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2015年12月18日金曜日

「井上英子編集長」



日本文化を伝えていくのは誰か、それは名人、達人、狂人たちだが、出版人という根気の塊のような人がいる。
丹念を極める取材と資料の読み込みは、難解な裁判に挑む法律家以上ともいえる。
この国にある伝統文化をなんとしても書き残す、満々たる気骨がなければ成し得ない
高級車に乗り、高級ワインを飲み、高級料理を食べながら作家を口説き、女性を口説くのとは違う。ひたすら歩く、ひたすら聴く、そして書く。
地酒をチビチビしながら、漬物をつまみに名人、達人、狂人の神髄に迫る。


私が仙台で会った地元の出版社名は「笹氣出版」という。
「雄勝硯」に命をかけている硯職人、遠藤盛行・弘行父子の本(会いに行った)をはじめ陶芸、漆、和紙、錺金具(かざりかなぐ)、刀鍛冶、刷匠の本など名本を残す。
忘れてはいけない人がいる、心にとどめておきたい言葉がある。
笹氣出版「文化伝承叢書」既刊のご案内にそう書かれている。

15日夜6時過ぎ、井上英子編集長が仙台のおでんはここが一番よと「おでん三吉」というお店で会った。この店について書くのはこのブログの目的ではない。
一度行くべし、信じられない味が信じられない値段で食すことができる。
東京から新幹線で約90分で行ける。但し6時で既に広く大きい一階は超満員、二階は予約しないときっとダメだろう。

井上英子編集長は秋田出身である店主の一代記を本にしたとか、それ故すこぶる顔が利いていた。三吉を出た後ここが仙台牛タンの発祥の店よと「太助」という店ののれんをくぐって入った。
午後9時をちょっと過ぎたばかりだったが、残念なことに終わりであった。
ご主人が出てきてくれて名刺を交換した。

仙台の夜は活気に溢れていた。
定禅寺通りには美しいイルミネーションが輝いていた。
井上英子編集長は街のボスみたいであった。
次の日、その次の日、仙台の活気とは全く別の世界を見る。
仙台が光なら、雄勝、女川、鮎川、松島、塩釜と続く震災地は影であった。

先日「アナザースカイ」というテレビ番組に、幻冬舎の見城徹氏が出ていた。
不動産屋にもなっている。次の金儲けのためだといっていた。
どんなに出版不況でも本は出し続けるとか、会社の中に5着のスーツがありそれを自慢気に出して見せた。裏地は全てアロハ模様だった。
アロハ好きの私は吐き気を感じた。
悪魔といわれたロックフェラーが死ぬ間際に、ナチスドイツを支援した自動車王フォードにこういったという、「いずれ天国で会おう」フォードはこう応えたという、「あなたが天国に行けるならばね」と。
戦争を生み、冨を築いた二人の大富豪はきっと地獄で再会したはずである。
スポーツジムで走っていた見城徹氏の向かう先は果たして天国か、それとも地獄か。

2015年12月17日木曜日

仙台駅にて

私は現在仙台駅、6時30分の列車で東京へ。朝、近海捕鯨で有名な鮎川港に行く。
震災の影響で鯨なし、漁師なし、人影なし。あるのは建設機具ばかり。


29代の頃に来た時は、それはそれは元気な港であった。港中に鯨の血の匂い
がしていた。
一隻の捕鯨船が寂しそうに陸上げされていた。

その後松島へ、本日天気晴朗なれど風強し。平日のせいか人影はまばらだった。津波は1.5メートル来たとか。
数軒ある食事処の前には、カキ、イクラ、海鮮など書いたプラカードを持ったおばさんが客を引いていた。
で、一軒に入りノンアルコールビールと生ガキ2ケ、焼きガキ2ケ食べた。

その後塩釜へ。ここは相当のダメージを受けていてまるで工事現場、復興はどこも進んでいない。

そして仙台駅へ。
牛タンを買った。
ギューギューの1日がタンタンとした1日へ開放されて、アタマがクリーニングされた。駅の待合室でこれを書いた。

2015年12月16日水曜日

女川にて



私は現在女川原発のあるところにいる。朝仙台発➡︎観音寺にて後藤泰彦住職とお会いする。「祈りの塔」に再会する。元気に人々を見守っていてくれた。

本日は晴天、まるで小春日和。山小屋にて住職が淹れてくれた珈琲を頂く。
その後住職オススメのサバで出汁を取って作ったラーメンをご馳走になる。さっぱりとした和風味。

町に人影は全くなし。
定休日が多いというが、人がいなくなっているようだ。
その後雄勝に行く。
廃校を再生している立花貴さんと旧桑浜小学校で会う。詳しくは後日。

裏山で養豚している豚を見る。
五頭のうち四頭は肉になって帰って来たとか。一頭だけになった豚は寂しがり立花さんが行くとすり寄って来る。
腹をさすってとゴロンと横になる。
黒と茶の肉体はルイビトンの柄みたい。120kgの女傑。
豚は乳首の数だけ子を産むとか。
豚種名は“アリガトン”とか。



廃校の再生はずーっと続く。
ワークショップであり、宿泊施設あり、露天風呂あり、絶景あり、かつては多くの小学生がここで学んだ。
再生には5000人近い人が参加した。また多くの団体、企業が支援している。
東京からが7割とか。
外国から2割、農業、林業、漁業の体験に来ているようだ。
レストランにはシェフが三名、アリガトンの料理が出るはずだ。

この日は立花さんが一人で待っていてくれた。
オルハショップの人気商品足首ウォーマーをお土産に渡す。
再生の設計には隈研吾さんも参加してくれたちいう。大きな模型を見せてくれた。すべて完成するには何十年もかかる。

ガウディのサクラダファミリアとおなじですよと立花さんは言った。
伊藤忠商事を東日本大震災を機に辞めてこのプロジェクト立ち上げた。
なんていい笑顔なのだろう。
後藤住職夫婦もいい笑顔だった。
人望を集めているからだろう、人のために尽くしているからだろう。

午後四時女川港に着いた。
灯台のように光を発しているのが女川原発だ。
車はずっと工事現場の中を走っているようだ。復興は進んでいない。
パンツ大臣で大丈夫だろうか。





2015年12月15日火曜日

「感謝料現る」




ポンタクという言葉をご存知でしょうか、白タクともいいます。
自家用車を使った無許可タクシーです。
永き付き合いのポンタクの運転手さんにポンタクってどこから来た言葉なのと聞いても、未だに正しい返答がありません。

お客さんでかい声でポンタク、ポンタクっていわないで下さいよ。
近頃ではインターネットを使ってお客さんを取り、乗車賃ではなく、感謝料を受け取るという職業が生まれている。
法の抜け穴をつく職業で、白タクか否かが問題になりつつあると、先日新聞の夕刊一面に載っていた。

オイコラッ駄目だぞと言っても、好意的に乗せてあげたら感謝され、少しばかり心付けをもらっただけです。
ボクまたは私、またはオレはいらないと言ったのに取っておいてくれと無理やり渡されたんです。こう言われるとどうすることも出来ない。
感謝料はタクシー代の半分とか、3分の1位とか。
ポンタクはとんでもねえ奴等だと言うのだが、神出鬼没で正体がわからない。
学生がバイト代わりにやっているとも新聞に書いてあった。

正しい景気の動向を知るには、ポンタクに聞くのが一番。
とにかくよく世の中を観察している。
ダンナいい遊び人がすっかり銀座にいなくなりましたね。
今年の暮れは去年より悪いですよ。
若い人は一次会で終わり、カラオケ店で食べて飲んで唄ってハイソレマデ。
ダンナみたいなバブル世代は定年になって、クラス会とか同窓会の時位しか銀座には出て来ない。
自腹で飲んだことのない世代でしょ、みんな会社の交際費、みんな会社のタクシー券、早い話みんな毎晩タダ酒飲んでいたのと同じですからね。

バブルの頃400台近くあった、あっしらの車も今じゃ40台位すから。
むかしは粋で格好いい男が、万札出してチップだ取っとけなんて言ってくれたもんですがね。クラブの女の子なんか近頃じゃ、車代お客さんにもらって、730円で降りて後は電車で帰っちゃうんだからね。

30代からやっているポンタク→白タクの運転手さんも70代に。
永い付き合いだな、そうでやんすね、あの頃は本当に銀座は楽しかったですね、メチャクチャだったけどね、そうだなもうあんなバカな時代は来ないよ、よく今まで生きていたと思うよ、ダンナに相談したことがあったでしょ息子が事件起こした時、少年院送りにしないために審判の時、みんな親の私が悪いんです、きっとまともにしますと土下座して泣けと。

そう初犯で余程の事件じゃなけりゃ一度は救かるんだよ、最近のことは分からないけどな。あの時の息子が今じゃ20人位使う会社の社長をやってんですよ。
へぇ〜そりゃよかった。
初めて聞いたよ、言ってなかったですかね、聞いてないよ。

久々に乗ったポンタク→白タクは横浜三沢のトンネルを通過していた。
セルシオは快適である、が事故を起こした場合の保険はない。
めったに乗るものではない。

2015年12月14日月曜日

「オムツとオツム」



尾崎士郎の名作「人生劇場」に“合点の竜”という男が出て来る。
何事にもよし合点だ!へい合点です。分かった合点だ!という。
まあおっちょこちょいの、お調子者というのである。
きっと尾崎士郎の育った地にそのモデルがいたのだろう。

すったもんだの末に、軽減税率が食料品と加工品にとなったようだ。
これを合点だ!という訳にはいかない。
少子高齢化社会、一人でも多く子を生んでと目標値を上げ、老人を大切に、老人に手厚い介護を、保育士さんや介護士によりよい報酬をというが、やっている政治はその真逆だ。

例えばミルクに、オムツに、哺乳瓶に、何故税金を等しく課すのか。
老人の頼りとする杖や車椅子や手押し車に、何故等しく税金を課すのか。
保育士さんや介護士さんの給料は何故平均給与より10万以上も安いのか。

食料は倹約すればいい、米・麦・アワ・ヒエのご飯と、一汁一菜のおかずさえあれば生きて行ける。仏門で修行する雲水はそれで心身を清浄させ鍛える。
だが赤子や幼子、自分では歩行できない人々、自分では食事もできない人々、不幸にして障がいを持つ人々、そんな弱者が生活するのに必要な物に軽減はない。

結婚できない、食べれない、やって行けない。
子が産めない、育てられない、やって行けない。
水も飲めない、おかゆも口に入れられない、トイレには勿論行けない。
もったいないからとオムツもその度ごとに替えてもらえない。
人間としての尊厳を守れない。

食料、加工品以外には基本的に10%の税金が課される。
合点だ!とは酒に酔ってでもいえない。不公平税制の極みだ。
“オツム”が国家百年の計に向いてない者共に、一枚の“オムツ”の話はわからないのだろう。

私が中学三年の時に、生活指導の先生からお前は将来何になりたいのかと聞かれたことがある。私は“三州吉良の仁吉”のようになりたいといった。
男の教師はポカンとして誰だそれはといった。
尾崎士郎の人生劇場に出てくる“侠客”だといった。
何!侠客?バカかお前はといって、後日母親を学校に呼び出した。
侠客をヤクザと思っているからだ。
お母さん××君は将来ヤクザになりたいといっています、内申書が書けません。
母親は腹を抱えて大笑いした。

正しい政道とは、侠客道と同じである。
弱い者を助け、強い者を戒めなければならない。
安倍晋三総理総裁の威を借りて何から何まで強権を発する官邸と、谷垣幹事長、麻生財務大臣、岩田外務大臣、古賀誠一派、中間リベラル派との間に決定的な溝が生じた。
やがて党を二分する戦いの火種となった。
自民党内はすでに壊れている。やってらんねえ、あのヤロー三年後を見てろよ、と。

財務省は金融庁、国税庁を従えている。
それ故財務省(旧大蔵省)を敵に回して勝った者はいない。
政権内に金融がらみのスキャンダルが続発するだろう。
虎の威を借りて歴史に名声を残したのは一人もいない。
悪名と共に歴史の彼方に消えて行く。
645年大化の改新以来、その歴史は続いている。
“オムツ”に愛を、オムツを無税に。

人生劇場は♪〜義理がすたればこの世は闇だ、と歌になった。
現代劇場は、オムツがすたればこの世は闇なのだ。

私のお世話になっている代理店の社長が、画期的なオムツを開発し、販売を始めた。
老人用のオムツ、その名も「ポイレット」。介護を助ける愛の商品だ。
一枚、二枚と着実に売上を伸ばしている。
老人介護のあるところに「ポイレット」有りとなるだろう。
実にオツムのやさしい人なのだ。

2015年12月11日金曜日

「酒の呼び名」



♪〜春に春に追われし 花も散る キスひけ キスひけ キス暮れて どうせ 俺らの行く先は その名も 網走番外地。
大スター高倉健さんはこの曲を歌った映画から始まったといってもいいと思う。

映画の題名は「網走番外地」。かつて網走刑務所は無番地でも郵便が届いた。
つまり番外地であった。曲の中にあるキスとは愛し合った者同士がするものではなく、魚の鱚(きす)でもない。お酒のことである。
その世界では酒を飲んで酔っ払うことを酒(キス)グレるという。
キスひけとは酒を飲むという意味である。

昨日久々に早く家路についた。
新橋駅のいちばん品川寄り改札口に私はいた。
キオスクで新聞を買い券売機に向かった。午後6時30分頃であった。
駅は人の群れであった。券売機に近づくと、人の群れがパクッと二つに割れた。

何故か(?)そこには思い切りキスグレたおっさんがいた。六十歳位だろうか。
岸部一徳さんに似ていた。ウリャーとか、バーローとかウィーと言いながらヨタヨタし、右手に持ったワンカップの酒をゴクッ、ゴクッと飲んでいる。
左に傾くと左の人の群れが後ずさりし、右に傾くと右の人の群れが後ずさりした。

おっさんと私はかなり接近した。上着は身につけていない。
白いワイシャツのボタンは上から三つ目まで開いている。
シャツは黒いズボンからハミ出ている。目はじっとりと充血し座っている。
黒いヒモの靴の後ろを潰して履いている。

“ひと目会ったその日から 恋の花咲くこともある 見知らぬ貴女と 見知らぬ貴男に デートを取り持つ パンチDEデート!”なんて名フレーズで始まった人気番組は桂三枝(現在文枝)さんの「パンチDEデート」だった。

おっさんと私の間は約2メートル。目と目がバッチリ合った。
恋の花など咲く訳はなく、私の怒りの花が満開となった。
何故なら座った目でじーっと私を見捉えたからだ。

ワンカップはロングサイズで、1/3位が残っていた。
ズボンを見るとかなりいい素材であった。黒い靴もなかなかであった。
私は酔った人は嫌いじゃない。

おっさんは、きっとそれなりの地位がある。
しかし酒グセが悪く部下にグダグダ絡んだり、大事なお客さんや取引先にも絡んでは大迷惑をかけるのだ。気が弱く昼間は無口で大人しい。
酒の力を借りないと何も言えず、退社と共に酒をグビグビ飲んで勢いをつける。
とても人間的で正直なのだ。

やがて大トラになって一晩留置所に入れられ朝起きて、ここはどこですか、ワタシはなんでここにいるんですかと正座してご迷惑をかけましたと謝罪する。
奥さんがあなたまたやったのと、もらい下げに来る。

さて、おっさんはじーっとワタシを見ている。黒のジャケットの胸に、白い鳩のアップリケが付いているのを着ていたので人の群れの中で目を引いたのかもしれない。
白い鳩はかなり大きい。
あるデザイナーが8年位前に平和のジャケットとして限定制作したものであった。
おっさんの目は、私の目からその鳩に向かっていた。

その距離1メートルになった時、私は言ってしまった。かなり大きな声で。
こんな時間からキスグレてんじゃないよと。
おっさんはウィッと息を飲み込んで、すみませんと言った。

作家野坂昭如さんが亡くなったことを家に着いて知った。
この人は大のキスグレであった。
有名なのは大島渚さんの記念パーティの時、壇上に上がるなりモーニング姿の大島渚さんの顔に思いっ切り右のパンチを入れた。大島渚さんのメガネがずり落ち、鼻に引っかかった。かなりヨロヨロとしたがマイクで応酬、野坂昭如さんの頭を殴った。

その時大島渚さんの奥さんであった女優小山明子さんが、まったく動じることなく二人の間に分け入って、キスグレた野坂昭如さんをなだめた。
小山明子さんのその姿は出来た女房の代表と言われた。

忘年会のシーズン、あの街この街にキスグレた人が出る。
かつて私も大キスグレであった。今では二合ほどの酒でいい気持ちになってしまう。
時々昔が懐かしい。あのおっさんはどこへ向かったのだろうか。
きっといい人だったのだ。上着はどこへ忘れてしまったのだろうか。

2015年12月10日木曜日

「昨日はイマジン」




ジョン・レノンが凶弾を撃ち込まれて、35年目となった。
昨日は命日であった。生きていれば75才となっている。
現在の世界を見てどんなメッセージを詩にしただろうか。
聖地ストロベリーフィールドは、彩やかな花々とイマジンの歌で暴力によるアメリカ的解決法を断じたことだろう。

私がアメリカを体現したのは1516才になった時だった。
輩が横浜で面白いパーティーをやっているから行こうと言った。
先輩はスカイブルーのタウナスという外車に私を乗せて横浜の夜に向かった。

着いたところは横浜の外れであった。リバーサイドに突き出た店だった。
店の外に大きなアイスボックスがあり、その中にバドワイザーのビール缶やコカコーラの瓶がぎっしり入っていた。

海軍の兵隊のような白人や、革ジャンを着た黒人、ブルージーンズに黒と白のコンビの革靴、リーゼントヘア、背中に龍が縫い込まれたスカジャンを着たトッポイ連中や、ポニーテールのお嬢さん、娘さんが落下傘のスカートを思い切り広げ、Vネックの派手なセーターを着て集まっていた。

店の中は天井に大きな金色の送風機の羽根があった。
その下のフローリングの上に、ゴチャゴチャになってみんなが踊っていた。
ツイストが主であり、バラードになるとチークダンスになり、男と女は抱き合い、キスをし合っていた。
音楽が流れるがバンドはいない、人と人の間から見えて来たのがジュークボックスだった(先輩が教えてくれた)。

なんだろうと思った。
パチンコ台みたいに思ったが近づくとそこにドーナツ盤のレコードが、ロボットが何かを掴んで取り出すように動き選んだ曲が出ていた。
ワンコインで一曲であった。

それぞれに曲名を探しコインを入れる。
エルビス・プレスリーが、ニール・セダカが、パット・ブーンが、リトル・リチャード、ジェームス・ブラウン、ポール・アンカやザ・プラターズ、ハンク・ウィリアムスにハンク・スノウ。
まるで魔法のようにいろんな曲が一台のジュークボックスの中から飛び出て来た。

ソノシートなんかで聴いていた私は、その頃荻窪で丸福や春木屋のラーメン、珍来のギョーザライスと焼きそば、漢珍亭のモヤシメシ、丸信のワンタンメンライフであった。
いまでいうカルチャーショックを横浜で知ったのであった。

先輩がジュークボックスに入れて見ろとコインをくれた。
不思議なことにそこは平和であった。喧嘩も口論もない、あるのは音楽と踊りと興奮であった。夜が明けるまで続いた。
コカコーラを一気に飲むと、大きなゲップが出て鼻から泡が出て、目から涙が出た。

私が初めてジュークボックスで選んだ曲は、デル・シャノンの「悲しき街角」だった。
今ジュークボックスがあったら、ビートルズの「イエスタデイ」を選ぶと思う。
否、やっぱりジョン・レノンの「イマジン」かもしれない。

音楽のあるところに争いはない。
音楽に国境はない、人種差別もない。
あるのはピースだ。