれないからだ。
おじさんにたまには10円玉があるのと聞いたら、コックリと頷いた。
私は20円残ったのでそれをあげようと思ったがそれでは相手に失礼だ、100円にするかと思ったがお恵みはいらねえというプライドがあり失礼かもしれぬと思い、20円をお金が出てくる所に置いてそこを去った。
こころがザワザワしたので振り返るとおじさんはすでにいなかった。
今度会ったら一緒にコーヒーなど飲みに行こうと思った。
ユックリ人生を話したいし、四つの袋の中を教えて欲しいのだ。
さてとキップを買って改札を通り階段を上がってホームに立つと伊東行きが三分後に来るようであった。
ホームは六時前であったがかなり混んでいた。
行列の八番目に並んでいたら、私の前に並んでいた三人の女性がキャ、キャ、見て見てといってホームをフラフラしている人を見た。私だって見た。
何とそのおじさんは女子高生が身に付けるグレーのプリーツのスカートをはいている。
黒いロングソックス、頭髪はかなり薄く乱れている。
長袖の茶色のVネックのニット、顔は浅黒い。
はじめはフラフラと私の反対方向東京駅の方に行ったが、だらんと向きを変え私の方に向かって来た。ホームにいた50%位の人がモノ珍しそうに見ていた。
靴は確かかなり汚れた白いスニーカーだった。
伊東行きが入って来た。オッ、オヨヨ、私の後に並んで来たではないかい。
三人の女性は黙して語らずになっていた。
私のこころはザワザワ下北沢みたいになっていた。
これどっちに行くのと太いダミ声でいわれた、私は戸惑いながらもあっち、伊東だよといった。
おじさんは無言でまた東京駅方向に向かってフラフラと歩いて行った。
プリーツのスカートはかなり短かった。ふくらはぎがやけに太かった。
子持ちシシャモを思い出した。