2002年サッカーワールドカップ世界最強を決める試合の日に、世界最弱を決める国際連盟公認の試合が行われていた。場所はヒマラヤ山間の王国ブータンである。
試合は世界ランク202位のブータンと世界ランク203位のモントセラトである。モントセラトは英国領の火山島面積102km²、小豆島より小さく伊豆大島より大きい。人口8,995人。ブータンの首都は標高2320m。
モントセラトはカリブ海の民、当然試合となると酸欠になった魚がアップアップする様になった。しかもチャンリミタン競技場は多摩川の河川敷と同じ様なもの11人の内8人が高山病となった。
前半は0-1と互角であったが後半はフラフラとなり結局0-4で敗退。予想通り地球で一番弱い国となった。悔しかった、せめてあと二週間早く着ていればとヘッドコーチが言ったとか。
こんな楽しい話を言語の機関銃、ジョークの刺し綱、言葉の吹き矢、井上ひさしさんのエッセイ『ふふふふ』で知った。
こんな試合なら何を置いても見てみたいと思った。最強もいいが最弱はもっといいものだ一方、2006年最強を争ったフランスとイタリア戦、あの有名なジダンの頭突き一発があった。ファイト一発はリポビタンDだが、この一発はイケマセンDであった。イタリア、マテラッツィがジダンをシャツの上からしつこく押さえ込んでいた、ジダンがそんなにシャツが欲しいなら後でやるよと言ったとか。
そこでマテラッツィがこう言い返した。
「テロの売春婦の息子め、くたばっちまえ」
「あるいは、おまえのシャツじゃなくて俺はお前の奥さんのシャツを脱がせたいんだ」
世界各国の読唇術の専門家が分析した。ジダンは頭に来た、だから頭を出した。
どーんと一発。世間では頭突きと言う。
結果はPK戦でイタリアの勝ち。後味の悪い試合となった。最強と最弱、フェアプレイとアンフェアプレイ。勝者には何もやるなと言ったのはヘミングウェイだ。
世の中あまりにも勝つだ負けるだばかりとなった。値下げの全力競争だ。私たちの国は大切な何かを忘れてしまったのかもしれない。自分たちの作った商品への誇り、プライド、頑固な姿勢だ。値下げで日本一、世界一になっても所詮はバーゲンセールの成功者だ。
ブータンとかモントセラトの選手、サポーターも全力を出しつくした。正々堂々戦った者だけが生む皆こぼれんばかりの笑顔であったという。
最強という言葉にあまりに支配されていた自分を反省し今後は最弱を目指す事にしたいと思った。ジダンがモントセラトのコーチになったり、マテラッツィがブータンのコーチになり子供たちに夢を与える。こんな光景を目にしたい。勝者にやるべき事はたくさんある。私は堂々たる敗者であり続けたい。
次のW杯アフリカ大会、最弱のドラマを見に行きたいと思う。
エメラルド色の海の上でサッカーをしたり、真っ青な空中でサッカーをする事だって不可能じゃない気がする。