裏社会に「おりゅう」という言葉がある。
「お流」つまりこの話、その話は「水に流す」という意味である。
別に「飲み込む」というのがある。
分かったその話はオレも飲み込むからオマエも飲み込めという。
男を売る世界ではこの約束を外すことは許されない。
町奉行遠山金四郎は桜吹雪の刺青を見せ片肌を出して、この件この遠山金四郎がしっかりと飲み込んだ、オマエラも分かったな、娘およねの件は何もなかったんだ、他言無用口にした者は打ち首だ。
なんて言って父を思い母を思い、妹、弟のために、ダンゴとか薬を盗んで罪を犯した娘およねを助けた。
大岡越前守なら更に、このような事が起きるのはご政道に間違いがあるからだ。
長屋に住む父と母は長の病であり、長屋みんなの力を借りている。
八歳の娘は腹を空かせた五歳の弟のために、店先にあったダンゴ一本を手にしてしまった。
薬問屋ではずっとお金を払っていないので薬が貰えない。
ちょっとした隙きに薬を手にしてしまう。
手代はこの盗っ人めと怒るが、大岡越前守はその店を怒る、人の病でおのれが私腹ばかり肥やすなと。向こう三年罰として娘およねを店働きとせよ。これなら文句あるまい。
娘およねは働いて薬代を返せ、店は娘を働かせ人手とせよ。
娘およねよ、父、母、弟を思う心はほめてつかわすが、盗みはいかんのだぞとなる。
人情のない社会が今の日本だ。
自分さえよければいい、わずらわしい事に関わりになりたくない。
自分たちにもしかして害が及ぼす前に、針小棒大にネットで拡散させる。
あることないことを盛る(つくる)。
我が国はこのアホでバカで、ヒマで、イジワルで、話を盛り付けるネット住民によって支配される。とっつかまえてブチ倒してやりたいと人は言うが相手は分からない。
私の知人の子が今警察に泊まっている。
高校一年の娘が友人と共に万引きをした。
娘はグミ一袋とカラーボールペン一本。
それを命じた娘は大人向けアダルト雑誌とヘアカラー。
命令した娘の父と母は、ウチの娘は命令しただけと言い張る。
ガソリンスタンドを経営していて充分に金持ちだ。その娘は万引きの常連である。
グミ一袋を盗まされた娘は同じ服をずっと着ている。
すでに学校中のメールには話がグミ五十袋のようになっている。
中にはレジから金を盗んだとか話を盛りだくさんにつくっている。
先週金曜日の話である。相談を受けコンビニのオーナーに詳しく説明した。
オーナーは苦労人でいい人だった。命令を外した娘には、保護観察がついていた。
自室に閉じこもりメールで子分たちを動かす。
家に行けばちんまい体にブルーグレーのジャージ姿。
何でと言えば、ババア(ママ)やジジイ(パパ)が大嫌いなので困らせてやるんだと、ギャーギャー叫んだ。聞けば十六歳(私学在学中、父親は不明)妊娠四ヶ月だという。
オジサン話が分かるじゃんと言われた。
ウチんとこのババアはいい年こいて派手な下着つけて、ジジイはババアのいいなりでサイテーだと言った。
弟が私みたいにならなきゃいんだけどと言いながら、私に缶コーヒーを出してくれた。
この子たちは決して嫌な思いを「お流」にしてくれない。
ずっとずっと憎悪は沈殿している。今度一緒に映画を観に行こうと約束した。
ウチにはさあ、お金があり過ぎんだよ、だから何でもお金で済ませる。
三千円も四千円もする弁当を学校に持って行ける訳ないでしょう、と言った。
「おりゅう」にできない話だった。その娘は、その弁当を捨ててしまうと言う。