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銀座日航ホテル裏、六時十五分頃。
目の前に大行列があった。
何だこりゃと思ったが直ぐにわかった。
「俺のイタリアン」という店に来たお客さんたちだ。
今どこでも「俺のイタリアン」は大行列。
付和雷同性野次馬根性ミーハー的暇人が一時間も二時間も並んでいる。
元ブックオフの社長だった人間が変身を遂げたらしい。
が、人間の中身は変わらない。
日航ホテル周辺は六時を過ぎた頃から一気に活発化する。
ホステスさんや黒服たちが時来るとばかり出て来るからだ。
「ネエー来てよゼッタイよ」と叫びながらつんのめって歩く和服の女性は携帯二台を持って血走っている。
ピンクのロングドレスの女性は建物の壁に寄りかかって煙草を吸いながら懸命にメールを打っている。ボーンと胸の谷間を出したキンキラのネオサインみたいな女性は、小役人風のオッサンと腕を組んで日航ホテルのカフェへ入った。
私はある出版社の編集長と大学の女教授二人と会う約束をしており地図を片手にウロウロしていたのだ。偉い人に会う時はあまり早く行ってはいけない、遅刻は許されない。
約束の時間の十分位前に行くのが決まりだ。
七時に会う予定なので早めに行き、店の在り場所を確かめしばし銀座の動きを観察していたのだ。「今美容院に向かっているの、◯☓堂のカフェルームで待ってます、待ってまーす」と携帯にお辞儀している和服のオバサン。
黒服たちが集まっては何やら情報交換をしている。アチコチで。
銀座はみるみる活動を開始する。
花屋さん、氷屋さん、おしぼり屋さんが行き交う。
七時から十一時半までの四時間半が勝負なのだ。
ウァーでっかい、黒い肌の女性が銀色のドレスを着て歩いて来た。
手にブリックパックの飲み物を持ち、小さなストローで吸い込んでいる。
こんな銀座が大好きなのである。場違いなすしざんまいのネオンが光だした。
マツモトキヨシの黄色い看板が銀座に似合わないと白色に変わっていたのに気がついた。俺のイタリアンの行列は更に長くなってきた。
後一年経ったら行列は消えているだろう。
銀座は人間を磨く道場であるが、人間の浮沈が一夜にして決まってしまう怖い所でもある。ネオンの数だけママがいて、女将がいて、主人(オーナー)がいる。
夜の数だけドラマがある。男と女、ブルースの街なのだ。