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2016年4月26日火曜日

「天才と狂人とデミグラスハンバーグ」


人殺しをした男がその国の紙幣になったのはこの画家しかいないはずだ。
私は最も愛するのだ。

その名はミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(15711610年)何しろ人生そのものが凄い。天才と狂人は紙一重というが、その一重がなく天才と狂人は完全に合体している。ルネサンスを超えた男と言われローマ人を熱狂させた。

カラヴァッジョ以前の絵画といえば光が全面に回り美しさを強調していた。
まばゆい光ばかりで影がないのだ。美術という位だから美の術であった。
電気がなく灯りがとぼしい時代に四方八方に光りがあるのだ。

カラヴァッジョは違った。リアリズムの極みを描いた。
特に一灯のライティングのような光と闇の聖書の世界は圧倒的である。
イエスと使徒たち。
今回国立西洋美術館に初めて出品された「法悦のマグダラのマリア」は、近づく死の中で性的歓喜を表現したあらゆる芸術の中で、唯一無二の作品だと思う。

カラヴァッジョは無法者、無類の乱暴者であった。
頃から剣を持ち歩いていた。決闘といえば聞こえがいいが、喧嘩をしては人を傷つけそして遂に人を殺す。
死刑の判決を受け逃げて逃げて逃げまくり、38才でいわば野垂れ死にする。
パトロンの枢機卿も手を焼き守りきれなかった。

超絶的リアリズムで血に塗られた聖書の世界を再現した、写真よりも忠実に。
天才と狂人の合体人を紙幣にしたイタリア人というのもスバラシイ、きっと天才のところだけを見たのだろう。流石にローマ帝国を生んだ国であり、芸術を認めたローマ人である。六月十二日まで国立西洋美術館で日伊国交樹立150周年記念として開催中。

上野精養軒で名物ハヤシライスかデミグラスハンバーグを食べた後に美人か美男と一緒にぜひ。デミグラスソースは上野精養軒が発祥とか。

2016年4月25日月曜日

「残念と無念」







「一票の価値」をつくづく思い知らされたのは四月二十二日の朝であった。
私たちの広告業界には東京コピーライターズクラブ(通称TCC)というのがあり、一年に一回新人賞が選ばれる。
投票によって選ばれた審査員が第一次選考をはじめとして公明正大に選ぶ。

コピーライターを目指す者はこのTCCの新人賞を目指し、見事選ばれたものはTCCの会員となり業界に於いてその地位を得る、それから先は本人の精進次第で先途は洋々する。

毎回審査委員長の意向で新人賞の数は変わる。
30人近い時もあれば10人の時もある。今回は24人であった。
私も一応会員であり、私の所に入社したコピーライターの中から三人新人賞受賞者が出た。現在三人共独立し、大活躍をしている。
準新人賞(かつてはあった)が二人、一人は作家としても活躍中、一人は広告をやめフランスに渡り画家となり活躍している。

残念なのは私たちの会社のOB荻田洋平君だ。
とてもいいコピーを書いて、いままでなら新人賞獲得であったが、その年の審査委員長が今回は10人しか受賞させないと決め、荻田洋平君は11番目であった。
委員長は佐々木宏氏という広告づくりとカラオケにしか興味のないという、つまらない男であった(ソフトバンクのCMとかサントリーのBOSSとかを大ヒットさせている)。
新人を発掘するのが我々大人の仕事なのに狭き門を更に狭くした。

今回一票に泣いたのは、私がクリエイティブディレクションした、高橋知義君だ。
未だ30才ソコソコだが抜群のセンスと才能を持っている。
雑誌「ソトコト」を発刊している木楽舎さんの「孫の力」という隔月刊の雑誌のポスター5点でトライした。PRは筒井真人君、AD+イラストは永易直樹君であった。

四月のはじめに第一次選考を通過し、四月二十一日の最終選考を待った。
で、結果は16票で新人賞、高橋知義君は15票であり残念無念となった。
今回は何故25人でなく24人というキレの悪い数字なのかは分からない。

一昨年何故佐々木宏氏という人間が10人にしたかは分からない。
新人は審査委員長にもてあそばされている気がする。
予め今年は最大何人までと決めて内外に発表しておいた方が、後味が悪くなくスッキリとする。新人が育てば業界全体のためになるはずだ。
ある年は30人、ある年は10人では一生懸命がんばった新人たちがかわいそうだと思う。

四月二十二日朝、結果を知りなぐさめの言葉を失ってしまった。
でも未だ若い、来年リベンジしよう。15票しか集められなかったのも事実だから。
来年は最高新人賞だ!頑張れ荻田洋平君、頑張れ高橋知義君、みなさんこの二人の名をおぼえておいてください。

2016年4月21日木曜日

「親子丼」


ある人が言った。
人間は不安だから群れるのではない、群れているから不安なのだ。
またある人はこう言った。民衆とはいつも観客であると。

教会で祈る人、神社で願う人、お寺で手を合わせる人。
何を求めてか、過去への贖罪か、今日の犯ちへの懺悔か、明日への安寧か。
また悪知恵の限りを尽くして脱税、節税対策(?)をした命より大切な金がパナマ文書によって発覚する怖れかもしれない。

地震は揺らす相手を選んでいるのだろうか。
もし東京直下型地震が皇居の下で起きたら誰かが腹を切るのだろうか。
ケイマン諸島で起きて島が消滅したら、日本人や日本の企業の隠し財産が60兆円以上消える。この島には銭本位主義者の邪心が群れているのだ。

人が不幸に見舞われている時、その不幸の当事者ではない民衆は観客となる。
東日本大震災の時、連日連夜テレビに出まくって原発安全、放射能大丈夫と言っていた、その道の第一人者という何人もの学者は今どこで何を語っているのだろうか。
観客たちは最早震度3とか震度56では満足せずに、内心は震度7とか8が起こす地獄絵を待っている。

ラーメンと半チャーハンの男、マーボーナス定食の男、ホイコーロー定食の男、焼きギョーザ、シュウマイ、ザーサイをつま味にビールを飲み干す男たち、モヤシ中華をすする和服のマダムと、タンタン麺をすする男、それぞれ小さなテレビを見ながら、食欲を増進させる。
何だい、何故水がないだ、毛布がないだ、パンは一個だ、トイレがないだと大騒ぎしてんだ。バカじゃねえのこの国はと可々大笑している。

ラーメンと半チャーハンの男はスポーツ紙を見ながらでありすでに地震への関心はない。マーボーナス定食の男はスマホをいじりながらでやはり関心はない。
ホイコーロー定食の男はジッとテレビを見上げては白いご飯にホイコーローを少しずつのせて食べる。全身脱力感に満ちている。
いいわよワタシが払うから、すいませんお勘定をとモヤシ中華とタンタン麺の初老のカップルは冷たい水を飲む。

さて、皇居をまん中に人が群れなす東京に地震は来るかと言えば、その道の学者は必ず来るという。トマトスパゲッティを食べている人。
いきなりステーキではずかしもなく立ち食いで肉を食べている人。
大阪名物串かつにソースたっぷりかけている人。
山のような生クリームがのったパンケーキを食べている人。
万世でパーコー麺を食べている人。寿司一人前お好みでよろしくと言っている人。
何、何、ヤダァー、ホーデンて豚のアソコなの、えっホントでもメチャウマイじゃんとホーデンを食べている人。ここ数日間でいろんな人たちを見た。
外から、内から、隣から。

東京駅、新橋駅には黒いスーツを着た新入社員たちが一気飲みの洗礼を受けて横になっていたり、座り込んでいたり、飲んだものを外に吐き出している。
私はそんなシーンを見ながら、様々なことを祈り、願い、手を合わせる。
その一つ、四月二十一日、愛する後輩二人がある新人賞を受けることができるか、その最終選考日なのだ。
目出度く受賞できたらみんなでまず“かつ丼”を食べることにしているのだ。

九州では不安が広がっている。私に何が出来るのだろうか。
このブログを書きながら映画「バベル」を見直している。
神は人が群れ合うことを許さなかったか(?)神への挑戦を許さなかったのか(?)神はいつも「沈黙」している。
「バベル」は言葉の違いによる混乱とディスコミュニケーションを描く。

昨日はかつ丼への前祝いとして“親子丼”を食べた。
新人たちは私にとって子も同然だから。
彼等二人は言葉をつくる。421は足すと「7」、ラッキーセブンだ。

2016年4月19日火曜日

「ナマズの唐揚げ」




北京から友人が帰って来た。一週間程の帰国である。
五年程単身北京へ俳優修業へ行った。
パリでもローマでもハリウッドでもない、北京なのであった。
四十歳の決断であった。
水槽の中や池の中の魚は自らが大きく育ってしまうとそこは狭くなり生きづらくなる。
それ故魚たちは成長を止めるという。

昨夜食事した後、親愛なる兄弟分が一席用意してくれた。
男三人で映画を語った。
北京へ行った友人は、以前製作した短編映画「灯台」の主役を演じてくれた小林成男さんだ。共演は松方弘樹さん、松雪泰子さんであった。

映画を語り合った場所は、最近作「狼の詩」で主役を演じてくれた指宿豪さんの銀座の店であった。九時頃に指宿さんが来て、男三人が男四人となり映画の話は盛り上がった。
日本という小さな池の中で生きている私たち日本の映画界は金魚位の大きさでしかない。

名作や傑作も多く出ているが、それは製作費の切り詰め工夫の賜物だ。
有能な若い人材が有力な“出資者”がいないために世の中にデビューできない。
予算をかけられるのは、漫画とか劇画が大ヒットした作品だ。
シナリオもしっかり読まない、何社かの“出資社”が製作委員会と称するものを形成し、金も出すが口も出す。有力な“出資者”とは映画に理解ある太っ腹の人だ。
金を出して口を出さない。何しろ映画でもうかることはアニメ以外は殆どない。
日本映画界の一年の興行収入は約2200億だ。

さて、北京から帰った小林成男さんは、中国大陸という大海でもまれてでっかいカジキマグロになっていた。巨匠張芸謀(チャン・イーモウ)監督の映画に出たり、中国の大スターが主役の連続ドラマ(全六十話)に出演していた。
すっかり中国語をマスターしていた。

中国は映画産業が大発展、年間の興行収入は約1兆円(前年比約50%増)にも及ぶという。一本大ヒットすると、2000億近い興行収入をあげるという。
富裕層の出演者たちが100億円、200億円と製作費を用意するという。
金魚とカジキマグロの話はなかなか接近しないが、話すほどに盛り上がって私の気分はナマズの唐揚げ位になった。

映画はみんなで夢を語っている時がいちばん楽しい。
小林成男さんは私に是非シナリオをと言ってくれた。お金はなんぼでも用意できますと。だが金魚生活に慣れてしまった私には、世界的スケールのシナリオなど書ける訳がない。でもシナリオのたたき台位は書けるかもと言って固く握手をして別れた。
せめてあと10年若ければと思った。

誰か我こそはと思う人はシナリオを書いてみてほしい。
若さはうらやましい、小林成男さんは中国の次はブラジルへと言った。
ブラジルの映画レベルはすごく高い。
指宿豪さんの店のには映画を映す画面があり、そこでビートたけし監督の作品「龍三と七人の仲間たち」が写っていた。地震が続く夜であった。