一昨日の夜、私の乗った東京発「通勤快速」小田急行は、東京と神奈川を結ぶ橋の上で停車した。
九時十五分頃であった。
車内放送があった。
中学一年生の放送部員でも、これほどタドタドしいことはないだろう。
若い女性の声で、重く暗く小さく。
「ただ今連絡が入りました。京浜東北線で人身事故があり、この列車はどうなるか分かりません。分かりましたらお知らせします。列車は橋の上で停車してますので、ドアを開けて降りないで下さい。トイレは一号車、六号車、グリーン車内にあります。あっ連絡がありました。この列車がどうなるかまだ分かりません、列車が停まってすいません」
こんな調子で何度も同じことを繰り返した。
人身事故なら仕方ない。
きっとつらく苦しかったのだろうと思いながら、私は列車が動くのを待った。
橋を渡ればすぐ川崎駅なのだが、待つこと約30分。
「お知らせします。川崎駅に停車している列車が動くようです。この列車は「通勤快速」ですが、これから普通列車となります。川崎駅で停車しますが、いつその先へ動けるかはまだ分かりません、お急ぎの方は京急の改札口へ向って下さい」
列車はガッタンゴットンと動き出した。
川崎駅ホームにはごっそり人がいて、どっさり乗って来た。
車内はやけに暑い。
私の前に座っていた、男四十位、女性三十位はアサヒスーパードライの缶入りと、キリン氷結を飲んでいた。
ずっと我慢していたのだろう、女性がすいませんちょっとトイレに行きたいんですがと立ち上がったが、ぎっしり人がいて動けない。
かなりヤバイ風女性は悲しそうな顔をして座った。
私は人に酔うというか、人混みが苦手である。
息がイライラして来た。
当分動きそうもない。
で、ひとまず降りることにした。
女性に私が降りるからついてくればトイレに行けるよと言ったら、男、女性はほっとした顔になり、私が人をかき分けながら進む後について来てやっとこさホームに出た。
当分動きそうもない。
階段を上がって改札口の上の電光掲示板を見て列車が後三十分位は動かないのを確認した。
コーヒー店でもないかと思ったがない。
川崎駅は広くて大きい、人の数もすごく多い。
キオスクで夕刊でも買うかと歩き出すと、”直久ラーメン”という文字が目に入った。
オオ、直久ラーメンか新橋地下で、かつての銀座東芝ビル地下でよく食べた。
濃い醤油ラーメンで一時代を築いたラーメンであった。
夜寿し屋さんの座敷で会社の幹部と会議したが、その時、話しの内容が濃かったのでお刺身だけ食べて寿しは食べなかった。
腹が減ったなと思い直久に引き寄せられた。
店の中には立ってラーメンを食べる男たちで満員に近い、やけに旨そうだ。
気がつくと私は千円札を券売機に入れていた。
醤油ラーメン480円+味付け玉子100円。
二枚のキップを持っていざ店内へ。
お客さん7番ですから出来たらお呼びしますとおじさんは言った。
店内から外を見ると、トイレを済ませたあの女性が階段を降りて行った。
きっとずい分並んだのだろう。
7番のお客さんと声がかかったので、ラーメンを取りに行った。
直久おぬし久し振りだな何年振りかと箸を入れた。
週に一度は人身事故があるような多さだ。
濃いラーメンをすすりながら、気分は重かった。
直久の醤油ラーメンの味は変わってなかった。
何にしろ濃い味だ。
やみつきになるファンも多い。
列車は停車したままであった。
ある人に連絡して会うことにした。