「夢から醒めたら悪夢だった」とか「長いトンネルを抜けるとそこはもっと長いトンネルだった」なんて思い切り暗い話をする男に恋をした女性がグイグイ焼酎を飲んでいます。
失恋というか詐欺というかは別にして大金を貸してしまったというか、あげてしまったというか、まあ私からいうと売れない物書きのお得意の手口に引っかかってしまったという訳です。
36才にもなって文学少女の様な悪い性格から抜け出れない女性だったのです。
基本的に女性は薄暗い男が好きなんです。BARのカウンターの片隅で一人寂しそうにトリスの水割りなんてチビチビ飲みながら伸びた髪なんかを掻きむしる。
毎日、毎晩、同じ時間、同じ席、そこが空いてないと、又、来ますなんて帰って行く。他の席が空いているのに。
ある夜急に雨が降った、女性は店が終わり外へ出ると路地の角にビニール傘を持って立ついつもの男。
こんな三文小説みたいなのが実は実話だったのです。
ベッドの中で見た夢が醒めた時、女性は悪夢の様な長いトンネルの中に入って行ったのです。
その女性が八年ぶりに栃木刑務所から出て来たのです。男は土の中でずっと眠っています。