ページ

2016年4月1日金曜日

「ビビンバなことに」




早いもので今年も残すところ九ヶ月になった。
三ヶ月はあっという間に経ってしまうから、あと「あっという間」を三回言ったら今年は終わる。

春は終わり多き月であり、卒園式、卒業式、人事異動があり、四月に始まる。
入園式、入学式、入社式、新しい職場につく。
また飛ばされた人あれば飛んで来る人もいる。人生とは不公平なり、平らな道でもつまずくことがあると言う。

ウラミツラミ盛り沢山の悔しい送別会。
あっちに行っても私たちを忘れないでくださいねと、渡された花束を家まで持って帰るヒトは少ない。ヤケ酒を飲みに行ってその店の女の娘にあげてしまうか、どこぞのゴミ箱に捨てる。ゴマスリのヨイショ野郎ばかりが出世しやがってと酒を飲む。

日本語で終わりの事を韓国語では「オプソ」という。
あいつはもう終わった、イコールあいつはもうオプソだとなる。
三月三十一日をもって報道ステーションの古舘伊知郎がオプソになった。
その前にNEWS23の岸井成格と膳場貴子がオプソになった。NHKクローズアップ現代の国谷裕子がオプソになり、毎週土曜日午前十一時半〜十二時の田勢康弘がオプソになった。これが何を意味するかはオトナなら誰でも分かる(?)

言論はオプソとなりジャーナリズムはオプソにされた。
欠けない満月がないように絶大な権力がオプソにならなかったケースはない。
あと九ヶ月を過ぎ2018年になると一気にオプソに向かい出す。
じっと忍従をしていた人間が次の権力に向かって動き出す。これは世の常なのだ。
のんびりと水に浮かぶ水鳥の足は、水面下で忙しく動いている。

韓国語でかき混ぜることをビビンといい、ビビンバという食べ物がある。
むかし流行ったドドンパの兄弟分のような響きがある。
今日から四月、いよいよこの国の政治経済、人間社会はビビンバになって行く。
あのヤロー、オプソにしてやる、そんな思いを持っている人も多いだろう。
私などはその、あのヤローの対象なのだ。

先日久々にビビンバを食べた。グイグイかき混ぜて食べた。
実に旨かった。真っ赤なキムチを一緒に食べると格別であった。
血の色をしたキムチはヒイヒイとキモチを熱くする。

2016年3月31日木曜日

「バーボンとままかり」



人間は死ぬまで何をしているか、答えは“生きている”そんな単純なことを考えながら深夜グラスを傾けた。

時計を見ると午前十二時三十八分二十八秒であった。
お気に入りのグラスにジム・ビームを入れた。
グイッと飲むとカァーとノドに来た。

食道を通過し胃袋に到着する、胃の中もまたカァーと熱くなった。
ストレートで飲むことはあまりないが、人、人、人、人と会って、いい話、嫌な話、疲れる話、ウレシイ話、許せない話、再起再生の話、暗い話、明るくニコニコする話をした後、列車に揺られて帰った。
着ていた服を脱ぐと、ストレートで飲みたい気分になった。

つまみは先日岡山駅で買って来た岡山名産「ままかりの酢漬」だ。
バーボンウイスキーとままかりは実にグッドだ。
ままかりとは漁師が沖へ出て小魚を釣って帰った。
料理して食べたら大変うまいので隣の家に飯(まま)を借りに行った。
そんな話から名付けられた。
酒は気づけ薬ともいうからグダッとした体に火をつけてくれた。

その日の朝辻堂駅ホームに30人位の老人たちが二組に分かれて下りの列車を待っていた。リーダーらしき人がアレコレ指示をしていた。
6080代の男女、わかりましたか、ハーイなんて言ってみんなグハグハと笑っていた。
箱根か大山かなと思った。きっと金はある、時間もある、やることがない。
リュックサックを背負った男女たちはワイワイ、ガヤガヤと列車に乗って行った。

人生は遠足だ。きっとそんな気分なのだろう。二杯目はミネラルウォーターで割った。
“人生とは重き荷物を背負うが如き”確か徳川家康がそんな言葉を遺した。
私の背中のリュックには、未だたくさんの宿題が入っている。
箱の中にままかりは二袋、10匹入っている。一袋は冷蔵庫へ。

チャップリンの映画を一本見るかと思った。
一日中言葉につかれたから無声映画にする。

2016年3月30日水曜日

「西荻窪と丸福」




その朝アタマにイメージしていた昼食が、180度変わった。
本日午前十一時三十一分、私はJR中央線西荻窪の改札口にいた。
会社にいるデザイナーの女性のイラストレーションを展示しているのを見るために。
改札口に女性は迎えに来てくれていた。
明日が最終日、行けるのは今日しかないのであった。

24人の作家が描いたイラストレーションを24ヶ所の喫茶店などに展示する、街の活性化の一つでもある。女性はとても有能でユニークな絵を描き、また絶妙の写真とのコラージュをする。とてもいいよとなり、今度こんな事を一緒にしようと話した。

さて西荻窪は久々なので、どこかいいレストランでもあればごちそうするよとなった。
一軒あります、そこへ行ってみますかと南口で十数歩前へ進み右を見ると、な、なんと丸福ラーメンの文字。えっ、あの荻窪の丸福がまさかとなり店に近づいた。
丸福の文字は荻窪のまんま、レストランやめて丸福に入ろうとなった。
頭の中のナイフとフォークは消え、スープとスプーンも消えた。何しろ丸福である。

入ると右側に5人程座れるカウンター、どうぞ二階へと言われたが、カウンターに座った。小太りの主人と若い人が丸福のラーメンをつくっていた。懐かしい丸福の香りだ。
聞けば荻窪の丸福ラーメンの親戚。かつてその親戚が、私が暮らした杉並区天沼に丸福を出していた。日大二高前バスの停留所と杉並第五小学校前の停留所のまん中あたりに丸福ラーメンがあった。大繁盛の荻窪駅前店は脱税で告発され店を閉めてしまった。

その一族が今、荻窪北口商店街と今日見つけた西荻窪で丸福ラーメンを出しているのだ。小太りの主人と私との話は盛り上がった。
小太りの主人は天沼店で修行していたとか、人生はこういう出会があるから楽しいのだ。私の中は安全に丸福ワールドへ、ワンタンメン煮玉子入り一色となった。

デザイナーの女性には、チャーシュウワンタンメン煮玉子入りを頼んであげた。
ワンタンメンは初体験だったらしい。
私と主人のいろんな思い出話を聞きながら、おいしい、おいしいと、チャーシュウワンタンメンを食べてくれた。ところで脱税の方の丸福はどうしたかと聞けば、よくわかりませんと言った。

その店の次男坊は私と同じ天沼中学だった。
“荻生田”という名前だった。私は未だにその丸福以上うまいラーメンを食べた事はない。
マンションを二つか三つ持って家賃収入で食べているという噂を聞いた。
誰が大繁盛店を国税に密告したか、お客が並んで商売のジャマだと思っていた丸福隣のマンジュウ屋説、ブティック説、有力説は丸福一族説であった。

2016年3月29日火曜日

「おお、神よ」

※ワタナベボクシングジムより 写真:倉持壮さん



King of sports. スポーツの中の聖なるスポーツといわれているのがボクシングだ。
昨日400字のリングではなく本物のリングの前にいた。ボクシングの聖地後楽園ホールだ。

私がお世話になっている広告代理店のオーナーが応援している選手に声援を送りに行った。実は私はこの試合のことを失念していた。つまり忘れていたのだ。
私をサポートしてくれているプロデューサーの女史に、今日は福原力也さんの試合ですよと言われてギョッとした。

ヤバイ、マズイ、シマッタ、夜は人と会う約束をしてしまっている。
仕事場からお世話になっているオーナーに電話すると、みんな後楽園ホール2Fの後楽園飯店に集まっているんだよと言った。
前売りチケットはないけど当日券は未だあるらしい。
負けたら引退だからの一言がグサッと刺さった。
急ぎ会う予定の人に電話をして時間をずらしてもらった。
これから行くとオーナーに電話を入れた。
人の面倒を見ることにかけてこのオーナーの右に出る人はいない。

たくさん人を呼んでいた。
ボクシングは合法的に人を殺せるスポーツだ。
リング上で相手が死んでも罪にはならない。殺るか殺られるかだ。
同じ階級のボクサーがグローブをつけて殴り合う。
命がけだからお互いに相手に敬意を持つ、礼儀正しいスポーツの見本だ。

福原力也さんは前の試合でKO勝ちしランキング一位になったので、チャンピオンの防衛戦の相手として指定された。相手は世界ランカー、強打者で若い。
福原力也さんは全盛期を過ぎている。この試合に負けたら引退かも(?)。
甘いマスク、しなやかな体、鍛えられた筋肉、場内は力也コールに沸いた。

5Rで途中の採点がアナウンスされた。
1ポイント福原力也リード、右アッパー、左フック、右フックが入っていた。
相手はじっくりと左ボディを打ち続けた。スタミナが切れるのを待っている。
右フック、左ボディが力也選手の腹にめり込んで来た。
8Rたまらずダウン、9Rもダウン、ガクッと膝をつきカウントを聞く力也選手。

アリスの唄う「チャンピオン」の歌の世界になった。♪〜立たないで もうそれで充分だ おお神よ…。
しかし力也選手は立上がった。
悲鳴が、声援が、力也ガンバレー!力也選手の母の叫びが場内に響いた。
相手の応援もまた大きい、倒せ、倒せと。

最終回10R両者ちゃんとグローブを合わす。
力也選手最後の力を振り絞って左、左、右を出す。
共に打ち合う中ゴングが鳴った、試合は終わった。

採点はジャッジ3者共4741でチャンピオンの勝ちであった。
挑戦者福原力也選手は、すぐにリングを降りず勝者のインタビューを聞きながらリングをゆっくり去って行った。
力也よくやったぞの大声援が上がった、きっとKOで敗けるそれほど相手は強かったのだ。福原力也選手は相手には負けたが、自分には勝ったのだ。

みなさん、あなたの仕事は痛いですか、顔面が腫れ上がり、鼻血がしたたり落ちますか。殺される程ボコボコに殴られますか。日々の仕事に泣きを入れてませんか。