壁の向こうから猫の鳴き声がする。
壁の中からかと思いジッと壁に耳を当てるのだが猫がいる気配がない。
愚妻に、オイ猫の声が聞こえるだろと聞くと、お化け屋敷じゃないんだから、お隣の猫でしょという。
この一週間ほど壁の向こうから確かに猫の声がする。時々大きく鳴く。
おもちゃの猫の声のようである。
ふと忘れた時に突然、ニギャ〜、ニギャ〜と三、四度鳴く。朝早くと深夜に。
怪談話の稲川淳二が好きそうな鳴き声なのだ。
鎌倉に住む私の長姉が寝ていたら、朝足先がヌルヌルするので掛ふとんをとったらなんと子猫が数匹生まれていて、長姉は言葉を失い腰が抜けてしまったことが思い出された。
だが子猫の声でない。
昨夜、正しくは午前一時三十二分、ニギャ〜、ニギャ〜と壁の向こうで猫が鳴いた。
エドガー・アラン・ポーの名作スリラー「黒猫」を読んだ夜のようであった。
ヨシッと思い懐中電灯を持ち出し外に出て壁のところに行き、天地左右上下に明かりを動かした。
足もとにアルミのバケツがあり、その中に遊び終わった花火がたくさん入っていた。
で、そのバケツを手に取った時、ウギョ〜、デケェ〜一匹のガマガエルがバケツの後で私の顔を見上げていた。灯りをあててもピクリともしない。デカイ。
堂々たるガマガエルは仏様の使いだと聞いたことがある(?)。
お前よく来たななどと声をかけるがピクリともしない。
猫はきっとこのガマガエルに向かって泣いていたのだ。
アッチ行って、ギモ゛ヂワルイからと。
朝起きたらもう一度見てみようと思った。
何かいいことがあるかもしれない。いや待てよ、仏様が迎えに来たのかもしれない。
どっちだっていい。雨もまた楽し、朝が楽しみだ。