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2021年12月11日土曜日

つれづれ雑草「メン食い」

「悪女の深情け」という言葉がある。離れたくても離れられない。別れたくてもどこまでもついて来るのだ。これと同じような食べ物がある。ひとたびこの食べ物をつくると、三日三晩家中がその魔性のような香り、臭いが漂いつづける。その名を「ペヤングソースやきそば」という。人間はタレ物の香り(ウナギ、ヤキトリ、磯辺焼き)などにひとたび出会うと、その香りに引きずり込まれる。と、同じようなソースやきそばとか、たこ焼きなどのソース系の香りから逃げられない。この女はヤバイ、マズイ、イケナイと思いつつもジャンクな味を思い出す。美人は三日で飽るというが、悪女とか性悪女はその逆で、すこぶるデブと思っていたのが、湯上がりにゾクッとするほど色気があったり、顔中にマスクをしとけばと思っていたのが、スッピンになり日本酒を一杯二杯とやっている内に、「黒田清輝」の描く美人画みたいになる。ゆかたの間から豊かな乳房の谷間を見せていたりしつつ、今日は暑いわね、などと言いながら団扇かなんかでソヨソヨ風を起こされると、身の危険を感じるはずだ。ペヤングソースやきそばは、実にそんな食べ物なのだ。東海道線の車中かなんかでこの食べ物を食べている豪傑がいたが、コロナ禍となりそんな豪の者は消えた。ケンタッキーフライドチキンと、吉野家の牛丼(つゆだく、紅しょうが大盛り)そしてペヤングソースやきそばは、ある日ある時突然食べたくなる。昨日朝千葉県の蘇我という所で葬儀に出席し、午後二時出棺、二時三十三分の久里浜行の横須賀線に乗る。快速で約二時間だ。鎌倉で親愛なる友人と、グラフィックデザイン界の巨匠井上嗣也さん、高弟の稲垣純さんと待ち合わせをしていた。「今道子」さんという空前絶後、説明不可能の写真家の展覧会を美術館で開催しているのを観て、その後に食事をすることになっていた。私は葬儀出席があり展覧会は一緒に観れなかった。一月三十日まで開催しているので近々観に行く。会場には丁度今道子先生がいらしたとか。鎌倉小町通りに古くからある、卯月という炉端焼きの店を予約しておいた。カウンターの目の前にはいろんな食材がある。こはだの酢の物、きぬかつぎ、ヤキトリ、ナスの煮物、揚げ豆腐、ブリの照焼き、サンマの開き、ギンナン、などをみんなで食し、三人は釜めしで仕上げた。私は前日に千葉に泊るために移動、ビジネスホテルの小部屋に泊まって十一時からの葬儀へ。そして鎌倉へだったので、電車に乗りくたびれて釜めしがうらめしいが食べられなかった。久々に巨匠にお会いして、数々の受賞のお祝いを言った。御三人は満腹だとなりお茶を飲んでいざ帰宅、大船駅で別れて私は東海道線へ。さてさて家に着くと、突然ペヤングソースやきそばを食べたくなった。確か一個あったはずだと思った。近所に住む息子が大好きなので立ち寄った時に食す。で愚妻が買い置きしているのだ。腹が減ったのでペヤングをつくってと言った。えっ鎌倉で食べてきたんじゃないのと言った。きぬかつぎとヤキトリ四本を食べたが主食は食べなかったんだよと言った。着替えている内にプーンと臭ってきた。魔性の臭いが。そして一気にペヤング・ザ・ワールド全開だ。ちりちりのメンにヘナヘナのキャベツ、ふりかけの中の少しばかりの紅しょうが、(あまり紅くない)気持ちだけのキザミノリ、これが絶妙なのだ。あえて割り箸で食べるのがコツ。白い長方形のカップの中のメンをグルグル、グルグルかき回す。たまんない香りとなり心が踊る。縁日でヤキソバに行列ができるのはこれと同じ。ジャンクな気分が疲れをとってくれる。スーパーやコンビニに行くと、でか盛りみたいなでっかいのもある。いつか挑戦してみたい。ニュースを見ると日大の学長が、ドンである田中理事長と永久に決別する、なんて今頃スットコドッコイのことを言っている。ドンは現在クサイメシ食っている。かなり泣きが入っているようだ。私はペヤングソースやきそばとは決別しない。毒マンジュウをゴッソリもらっている役人や政治家たちは、落ち目のドンにバックレる。故松尾和子に誰よりも君を愛すなんて歌があったが、誰よりもペヤングを愛すだ。但し年に二、三回でしかない。性悪女とはバンタビ(度々)会ってはいけない。という法律がある(無いか)。私はその手の話はずっと昔に卒業したが、世の中には蟻地獄に入って出るに出られない者もいる。やきそばのメンと違って、面食いという不勉強者がいる。見た目重視なので、きっとメン食らう。化粧ばかりしていて、家のことは何もできない。おにぎりなんて絶対にぎれない。おいなりさんなんか作り方も分かんない。街角インタビューかなんかで若い男に、どんな女性と結婚したいですか(?)なんて聞くと、そうですね、やっぱ肉じゃがを作れるヒトとか、お弁当を作ってくれるヒトなんて応える。中にはオフクロみたいにヒジキとかキンピラゴボウが作れるヒトなんて応える。見た目いいヒトはまず期待できない。ペヤングソースやきそばを自分で作って食べてよで終り、とまあそんなことを思いながらペヤングソースやきそばを食した。今度鎌倉へ行ったら、釜めしを食べるのだ。「フィリア今道子 philia ―KON Michiko」神奈川県立近代美術館別館で大開催中。一度観たら一生忘れられない。日大のドンにソースやきそばを差し入れしたら、きっとその香りで東京拘置所は大混乱となるはずだ。
                               (文中敬称略)



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