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2013年3月13日水曜日

「オジサンの夜」





♪〜およばぬことと、あきらめました。だけど恋しい、あのひとよ、ままになるなら、今一度ひと目だけでも会いたいのぉー。
知っていますか、遠い昔大ヒットした井上ひろしの“雨に咲く花”という歌です。

オジサンは昼はエステ、夜はバイトでスナックBARに勤めている女性の肩に手を置きながらマイクを持って手の小指を立てて、それはそれはこの時を待っていたぞよという満足感に満ち溢れた顔で歌うのです。

聞けばオジサンはその女性にゾッコンだとか。
私は友人と二人でその姿を見ていたのです。
スナックBARは基本的に女性はカウンターの中にいてお客さんの横には座らない。
その夜はガランガランだったのでマスターが気を利かせ横につけてあげたのだ。

オジサンは結構いい仕立てのツイードの上下の服を着ていた。
上着を脱ぐと毛糸のセーターの中に白いワイシャツとネクタイであった。
一曲、二曲と歌うとカラオケの画面に8.7キロカロリーとか9.2キロカロリーとかの数字が出る、私はカラオケはあまりというか兄弟分と飲んだ時位しか歌わない。

最近のカラオケは唄った歌へのエネルギーに対して消費カロリーが表示される。
9キロカロリーの歌を10曲歌えば90キロカロリーだからビールコップ二杯分のカロリーの消費効果がある。2025分ウォーキングしたと同じくらいだ。

オジサンはその風貌と出で立ちからして、経理士とか会計士とか司法書士と見て読んだ。年収は一千万以上二千万以下、妻子有り、歳は六十歳から六十五歳位だと思う。
肩に置いた手は一曲ごとに下に移動する、五曲目位では腰に回していた。
両手の小指が立っている。顔はとろけるチーズみたいにフニャけている。
明らかに自分の唄に酔いしれているのだ。

円安、株高なんていったってこの時間にガランガランじゃなーと連れと語る。
あのオッサンに対抗してなんか一曲聞かせろよと連れにいうと、よし、といって“松島アキラ”の名曲“湖愁”をチョイスして唄い出した。

♪〜悲しい恋の抜け殻はわぁ〜そっと流されそう・・・と唄い次に矢沢永吉と続き連れは得意のノドを次々に鳴らす。オジサンを見るとおもちゃを取られた子供の様につまんない顔をしてウラメシク私たちを見ている。

東海林さだおのマンガ“ショージ君”に出てくる課長か次長によく似ていた。
マンガだとグヤジーとなる。バーコードヘアの頭の部分が赤くなっていた。
“井上ひろし”は生きているのだろうか。

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