メロンパンはおいしい?と私はいった。
八十歳を過ぎたであろう老人は、ん、おいしいよといった。
五月十日(日)の午後浜昼顔が咲いている辻堂海岸の側のベンチに私は座った。
先に座っていた老人は大きなメロンパンを食べていた。口の周りに白い砂糖がついていた。
四人くらい座れる木のベンチには私と老人だけが座っていた。
後にはサイクリングロードを走る人、歩く人が次々と通過する。
その後にはバーベキューをする場所があり若者たちがジュージューと肉を焼き、ソーセージを焼き、野菜を焼いたり焼きそばをつくっている。当然ビールやウィスキーや焼酎や日本酒やワインを飲んでいる。上半身ハダカの若者が多い。
若い女の子がキャーキャーと騒いでいる。
夏になるともっともっとバーベキュー大会となる。老人がぽつんと言葉を発した。
お兄さんとはずい分むかしに会ったことがあるねえと。
私もすでに老人だがジーンズにアロハシャツだから“町の兄ちゃん”に見えたのだろう。
えっ、どこで会ったっけと私はいった。
辻堂駅前の横浜銀行のところでと老人はいった。全然おぼえていないな、よくおぼえているね、どんな風に会ったっけといった。あの頃駅前の違反自転車を見張っていた。
お兄さんが自転車を停めて階段を登っていった時、ダメダヨここに停めて置いていってはと注意したら、お兄さんはおじさん元刑事か警察官だろといったんだよ、目がデカの目だと。
へぇーそんなことあったっけ、あの頃は四、五人で見張っていたもんね、何回か自転車の墓場みたいなところに運ばれていった自転車を探しに行ったもんなと私はいった。
お兄さんはあの時もアロハシャツだったからよくおぼえているんだ、それに警察官を辞めたあとで確かに目がデカみたいな感じだったからな、といって老人はオホ、オホ、オホホと笑った。左手に持っていたメロンパンを右手で千切って口の中に入れた。
おじいさんは今やさしいいい目をしているよ、元気でねといって私は自転車に乗り江ノ島の方に向かった。