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2017年5月31日水曜日

「非常食三段活用」


このところ東海道線の列車内でオッ、ヨヨッという人間を見かけなかったが、昨夜十時だから二十二時ちょい過ぎの小田原行きで非常食の男と出会った。

三十四、五才位だろうか。
かなり混んでいたグリーン車の後ろから四番目の窓際に座っていた。
窓のところにサントリー角ハイボールロング缶があった。
私が座るとギョロっと顔を飛ばした(ガンをつける)生意気なとお互いに思ったのだろう。空いている席はない。
新橋から乗ったのだがもしかしてこの若者とモメるかなと思った。
私が動くたびに顔をチラッと動かした。ウットウシイなと思った。

品川駅から人が乗って来て私の横に初老の男が立った。パッコンと音がした。
何!と窓際の男を見ると、乾パンの缶詰をプルトップで開けていた。
プーンとなつかしい乾パンの臭いがした。角ハイボールをグビッと飲むと乾パンをパキッ、ポキッ、ボリボリと食べ始めた。つま味が乾パンなのだ。

これが結構ウルサイ、ウルセイ、ウルセインダヨォの気になる三段活用となる。
食べるたびに乾パンの粉が床に落ちる。時々缶ごと口にして数個を一気に食べる。
角ハイボールを飲むのと同じ姿で乾パンを口に入れるのだ。
何だいこの若いのはと思った。

パコンと小さな音がした。やはりプルトップで缶詰を開けた。
“真いか煮付”の缶詰だった。プーンといかの臭いがした。
円筒を4分割にした円形平体の形の中にいかが輪切りにされ、その中にゲソ(足)が入っている。私はいか大好き、思わず目が行ってしまった。
いかは、クサイ、クサイゾ、クサインダヨォの三段活用となった。

乾パンといかの缶詰、ローソクとか懐中電灯を持っていたら、非常事態だなと思った。新聞を読んでいた私のヒジに男の体が触れた。
ムカッとしたら、かわいい声でスイマセンと言った。
顔をよく見ると小池徹平にそっくりの童顔だった。
乾パンといかウマイと聞いたら、食べますかと言った。
いらない、いらないよと言った。

列車は無言の乗客をしこたま乗せて川崎駅に着いた。
一人も降りず、三、四人が乗って来た。
乾パンを食べる乾いた音と、いか煮付缶のアナーキーな臭いが、列車の後部を支配していた。横浜駅を出ると男はスマホを出してケタケタと笑っていた。
気がつくと横に立っていた初老の男は前方の席に座っていた。
まてよオレはあの男よりきっといくつか年が上だなと思った。

家に帰ったら備蓄の乾パンを食べようと思った。
ついでにノザキのコンビーフも。きっといい夜になる。
ヤバイ、ヤベエゾ、ヤバインダヨの非常食三段活用だ。

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