「思案橋ブルース」「ギターを持った渡り鳥」「ブルーシャトウ」「網走番街地」「赤色エレジー」「自動車ショー歌」「女の操」「女の道」・・・「熱海の夜」と続く。
三月二日夜の熱海、旅館の名は「立花」。
そこのカラオケルームでのザ・ヒットパレードだ。
平均年齢六十歳と少し、五人の男が熱唱し合った、金曜日の熱海はひんやりと寒く街はひっそりとしていた。
早咲きの梅も桜も未だ観光客を喜ばす事が出来ない。寒さのせいらしい。
3.11以後すっかり宴会がなくなったという。
尾崎紅葉の名作“金色夜叉”、貫一とお宮で有名な“お宮の松”のところにあった大きな旅館が消えて無くなっていた。
たしか“ツルヤホテル”であった。以前社員旅行で来た時はウンザリする程人が居たのを覚えている。
人生の半分を共にし、苦楽を味わってきた友達との夜は、お宮が目を眩ましたと貫一が怒り、足蹴りをした原因となったダイヤモンドやお金より価値があったのだ。復讐の鬼と化した貫一はやがて高利貸しになる。
鯖の干物一枚、鰺二枚、烏賊一杯、粒雲丹一瓶をお土産に買って帰った。親友ほどいい味はない。