仕事柄一日の始まりは、まず朝刊の死亡欄を見る。
お世話になった方や、恩人や知人の不幸な知らせを確認する。
嫌な習慣なのだが万が一にも義理を欠く事は許されないからだ。
と同時に、えっあの人がとか、えっしばらく見なかったが、いい建築家だったとか、いい画家だったとか、いい陶芸家だったなとかを知る。
死亡欄には人の歴史、社会の歴史が見えて来る。
私も歳をたらふく食って来たので同年輩の人にはその都度お疲れさんでしたと声をかける。
五月十日(日)の朝刊に二人の死亡を知らせる記事があった。
一人は「滝田裕介」さん八十四歳であった。
もう一人は「柳生真吾」さん四十七歳であった。
滝田裕介さんというとテレビの人気番組の「事件記者」と「ベン・ケーシー」の吹き替えの声を思い出す。俳優座出身のいい役者さんであった。
柳生真吾さんは清里の自然をこよなく愛する役者さん「柳生博」さんの息子さんだ。
ずっと以前に、一度仕事をご一緒させてもらった。とても爽やかな人であった。
息子さんの柳生真吾さんは園芸家で有り、かつてNHK「趣味の園芸」の司会をしていた。未だ四十七歳、柳生博さんの無念さが伝わって来る。
清里の森、清里の生き物、清里の人々も泣いて、泣いて、泣いているだろう。
新聞記者は私の憧れの職業だった。
松本清張原作の松竹映画「風の視線」という映画がある。
その中に若き日の滝田裕介さんが報道写真家として出演していた。岩下志麻が眩しく美しい。佐田啓二が渋くてイイ、この人ほどアスコットタイの似合う役者はいない。
この映画に故松本清張が特別出演している。ある人に聞いた話だが、かつて銀座に何軒かあった文壇BARで、いちばんモテたのが「故吉行淳之介」、いちばんモテなかったのが松本清張だったと、札束をテーブルにバンと置いて、これで今夜“ヤラセロ”というのが定番だったとか。「風の視線」には青森の十三潟(十三湖)が出て来る。
今は亡き親友とその十三湖でとれる有名な「大和しじみ」のことを調べに行く機会があった。そのために十三湖がらみの映画や映像を集めた。
「風の視線」は松本清張の好きな題材、不義、不倫、殺意と愛情が交差する人間ドラマだ。人間とは欠点だらけなのだ、松本清張はそれをいいたかったのだろう。
特にブルジョワは秘密ばかりなのだと。話がすっかり横に逸れてしまった。
「滝田裕介」さんと「柳生真吾」さんに合掌する。
亡き友と行った青森の十三湖はまるで日本海のようであった。
風が強く吹き、波が荒立ち、しじみを売る出店の旗が千切れんばかりにバタバタと音を立てて震えていた。
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