裏社会のシノギの中に「期り取り」というのがある(切り取りともいう、以下切り取り)。
酒場で飲んで女の子のツケにして、期限が来てもそれを支払わない奴に対して、そのツケを取りに行く仕事だ。夜の世界では女の子の借金をバンスという。
12月はそのバンスを精算しなければならない。
毎晩飲みに行って気に入った女の子を指名して、ツケでドンペリなどをポンポン空ける。
プロの女の子は簡単には体を許さない。
許したら来なくなるかもしれないし、ツケを払わないかもしれないからだ。
毎晩のように来ていたお客がすっかりご無沙汰になる。
何度もメールしたり携帯に電話をしても無視をする。
つまりシカトする、バックレる、フケる(逃げる)。
女の子には100万、200万、300万、中にはン千万ものバンスを背負ってしまう子もいる。
そこで裏社会の出番となる。
切り取りの取り分は女の子との話し合い、五分五分とか、六分四分とか、七分三分である。中にはアイツは許せない、お金なんか取れなくてもいいから、会社や家へ行ってガタガタにしてよとなる。
電話一本、ハイおまかせをとなる。
近頃は暴対法があってかなりやりにくいが、巧妙にやるらしい。
切り取り屋は一度頼まれたら地球の果てまでツケを取りに行く。
これから忘年会のシーズンだが、年は忘れてもツケを払うのを忘れてはいけない。
女の子たちは体を張って、金をかけて、意地を出して頑張っている。
家に帰れば積水ハウスではなく、家に帰ればぐーたら亭主がいたり、寝たきりの両親がいたり、ひきこもりの妹や弟がいたり、夜間保育園に預けている我が子がいる。
ツケを払ってもらわないと、タイやフィリピンに売られてしまうかもしれない。
陽が落ちるのがはやくなった。
夕方銀座の喫茶店に入ると、出勤前の女の子とそれらしき男がアチコチでヒソヒソ話をしている。師走は誰もが忙しいのだ。
私はすっかりその世界で飲まなくなったのでツケはゼロ、誘いの電話が一本二本と入っては来る。
来年はトリ年だからキリトリの年かもしれない。
マージャンの世界では一度もあがれず散々な目にあうことを「ヤキトリ」という。
切り取り屋はヤキトリ状態になっていても、決して許してはくれない。
立てばパチンコ、座ればマージャン、歩く姿は馬券買いといわれたが、いよいよカジノ法案が採決された。トランプカードとサイコロ・ダイスの時代だ。
小林旭の歌を思い出す。
♪~呑んでくだ巻け グラスを砕け 男ごころは 馬鹿なもの 忘れろ 忘れろ 女なんかはョ…。
そうです女を忘れればツケはたまらないのだ。
いつものグラスでサントリーオールドのオンザロックを飲む。
つま味は海苔を少し焼き、生わさびをつけて食す。これぞ海の幸だ。
おしょう油に少しツケるのもいい。