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神が宿ったのか、底抜けに美しい笑声、美しい歯並びの真っ白い歯、ピンクと白の帽子、ピンクのマラソンウェア、サングラスの女性が走る。
早い、どこから見てもスポーツランナーだ。
女性の名は「道下美里」さん37歳。
彼女には男性の伴走者がいる。伴走者とは50cmの赤いロープで結ばれている。
目が見えないからだ。小学生の頃に症状が出た。
一万人に一人という後天性の目の病だ。
今はうっすらぼんやりと輪郭がわかる、結婚しており料理もちゃんと作る、明るいとかえって見えにくいので灯りを暗くし手探りで料理をする。
バイト先で知り合った男性と結婚した。
山口県下関の実家は祖父の代からの書店であったが店を閉めた。
父と母と姉が涙を流しながら売れ残った本を整理する。
道下美里さんは視覚障害者のフルマラソンの記録を持っている。
ブラインドランナーは伴走者への指示と共に走る、少し右へ、少し左へ、給水所はもう少し、ほら◯△の花、◯□の木の香りがして来たでしょ、などと声をかけてもらって走り続ける。
白い歯が笑う。汗がこぼれる。
早い、力強い、なんて美しいランナーなのだろう。
毎月エステに行って、高価な化粧品を身につけて、どんな高価なファッションを身にまとっても、道下美里さんの美しい姿にはかなわない。
女性の真の美しさは心の美しさである。伴走者の男の人には二人の子どもがいる。
長男と次女、その長男は知的障害を持っている。
いつしかボランティア精神が芽生えマラソンランナーであった経験からブラインドランナーの伴走者となり、道下美里さんと共に新記録達成を目指す。
ホラ、ツバキの香りがして来たでしょ、といいながら二人は走る。
青い空、白い雲、行き交う樹々も二人を応援する。
ガンバレ、ガンバレ、50cmの赤いロープは一万人に一人という後天性の目の障害を持つ女性と、先天性の知的障害の子を持つ親とをしっかり結んでゴールした。
自ら持っていた記録3時間9分55秒を短縮し、新記録は3時間6分32秒。
健常者のマラソンランナーと殆ど変わらない。結びを外し猛然と走りだした。
道下美里さんは家族の待つ中に飛び込んで行った。伴走者が追いかけ抱き込んで止めた。道下美里は伴走者の男性に心からの感謝の言葉を何度も何度も言った。
十万に一人の人、百万に一人の人、何百万に一人の人という難しい病気を抱えている人々は決して諦めない。ところが五体満足の人ほど諦めが早い。
何故かと考えるとやはり「愛」があるか無いかではないだろうか。
人間は決して一人では生きられない。
ゴールの先に「金(カネ)」を求めて走っていると大切なものが見えなくなってしまう。「金」は決して金メダルではない。あなたの側にきっと50cmのロープで伴走を求めている人がいるはずだ。あなたを必要としている人がいるはずだ。
「目指せよ愛を」(あるドキュメントを見て)