賄い(まかない)メシはお店の人たちが食べる自分たちの食事の事。
その日私は人形町のとある店に入った。ユニークなカツ丼が有名な定食屋風の店である。
歴史も古く洋食のはしりでもある。テレビや雑誌、新聞などでよく紹介される。
私と連れの二人で入ったのは午後1時を少し過ぎていた。
連れは有名なカツ丼を、私はミックスフライの様なものを頼んだ。
お店には小柄で元気で口達者のおばちゃん、これから寄り合いに出掛けるというおやじさんと厨房には息子さんだ。
私たちが入った時は4人掛けのテーブルに3組入っていたが、私たちが食べている頃は勘定を済ませて出ていった。
その頃私たちの隣のテーブルに一人のずんぐりとした男が座った。どうやら息子らしい。
厨房では賄いメシのチャーハンを作っていたらしく、それを一皿、二皿、三皿と盛って出した。
私たちが未だ食べているのにおばさんと息子はそのチャーハンを食べ始めた。
いつか友人の板前が云っていた言葉を思い出した。
ランチタイムの終わりの頃に来たイケスカナイお客、気に入らないお客、顔なじみでないイチゲンの客が入って来たら営業時間内でも賄いメシを食べてやるんだ、つまりはどうせテレビか新聞を見て来た客だろ、だからそれ程大切じゃないって事、あんたたちはウチにとってどうでもいいお客という事の意思表示なんだと。
この気質は下町の店、特にグルメ情報なんかでチヤホヤされた店に多いらしい。
私は隣で賄いメシを食べ始めたおばちゃんにこう言った「おばちゃんそれ賄いメシだろ?旨そうだからちょっと味見させてくれる」と。鼻柱の強そうなおばちゃんは一瞬顔色を変えた。
なんて事言うんだいこのお客はと顔に描いてあった。息子らしき36歳位男はキョトンとした。
お客の前で自分の亭主の事をウスでノロマだなんてこれ見よがしにいうおばちゃん、私たちはお客だよ、その隣で賄いメシを食うとは嫌みだよ、それも営業時間内に。私は気に入らなくて結構だが私の連れに失礼だろうと思ったのだ。
折角私を連れて来てくれたのに。
幾らといったら2900円ですと、旨かったよチャーハンと付け加えた。
つまりテレビや新聞雑誌で提灯記事書かれて自惚れれてるなよ、食べた料理は全然フツーそこいらの定食屋の方が数倍旨いよという事だ。フライに着いていたキャベツなんてナッチャナイっていうの。
三段作りの変なカツ丼で有名な処、是非午後一時過ぎに行って見て下さい。
1時45分を過ぎた頃賄いメシを食べ始めたらそれはきっとイケスカナイ客だなの意思表示です。
アレコレウルセイババアが一人います。