何故か列車は空いていた。昨夜新橋から熱海行に乗った。
八時四十四分、年の瀬そして大の苦手の熱海行、きっとグリーン車も座れないだろうと覚悟して乗った。
ところが、アレ、アレ、な、なんだと思った。酔客はいない。why、何故。
グリーン車の中にはわずか十数人ほどしかいない。
そうかみんな未だ飲んでいるのだ。で、ポッカリと空いていたのだ。
きっとそうに決まっている。
苦虫を噛みつぶしたような顔の五十代中ほどの男、笑ったまま寝ているような六十代後半の男、ポキっと折れてしまいそうな極細ジーンズをはいている三十代前半の女性。
何かを考えているだろう、ポケーッとしているつまんない顔の四十代中ほどの男。
そんな顔を見ながら列車の真ん中位に座った。
暑い夜だ十二月の終わりというのに。
マフラーをなくさないようにバッグにくくりつけた。みんな疲れている。
私だって疲れている。
新橋駅前ビル地下で朝から何も食べてなかった腹に、冷酒一合とふぐのヒレ酒一杯。
酒はスキッパラに飲むのがいちばん旨い。「橙」という店は魚が旨い。
早い、安い、中国人の店員さんが感じいい。
親切で思いやりが日本人以上にある。
突然呼び出し打合せに来てもらった後輩に好きなもん食べてという。
銀だらの煮付け、冷奴、イワシ、サバ、マグロの刺身三点セット、肉じゃが、きんぴらごぼう、浅利の酒蒸しを二人で仲良く食べた。
後輩は、色っぽいんだよな、絵も上手い、でもどうしようもないところがあるので別れたという。でもかわいくてとてもモテる元彼女の話をビール一杯飲みながら話してくれた。二十五才だとか。別れても好きなヒトという歌のようであった。
後輩は三十代ソコソコ、今売り出し中のアートディレクター&デザイナーだ。
ツーといえばカーと私の意思を一晩でカタチにしてくれる。
間違いなく日本を代表するクリエイターになるだろう。
美術、映画、写真、音楽、読書、展覧会鑑賞、講演セミナーへの参加。
とにかくよく勉強している。昨夜はずーっと元彼女の話をしていた。
若いのはうらやましいなと思った。
男はやはりいくつになっても恋をしてなければ、パサパサな男になってしまう。
〆にこれぞおにぎりというのを二つ頼んだ。
私はシャケ、後輩はおかか、おトーフとワカメのお味噌汁、それにお漬物ですべて完了。
中国美人の若い女性が、ハイアリガトゴザマス、マタキテクダサイ、ヒヤザケ、ヒレザケマチガエテゴメンネと言った。そう私は“冷酒”と言ったら“ヒレ酒”が出たのだ。
まあ~腹の中に入れば酒は酒だ。
知人のボクサーの引退試合に行くはずだったが、間に合わず不義理をしてしまった。
もう殴ることも殴られることもない。但し人生というリングの上での戦いは続く。
前途に幸多からんことを祈る。
福原力也さんが自分が果たせなかった世界チャンピオンを育てるだろう。