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2018年2月22日木曜日

「ある歌人」


絵に描いたような幸せは、実は絵にも描けない。

生きているのがまるで地獄のようだと思っている内は、実は未だ地獄の中ではない。
ある人は言う、大変だ、大変だと言っている内は大丈夫、本当に大変な時は大変という言葉すら出ない。
一人の歌人のドキュメンタリー映像を見た。
早稲田大学文学部を出たその人は、ある会社に入社するが、売上げの数字に追われる日々に耐えられなくなり、退社してタクシードライバーになる。
家には要介護(3)の母親をおいて。
すでに認知症になっていて一人だけにしておくには心配である。
が稼がなければ生きていけない。
五十歳を超えたであろうそのタクシードライバーは、クルマの中から見る、渋谷、新宿、銀座など夜の人間模様や、人間の生態を短歌にしてメモに書く、その短歌が、歌壇で認められ一つの賞を受賞する。
だからと言ってタクシードライバーの日常が変わる訳ではない、母親のために食事を作り、トイレに行くのに間違いがないように導線のロープを張る。
母親は誰も隣りにいないのに何かを語りかける。
タクシードライバーは夜が稼ぎ時、なかなか眠らない母親を一時間以上かけて眠りにつかせる。
ため息ともつかない息をつく、街には雑踏と雑然があり、酔態と俗悪がある。
無言の人々が駅の改札口に向い、その横のビルの中では、フィットネスやランニングをしている。
若い男女は抱き合いキスを重ね、怪し気な中年男は、派手なコスチュームの女性をホテルに誘う。ネオンの花が咲き乱れる中、タクシードライバーは、絵にも描けない世界を歌にして書き続ける。母と息子その血の繋がり、現実は逃避を許さない。
お母さん行ってくるからねとの声をかけるも、母には息子の愛は認知されない。
無言ほど心に刺さる言葉はない。人間ぜいたくを言ったらきりがない。
小さな幸せを大きな幸せと感じて行こう。



※画像はイメージです。


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