「せかいのおきく」に会うために、正しくは観るために、私は探し歩いた。三月二日午後三時三十分開映の試写会を目指して。過日尊敬する、というより仰ぎ見るグラフィックデザイナー「葛西薫」さんから電話をいただいた。私がつくるグラフィックデザイン及び広告デザインの番付では、横綱は四人である。浅葉克己/井上嗣也/葛西薫/副田高行の四氏だ。(アイウエオ順)最高峰の作品をコンスタントに世に出し、後進を育て、日々研鑽、練磨をつづける。人間的にもすばらしい四氏だ。私などは番付外である。全日本広告界の頂点に立つのは、唯一無二の存在として、仲畑貴志氏がいる。この人の足もとには何人かいるが、未だ及ばない。横綱四氏はそれぞれこの人と仕事を重ね、名作を生み現在に至る。四氏共に大読書家でもある。(ヒト前では読まない)―― もしもし、葛西ですが実は阪本順治監督、黒木華さん主演の映画に参加したんですよ、すばらしい映画なので、マスコミ試写会の葉書きを送りましたので、時間があったらぜひ観てくださいとのことであった。葛西氏は映画のポスターの名作も多い。その才能とギャラは当代一(?)の写真家「上田義彦」さんが監督/撮影した「椿の庭」という作品のポスターやカタログもすばらしい。鎌倉が物語の舞台、主演は「富司純子」さん。2021年公開した、まるで動く写真集のような美しい作品なのでJ:COMやDVDでぜひ観てほしい。さて、「せかいのおきく」の試写会場は“京橋テアトル試写会”中央区京橋二丁目であった。銀座二丁目の私の仕事場から歩いて二十分位だなと思った。方向オンチなのでイロイロお世話になっている人が地図を拡大して渡してくれた。アリガトサンネと言い残して出発したのがほぼ三時、昭和通りをテクテク歩き始めた。外は春一番だか春二番の強風、当然花粉がギャフンというほど大量に鼻の中に入ってくる。ファックションと一発出たらもうイケマセン、大連発となり目はショボショボ、グチャグチャとなった。宝町を通過して日本橋、アレ京橋はどこだとなった。せっかくの地図を見ても分かんない。ビルとビルの間をウロウロしていると、ビルの谷間の風が強烈に襲ってきた。オッ喜多方ラーメン店じゃん、なんて言ってる場合ではない。開映まであと五分しかない。大型の案内ハガキには、開映及び満員の際は入場をお断りしますと書いてある。ヤ、ヤバイ、どこだ、どこだと探す、そこにタクシーが停車したので、運転手さんに地図を見せて聞いた。一本道が違いますよ、アソコを曲ってココに出て、ソコですよと教えてくれた。で、アッタァ~と、やっと見つけて地下一階へ。映画のポスターがたくさん刷ってある。女性のスタッフが三人居た。時は午後三時三十一分だった。スイマセンちょっと遅れてと言うと、スイマセンもう開映しているのでご入場はできません、と言うではないか。一分遅刻はルールに従って駄目であった。40席が満席、扉がスクリーンの脇なのでイケないんですと言われた。鼻水とショボクレた目で、三月二十三日の試写を予約した。四月二十八日から全国公開なのでぜひ観ていただきたい。墨絵のように美しく、鮮烈なモノクロ映像。今までにない時代劇の全てがある。と広告の言葉があった。小さな屋根の下で雨宿りする、貧しき三人の女性。葛西さんらしいモノクロ写真と、独特の筆書きのタイポグラフィで、しみじみと表現された大きなポスターが刷ってあった。私はこれは一日一錠ですよという。“クラリチン”と、これは一日三回だけですよという“コールタイジン点鼻液”をかかりつけの名医に処方していただき、鼻のどんづまりがなくなってきた。しかし先は長い、極めて花粉が憎いのだ。“人を見たらドロボーと思え”と先人は教えた。現代社会では、“人を見たら人殺しと強盗と思え”だ。更に人を見たら詐欺師か、助平で変態の盗撮魔と思えだ。更に更に走る車を見たら、暴走老人車と思えなのだ。1300年余の歴史あるという高名な温泉宿が、殆ど風呂の掃除をしてなくて細菌の巣だった。素っ頓狂な記者会見をした社長は即辞めた。温泉とは体をキレイにするとこ、健康にするとこでなく、細菌にとってキモチいいとこなんだと知った。銭湯は毎日湯を抜いて洗っている。近々「湯道」という映画が公開される。スルーするつもりであったが、観てみようかと思い始めている。公開中の映画を観た。罪を犯した女性と、その女性に手錠をかけた刑事。二人はいつしか心を通わすようになる……、そして結末は。女性を見たら怖いと思えだ。「別れる決心」という題名の韓国映画だ。それにしても今の世に起きている出来事は、終末的な世界だ。
(文中敬称略)
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