全速と喘息の関係は何もない。
ただ私が乗った東京発小田原行の湘南ライナーが全速でレールの上を走っている間中、私の隣に座っている男がひどい咳き込みだったのだ。
湘南ライナーは東京→品川→大船→藤沢→辻堂の順に停まる。
新橋、横浜、戸塚は通過となる。
「キリンのどごし生」と細切りチーズとつま味サラミを持ったその男は40才位だろうか、ゴホン、グフォン、ガァフォン、ギャホンをずっとしながらビールを飲み、サラミをかじり、細切りチーズを口に入れる。
と同時にまた、ゴホン、グフォン、ガァフォン、ギャホンを繰り返す。
湘南ライナーは全席指定のため移動できない。
男はじっと目を閉じながら同じ動作を繰り返す。
間は隣で同じ動作をされるとイライラが生じ、イライラが凝り固まり、気が付くと自分が制御できなくなる。自制心との戦いとなる。
日経トレンディという月刊誌を持っているところを見ると堅気の会社員なのだろう。
ゴホンと来たら龍角散というコマーシャルがあった。
のど黒飴になんで瀬川瑛子が出ているのだろう。などと思いつつ気を紛らわせる。
グフォン、ガァフォンときたら、イソジンでうがいをとか、金太郎飴を思いつつ気を散らす。ギャホンときたら列車は大船に滑り込んだ。
ど、ど、どっと男は日経トレンディを目の前の網の中から引っ張り出し下車して行った。
私は自分がずい分と我慢強く大人になったことを知った。
自制心がこの歳になってやっとこさ効いて来たのだ。
あのヤロービールを飲み放し、チーズの細切りとつま味サラミは食べ放し、空缶と空袋を編みの中に突っ込んで下車しやがったのだ。全速で出て行ったところをみると、喘息じゃないなと思った。
ノドチンコにきっとチーズの切れっ端とかがへばりついていたのかもしれない。
やっと新聞を読む気になった。
自民党単独で300議席超、民主東京1勝24敗と大見出しが目に突入してきた。ファクションと大きなくしゃみが出た。どこかで誰かが私の噂をしているのかもしれない。
これを書いているのは12月5日午前三時五十一分三十七秒だ。
午前四時からキラリトギンザ3階oluha(オルハ)ショップを取材してくれたのがON AIRされるからだ。室外機がイカれて暖房がつけられない、足元がかなり寒い、雨がポットン、ポットンと落ちている。月日は全速で走り過ぎていくのだ。
師走とはよくいったもんだ。