「きのうはどこにいたの」「そんな昔のことはおぼえちゃいないよ」「あしたはどこにいるの」「そんな先のことは分からないよ」こんなやりとりを男と女がする。名作「カサブランカ」の中のシーンだ。ピアノから流れる音と、男と女のシャれた会話。この頃の映画には、いい男といい女が会話を楽しむ作品が少なくなった気がする。トゲトゲしかったり、乱暴だったり、切実すぎたり、刹那的だったり、絶望的だったり、だったりが多い。今日もったり目が覚めて、そういえば昨日家を出る時、左足から出たか、それとも右足だったかと思った。風呂に入った時、湯船に左足から入ったか、それとも右足だったかと思った。昨年の9、10、11、12の月、そして1月2月と、息を殺しつづけるようなテーマを背負ってきた。息を殺すとは、“自己”を押し殺すということだ。プロフェッショナルと、プロフェッショナルの間に、アマチュアがからむと、総じて事が混乱して、誠意ある人々に傷をつけることとなる。私は混乱を治めねばならない。私は徹底的な性善説者なので、何びとも仕方なし、“あとはオレの仕事か”としてきた。但しこれはヒジョーに疲れる。私はきっと徹底的な偽善者なのだ。その時、その場面で解決策は誠意を尽くすしかない。それは結果的によかったり、悪かったりする。定食を食べる時、味噌汁が右上にあると、私は左横に移動する。難問を解決するということは、こんな気分だ。それが嫌だと言われれば、味噌汁を右上にするのだ。次はごはんの位置とか、おかずの位置、焼きのりやお新香の位置だ。昨日本屋さんで「キネマ旬報」の2月号(下旬号)を買った。2022年度のキネマ旬報ベストテン特集号だ。“キネ旬”と称されるこの映画専門誌は、映画界にとっていちばんの権威とされてきた。私、並びに私の映画友だちの予想では、「流浪の月」か「ケイコ 目を澄ませて」であったが、結果は第一位「ケイコ 目を澄ませて」、第二位「ある男」第三位「夜明けまでバス停で」第四位「こちらあみ子」第五位「冬薔薇(ふゆそうび)」第六位「土を喰らう十二ヵ月」「ハケンアニメ!」「PLAN 75」第六位は三作品が投票同数、第九位「さがす」「千夜、一夜」二作が同数であった。これは映画人が選んだ順位である。一般人(映画ファン)が選んだのは、第一位は同じだが、第二位からはずい分違う。大手映画会社の作品は三作のみ、あとはインディーズ系だ。新進気鋭の監督が続々と出現する。撮影機材の進化により、少数短期間での作品づくりができる。インディーズ系は低予算なので、アレコレぜいたくは許されない。大手の作品だと、監督への注文が多くなり個性が失われてしまうが、インディーズ系は、オレはオレのつくりたいものを作るんだ、が主体となるので個性が作品に出る。かつては興盛を極めた日本の映画界も、今では映画文化後進国なので、韓国や中国、インドに比べると、ケタ違いだ。インディーズ系だと、一本の製作費は1000万~3000万位が相場だと思う。インドの大ヒット作「RRR」は、製作費約100億円だとか。アメリカのオンボロ兵器を買う予算を、映画文化促進へ使えといいたい。私と私たちが予想した「流浪の月」は李相日監督、ベストテンに入っていないなんて信じられない。まさか、だったり、だったりを忖度してないことを願う。ジュリーこと「沢田研二」が「土を喰らう十二ヵ月」で、主演男優賞を受賞した。うれしい、とてもうれしい。ジュリーは自分の老いていく姿をさらけ出している。美男子から太ったオジサン、そしてオジイさんになる姿を飾らず出す。映画界でケンカが一番強いのは、故渡瀬恒彦と言われた。音楽界では、沢田研二が一番根性者と言われてきた。軟派でなくバリバリの硬派である。あの「田中裕子」が惚れたのはよく分かる。さすが田中裕子、男を見る目が高い。「土を喰らう十二ヵ月」は、作家水上勉の名エッセイを基にしている。沢田研二が水上勉役を演じている。人里離れたところで、畑を耕しながら、自分で種をまき育て、収穫した野菜で自作の料理を作る。編集者(松たか子)が訪ねて来ると、共に食す。料理の監修が土井善晴(料理研究家)だ。確か水上勉は若い頃お寺で寺小僧として修行していた。そして、小説「雁の寺」で名声を得る。精進料理に詳しいのだった。ジュリーこと沢田研二の受賞の言葉にしびれた。こういう賞とはもう一生縁がないと思っていました。萩原健一のようなすごい人が獲るものだと感じていたんです。ジュリーとショーケンはライバルであり、共に認める男と男、天才と天才だったのだ。沢田研二と田中裕子は、「男はつらいよ」で共演して結ばれた。一度田中裕子さんと仕事をさせてもらったが、それはもう“魔女の如し”であった。その魔女が沢田研二を終生の相手に選んだ。田中裕子に出会って、心を奪われない男はいないだろう。私はジュリーの時も好きだったが、たっぷり太った白髪の沢田研二のほうが大好きだ。男と女はいろんな、だったり、だったりの過去を重ねて、共に歩いて行く。夫婦とは、だったり、だったりの積みかさねである。そもそも、もとは赤の他人なのだから。若者よもっと恋をせよ、愛に燃えて、火となり炎となれ。♪~ Oh, please 君だけに 君だけに……だから一度だけ 君の君の あたたかいハートに……タイガースのジュリーが歌ったこの曲を、好きになった相手に向って熱唱すればいいんだよ。女性はメンズエステに通っている男などは、イケマセン。今日は左足から外に出た。その先にだったり、だったりが待っている(文中敬称略)
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