富士美理容室 |
二週間に一回床屋さんに行く。そのご主人が今年78歳で引退する。
33年間×月2回だから一年間に12ヶ月×2回=24回×33年だから792回私の頭を刈ってくれた事になる。
肺癌となったが手術をせず放射線で治療している。
床屋さんは立ち仕事、とてもしんどい仕事だと思う。
日曜日の午後床屋さんに行くと床屋談議といって奥さんが参加して小さな街の様々な出来事を教えてくれる。あの家は家庭崩壊、あの夫婦は騙し合い、あの親子は断絶、あのお店は食中毒、あのご主人は脳梗塞、あの奥さんは糖尿病、あの息子は引きこもり、あの娘は出戻りと。
まあテレビのワイドショー以上に話が続く。娘さんが二人、お孫さんはいない。床屋談議とはよくいったもので本当に町の隅から隅まで一本一本ハサミで毛を切るが如く町の動きを知っている。
※写真はイメージです |
だがしかし33年経った今も私の職業が分からない。というより私自身説明がつかない。
ある時はスーツ、ある時はジーンズ、ある時は釣り人ファッション、ある時はミリタリー風、お店を閉める事を告げられる迄本当に分からないでいた。
駅前に1000円の簡単な床屋さんができてからすっかり子供連れがいなくなりお店はいつ行っても殆どお客さんがいない。知人から頂いたリンゴや梨やイチゴやカボチャやジャガイモを持って行ってあげるとご夫婦で喜んでくれる。
床屋さんの耳かきは最高に気持ちいい※写真はイメージです |
馴染みの寿司屋はすっかりヨイヨイになって車椅子で若衆に連れられて頭を刈りに来るがすっかり私の事が分からない。俺だよ俺といっても分からない。月日は残酷である。
なんと私が初めて床屋さんに行った時のポラロイド写真を見せられた。
33年前である、つまりは32歳である。いや〜なんという過激なファッションか。
ジーパンにアロハ、ブルーのジャンパー、レイバンのサングラスをかけていた。
オヤジさんは78歳引く33歳だから45歳。ハンサムでかなりイカしてたし、奥さんは可愛い人だった。
そんなポラロイドを見ながら三人で大きな鏡を見た。
あーあ、もうお互いにお終いだねと言って大笑いした。
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最初はすっかりヤクザの人かと思ったよと奥さん、いや〜絶対ただ者じゃないと思ったというご主人。
富士美理容室の動脈と静脈を現す青と赤と白のスタンドが渦を巻いていた。
オーイ魚釣って来たぞと昔馴染みのおじさんが大きな魚を一匹持って来た。
かつて真っ黒だった私の髪の毛の半分は白くなっている。
ちなみにご主人はミニ盆栽の名人でした。
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