北京から友人が帰って来た。一週間程の帰国である。
五年程単身北京へ俳優修業へ行った。
パリでもローマでもハリウッドでもない、北京なのであった。
四十歳の決断であった。
水槽の中や池の中の魚は自らが大きく育ってしまうとそこは狭くなり生きづらくなる。
それ故魚たちは成長を止めるという。
昨夜食事した後、親愛なる兄弟分が一席用意してくれた。
男三人で映画を語った。
北京へ行った友人は、以前製作した短編映画「灯台」の主役を演じてくれた小林成男さんだ。共演は松方弘樹さん、松雪泰子さんであった。
映画を語り合った場所は、最近作「狼の詩」で主役を演じてくれた指宿豪さんの銀座の店であった。九時頃に指宿さんが来て、男三人が男四人となり映画の話は盛り上がった。
日本という小さな池の中で生きている私たち日本の映画界は金魚位の大きさでしかない。
名作や傑作も多く出ているが、それは製作費の切り詰め工夫の賜物だ。
有能な若い人材が有力な“出資者”がいないために世の中にデビューできない。
予算をかけられるのは、漫画とか劇画が大ヒットした作品だ。
シナリオもしっかり読まない、何社かの“出資社”が製作委員会と称するものを形成し、金も出すが口も出す。有力な“出資者”とは映画に理解ある太っ腹の人だ。
金を出して口を出さない。何しろ映画でもうかることはアニメ以外は殆どない。
日本映画界の一年の興行収入は約2200億だ。
さて、北京から帰った小林成男さんは、中国大陸という大海でもまれてでっかいカジキマグロになっていた。巨匠張芸謀(チャン・イーモウ)監督の映画に出たり、中国の大スターが主役の連続ドラマ(全六十話)に出演していた。
すっかり中国語をマスターしていた。
中国は映画産業が大発展、年間の興行収入は約1兆円(前年比約50%増)にも及ぶという。一本大ヒットすると、2000億近い興行収入をあげるという。
富裕層の出演者たちが100億円、200億円と製作費を用意するという。
金魚とカジキマグロの話はなかなか接近しないが、話すほどに盛り上がって私の気分はナマズの唐揚げ位になった。
映画はみんなで夢を語っている時がいちばん楽しい。
小林成男さんは私に是非シナリオをと言ってくれた。お金はなんぼでも用意できますと。だが金魚生活に慣れてしまった私には、世界的スケールのシナリオなど書ける訳がない。でもシナリオのたたき台位は書けるかもと言って固く握手をして別れた。
せめてあと10年若ければと思った。
誰か我こそはと思う人はシナリオを書いてみてほしい。
若さはうらやましい、小林成男さんは中国の次はブラジルへと言った。
ブラジルの映画レベルはすごく高い。
指宿豪さんの店のには映画を映す画面があり、そこでビートたけし監督の作品「龍三と七人の仲間たち」が写っていた。地震が続く夜であった。
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