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2010年1月25日月曜日

人間市場 サンドウィッチ市

韓国語でサンドウィッチの事なんて言うか知っていますか?


普段あまり冗談を言わない男がサンドウィッチ大好きな私に言った。
サンドウィッチじゃないの?違います。じゃなんていうの?
パンニハムハサムニダって言うんです。(ちなみにカムサハムニダはありがとう。)
本当か?本当です。よく出来てるな、最高だな、いい事教えてくれてありがとうとなりました。


次の日のランチタイムは女性二人と男一人と共に銀座三原橋の地下韓国料理屋へ。席に着くと若い女性が黒い制服でオーダーを取りに来ました。


ねえ君、韓国でサンドウィッチの事なんていうのと尋ねました。
はぁーと頬を赤らめ、ちょっと待って下さいとレジの先輩風の女性のところに。そして二人で私たちの席へ。お客さん、私たち判りませんと言う。
パンニハムハサムニダって言うらしいよ、よく出来ているよねと教えてあげた。
えー本当ですか、ウソーとか言って厨房の中に消えていきました。


と、今度はエライゴツイ、イカツイ男が私はここの店長ですが、と言って目の前に立つではないか。お客さん変な事言わないで下さい。韓国ではサンドウィッチはサンドウィッチです。本当?本当です。


オイオイ何だよ、パンニハサムニダじゃないの?直ぐツヨシ(教えてくれた張本人)に電話してと電話を鳴らしてもらう。
もしもし、ツヨシか。はい、もしもし。俺赤っ恥かいたぞ。何ですか?パンニハムハサムニダなんて言わないってよ。え、どこかで使ったんですか?使ってるよ、今ここで。どこですか?韓国料理屋だよ。サンドウィッチはサンドウィッチだってよ。えらい叱られたよ。


冗談ですよ、冗談。この間飲みに行った時に教わったジョークですよ。俺はある時は疑い深く、又ある時は100%疑わないの知ってるでしょ。どうも話が上手く出来てると思ったんだよ。


それからお店の人にすみませんでした、ゴメンネ、悪いジョーダン教えるのがいてね、とスゴスゴ退散しました。そんな話を友人にしていて大笑いされた後、フランス語で赤ちゃんが出来た時何て言うか知ってますか?知らないよ、引っ掛けるなよ、で、何て言うの?
シャセジュセって言うんです。本当かい?嘘です。そうだろ。でも良く出来たジョークだよ、漢字で書くとつまんないけどフランス語的に言うと全然いいよな。この冗談は慎重を期して使っていません。


ちなみにツヨシとは森泉強。アドビジョン赤坂の社長で三十年近く同じ釜の飯を食べて来た仲です。いい奴なんです。


世の中冗談言ってる場合ではないのです。が、こんな本を出したツワモノがいるんです。国内外十三年かけて珍しい名前を持つ土地を探し記録し出版したのです。その名も『世界でもっとも阿呆な旅』(幻冬舎)です。
例えばオランダにあるスケベニンゲン、アルゼンチンのマルデアホ、バヌアツ共和国のエロマンガや、鼻毛、南蛇井(なんじゃい)等々。
埼玉県入間市大手半導体メーカーに勤める会社員(慶応大学出身)安居良基(あんきょよしもと)さん(36)の作品です。ストレス解消の一冊としてお勧めです。こういう人がいる事に心から乾杯です。もっと笑いましょうよニッポン人。もっと阿呆になろうよニッポン人。

2010年1月24日日曜日

人間市場 便秘市

話の主役はずばり便秘である。61歳女性、古い友人である。
出るものが出ないのは問題である。給与が出ない、ボーナスが出ない(深刻である)、パチンコの玉が出ない、頼んだカツ丼が待てど暮らせど出ない、人の家の駐車場に図々しく入れてある車が出ない、ふざけんなである。これら出ないは、10日以上も出ないウンコ又はウンチ、又はクソに比べれば深刻度も、苦痛度も、恥ずかし度も違う。食べた物は出る様になっている体の仕組みである。
そうでないと人間フォアグラになってしまう。
牛乳も飲んだ、下剤も飲んだ、アロエも飲んだ。水は一日4リットル以上飲んだ、食べるのを止めた、歩いてみた、縄跳びもした、ウォシュレットでピンポイント攻撃もした。しかし、体の中で炭素化し、備長炭となってしまったモノは、全ての努力、攻撃を受け付けなかった。
10日を過ぎるといよいよ下腹部はパンパンになった。脳の血管がブチ切れる程踏ん張った。ダメだ、どっとトイレに崩れ落ちた。どうしよう、よし、感触は絶望を生んだ。そして絶望は一つの結論を生んだ。待合室には10人位いた。診察券を入り口に出す。保険証、今日はお持ちですか。ハイ、と出す。看護師さん3人、事務方2人のクリニックであった。自宅の側なので、私も時々ご厄介になっていた。
今日はどうされました?一瞬言葉が出ない。何病みたいなのか判らない。待合室には若い男性もいる。先生は46歳、唐沢寿明似の美男子である。やっぱりよそうと、体の重心が後ろに下がる。でも、下腹はパンパンでシクシク痛い。ちょっとお腹の調子が悪いので。そうですか。そうして待つ事1時間10分、名前を呼ばれる。その時間の長さは人生分に匹敵したと言う。
先生はいい人でした、優しい人でした、掘削人でした。診察台に新聞紙が大量に敷かれた。先生は工事を始めてくれたそうです。備長炭は全て掻き出されました。オメデトウゴザイマス、ヨーオ、お手を拝借です。
信じられない量でした、と先生がおっしゃったとか。人間は出ない出ないと思っていると、本当に出なくなり、便は炭化状態になるそうです。もっと酷いと開腹手術するケースもあるそうです。友人は、生涯これ程スッキリした事はない気持ちだったと言います。あまりの嬉しさに、クリニックからそのまま私の家に来ました。話は盛り上がりました。爆笑、快笑、大笑です。目から大粒の涙がバラバラと落ちていました。次の日花屋さんで花を買い、朝一番で御礼に行ったそうです。かなり臭っていた気がすると言っていました。
それから一ヶ月後位経ったある日の夜、友人は娘夫婦とイタリア料理を食べに行ったそうです。空いていた席は一つ、そこに案内されました。あっ、先生。先生夫婦が先に来て食事をしていました。穴があったら入りたい、恥ずかしい。何も知らない娘さん達はもう座ってしまいました。仕方なく、先日はどうもと蚊の鳴く様な声で挨拶をし、席に着きました。何をオーダーして何を食べたか記憶にないと言います。
ここ数日便秘気味なの、泣く様な声で喋りながら、天津甘栗を食べていました。
さて、どうなるか。

2010年1月22日金曜日

人間市場 鳥ドリ市

借金ばかりしている鳥は何て鳴く?それはいつもピーピー、ピーピー。

過去ばかり振り返る鳥は何て鳴く?それはいつもカッコ、カッコ。

お経ばかりあげている鳥は何て鳴く?それはいつもホケキョ、ホケキョ。

人の事をいつもコケにしている鳥は何て鳴く?それはいつもコケコッコ、コケコッコ。

キスばかりしている鳥は何て鳴く?それはいつもチュッ、チュッ、チュッ。

いつも人の話に感心ばかりしている鳥は何て鳴くのでしょ?それはいつもホォー、ホォー。

自分が苦しみを一身に背負っている様な鳥は何て鳴くのでしょう?それはクッ、クッ、クッ、クッ。

小さな庭にある梅の木に小さな蕾が見え始めました。その木の枝に色んな鳥が飛んで来ます。それこそトリドリです。忙しそうに動き回ります。カタッっと音がしただけでみんな飛んで行ってしまいます。そして又来ます、万両とか千両の赤い実をとっていってしまいます。柚の木の黄色い身を突っつきまくります。鳥たちのフンがいい土を育ててくれ、木を育ててくれます。

いい借景だった家の前に家が建ち始めました、相続税を払うために売ったそうです。奥さんは愚妻のお茶のお師匠さん(宗偏流)。娘さんは私の娘のピアノの先生。大きな家に大きな庭でした。

早朝から日が落ちるまで箒を一本持ってアッチコッチ掃除をしてくれるご主人でした。朝起きたら死んでいました。あんまり家が大きいのでご家族は判らなかったのです。ある日すいませんね、お宅の前に家を建てさせてもらいますよとご挨拶に来てくれました。駄目ですとは言えないので鳩サブレーかなんかを有り難く頂きました。

工事の音がしていると鳥たちが近づきません。気に入っている夏紅葉の木に陽が当たらなくなりそうです。小さな池に久々鯉の子供を入れようと思って昔買った金魚屋さんに行ったらもうありませんでした。熱帯魚屋さんに行ったら教えてくれるかもと思って行ったらそこもありませんでした。

昔デパートの屋上はそれはそれは楽しい処でした。楽園でした。藤沢のさいか屋に電話したら魚類はとっくに売ってないと言われました。

仕方ないから魚類図鑑で鯉とか金魚を描いてやるべえと構想を練り始めました。風情のない町になって行くのは淋しいものです。果物屋(交通事故)おもちゃ屋(突然死)電気屋(不明)洋品店(ユニクロのせい)本屋三軒(万引きとブックオフ)銭湯(不明)駄菓子屋二軒(不明)中華屋(病気)魚屋二軒(やる気喪失)おでん屋数軒(不明)うなぎ屋(火事)みんな消えて無くなりました。

共通していたのはみんな借金鳥で、ピーピー鳴いてカッコーカッコーと過去を懐かしんでいるとの事でした。(タクシーの運ちゃんに聞いた話です)

近所のセブンイレブンとサークルKが店を閉めました。こちらは毎日寝不足で奥さんがすっかり参ってしまったそうです。モニターで万引きを見張る、レジのお金をくすねられるのを見張る、ホトホト寝不足で夫婦でもうやめようとなったそうです。

先日海岸でボンヤリ海を見ていたら元セブンイレブン浜須賀店店長夫婦が仲良く夕方の散歩をしてました。どうだい元気かと言ったら、毎日寝てばかりで太ってしまいました、と言って江ノ島の方に行きました。

俺の人生の閉店はどんな形にするかとふと考えました。自分の体に白い紙を貼って歩き回る。長い間のご愛顧を心より御礼申し上げます。様々なご無礼、乱暴浪籍、悪タレをお許し下さい。ここにて閉店申し上げます。こんな感じが良いかもしれない。ツケが残っていたらお早めにご請求下さい、お支払いできない場合がありますので、店主敬白

一人の釣り人が大きな真ゴチを一匹と平目を一匹ルアーで釣っていました。

2010年1月21日木曜日

人間市場 ボカシ市

ボカシとは何か。ボカスとは違う、ボカスには主体的意思を感じるがボカシは何となく曖昧模糊だ。話をボカシ、売上げをボカシ、交際をボカシ、仲違いをボカシ、陰部をボカシ続ける。

ちょっと何でこんな話になったの?全然最初の話と違うじゃない。え、どうなの?え~、あの~、まぁ~と表情をボカシ出す。ボカスのだったらボカボカにするがボカシは中々手強い。すいません、あの~、本当すいません。

え~っと、なんだいハッキリしろっていうんだよ!何でこうなるの?何でそういう不真面目、不誠実、不見識、訳判んねえな君みたいな人。何かボカシの入ったヌード写真みたいじゃないかい、えっ、私はヌードなんかなりませんよ。当たり前だよ、君のヌード見てどうすんだよ。変な例えは止めて下さい、プライド傷つきますから。よく言うよ何がプライドだよ、嘘ばかり嘘八百八橋じゃないか、俺は嘘は大嫌いなんだよ。プライドなんていうのはちゃんと約束を守る人間が持つものなのだよ。君は何で人の目を見て話をしないの、どうして目がキョロキョロ動くの?駄目だよ人と話す時は目を泳がしちゃ。君のやっている事は刑務所の塀を上を歩いてんだよ、判る?俺が訴えたら御用だよ、そうするか?止めて下さいお願いします。じゃどうすんのみんなに迷惑かけてんだよ。えっどうするの。あの~、え~と、別にボカシてる訳じゃないんですが、あの~、顔中汗だらけ汗中顔だらけ、ちょっとおしぼり持って来てやってくれる、こいつ駄目だわ全然。信用できないボカシ話はここでお終いにする。

ある日、元小学館の少女コミックの編集長、業界では名の知れた男との会話です。こういう男は一歩外に出ると、何言ってやがんでバカヤローと空缶なんか蹴っ飛ばすんです。オイッそこの表現はボカスんだぞ、何ていうとジャーナリストの上に立っている感じですが、オイッそこのとこボカシ入れろなんていうと途端にポルノ雑誌ぽくなるんです。

ある日、キミ本当は彼氏いるんだろ、いや~だいな~い、全然。話ボカシてばかりじゃないか。だって、私、いや~だ何言ってんの。

銀座東映の側にガラス張りの喫茶店の中、私は映画が始まるまで少し時間があるのでコーヒーを飲んでました。目の前の映画の内容より、耳側の話の方が面白いのです。明らかに入れ込んで買い込んでいる片思い男と、明らかに誘い込んで買わせている女。相方三十前後、男は自営業風、女は半堅気風。雪ん子みたいな茶色のブーツがやけに目立つ。12月24日男はプレゼントを渡そうとしています。小さなグッチの箱にリボン付き、中は何でしょうかなり興味あるな、ちょっと中は何って聞いてみようか。連れがプライバシーはボカシた方がいいのよだって、つまんないな。あの雪ん子、君に気がないよ全然。スレッカラシだよ話ボカシまくりじゃないって言ってやらないとプレゼントでカード地獄かもよ、と言っていたらとんでもない事が起きました。

シツコイ人嫌い、もうこんな事しないでと言って男に水をぶっかけて立ち上がったのです。雪ん子恐し、哀れ小太りの男の眼鏡はかなりのボカシがはいってしまいました。

2010年1月20日水曜日

人間市場 最弱市

2002年サッカーワールドカップ世界最強を決める試合の日に、世界最弱を決める国際連盟公認の試合が行われていた。場所はヒマラヤ山間の王国ブータンである。

試合は世界ランク202位のブータンと世界ランク203位のモントセラトである。モントセラトは英国領の火山島面積102km²、小豆島より小さく伊豆大島より大きい。人口8,995人。ブータンの首都は標高2320m

モントセラトはカリブ海の民、当然試合となると酸欠になった魚がアップアップする様になった。しかもチャンリミタン競技場は多摩川の河川敷と同じ様なもの11人の内8人が高山病となった。

前半は0-1と互角であったが後半はフラフラとなり結局0-4で敗退。予想通り地球で一番弱い国となった。悔しかった、せめてあと二週間早く着ていればとヘッドコーチが言ったとか。

こんな楽しい話を言語の機関銃、ジョークの刺し綱、言葉の吹き矢、井上ひさしさんのエッセイ『ふふふふ』で知った。

こんな試合なら何を置いても見てみたいと思った。最強もいいが最弱はもっといいものだ一方、2006年最強を争ったフランスとイタリア戦、あの有名なジダンの頭突き一発があった。ファイト一発はリポビタンDだが、この一発はイケマセンDであった。イタリア、マテラッツィがジダンをシャツの上からしつこく押さえ込んでいた、ジダンがそんなにシャツが欲しいなら後でやるよと言ったとか。

そこでマテラッツィがこう言い返した。

「テロの売春婦の息子め、くたばっちまえ」

「あるいは、おまえのシャツじゃなくて俺はお前の奥さんのシャツを脱がせたいんだ」

世界各国の読唇術の専門家が分析した。ジダンは頭に来た、だから頭を出した。

どーんと一発。世間では頭突きと言う。

結果はPK戦でイタリアの勝ち。後味の悪い試合となった。最強と最弱、フェアプレイとアンフェアプレイ。勝者には何もやるなと言ったのはヘミングウェイだ。

世の中あまりにも勝つだ負けるだばかりとなった。値下げの全力競争だ。私たちの国は大切な何かを忘れてしまったのかもしれない。自分たちの作った商品への誇り、プライド、頑固な姿勢だ。値下げで日本一、世界一になっても所詮はバーゲンセールの成功者だ。


ブータンとかモントセラトの選手、サポーターも全力を出しつくした。正々堂々戦った者だけが生む皆こぼれんばかりの笑顔であったという。

最強という言葉にあまりに支配されていた自分を反省し今後は最弱を目指す事にしたいと思った。ジダンがモントセラトのコーチになったり、マテラッツィがブータンのコーチになり子供たちに夢を与える。こんな光景を目にしたい。勝者にやるべき事はたくさんある。私は堂々たる敗者であり続けたい。

次のW杯アフリカ大会、最弱のドラマを見に行きたいと思う。

エメラルド色の海の上でサッカーをしたり、真っ青な空中でサッカーをする事だって不可能じゃない気がする。

2010年1月19日火曜日

人間市場 吉永小百合市

除夜の鐘を聞きながら年末に切り抜いていた新聞記事をノートに貼り終えた。
面倒な事が大嫌いな私が唯一自分の意思で行って来た事である。ある二つの数字が頭に浮かんだ。
108の人間の煩悩と102人(2010年1月5日現在)の死を待つ命。煩悩を凶行という行為で表し、死刑の判決を受け確定囚となりいつお呼びが来るか判らない死刑囚の年を越した命の数である。内閣改造があると誰が法務大臣になるか死刑囚はいち早く情報を手に入れる。
ハトかタカかで一喜一憂する。人を殺した人間程自分の命に執着するという。

12時を過ぎた。新年早々一本の映画を見る事にする。J.comで「天国の駅」を選ぶ。女死刑囚の話だ。
栃木県塩原で起きた日本閣殺人事件をモデルにした映画だ(映画の中では大和閣)。出目昌伸監督、主演吉永小百合だ。今から30年前吉永小百合が最も美しい頃であった。二度結婚して二度とも亭主を殺す。毒婦の役に挑んだ。サユリスト達は吉永小百合の自慰に耽る長回しのシーンに気を失ったという?確かこの年のナンバーワンになりあらゆる映画賞を獲ったはずだ。
この映画をプロデュースしていたのが当時吉永小百合と恋仲にあったという岡田裕介であった、愛する人の為には何としても映画をヒットさせたい。その為には全てをさらけ出し必死に体当たりする吉永小百合の凄さがこの映画にある。一人の男への愛が全てのサユリストたちを奈落の底に落とした記念すべき映画であった。
上映時、吉永小百合を襲う三浦友和、津川雅彦に対しサユリストから、友和何すんだ!津川やめろ、ナニスンダァーなんて声が飛び交ったという記録はない。
愛は名作を生む。最初の夫傷痍軍人、中村嘉葎雄、警官、三浦友和、二番面の夫大和閣主人、津川雅彦、女に恋をするボイラーマン知恵遅れ西田敏行(一緒に死刑になる)、気が狂った大和閣の女主人、白石加代子。全て絶品の演技であった。出目昌伸の演出は完璧に近いものだ。
新しき年はいよいよ官能小説に挑戦しようかと思う。

映画を見終わり時計は三時半、日の出まで庄野潤三を少し読む。クールダウンには持って来いの小説家だ。静かな文章の中に凄い一節があった。
「今、俺の隣に寝ている女、十五年前にただ偶然知り合っただけの女だ。それが昨日も今日もひょっとして明日もこうやって俺の隣で寝ているだろう」
これ程結婚というものを冷静に書いた一節はない。全ては偶然なのだ。結婚は偶然の産物なのだ。偶然と官能が掛け算し、飽きる事がなければそれは続くのだ。

日本閣殺人事件の犯人は処刑される前に刑務官にこう言ったと伝えられている。
「死刑にはしないでね」とか「私、綺麗ですか」と。
何とも官能的な言葉ではありませんか。
1970611日小林カウ(61)女性で戦後初の死刑執行だった。

お正月に見た日本映画、
「陸軍」木下恵介監督、昭和9年作。陸軍省が協力した戦争賢美の作。もの凄い兵隊の量。
叛乱」佐分利信監督。2.26事件はこの映画が決定版。
「明治天皇と日露大戦争」渡辺邦男監督。NHKの「坂の上の雲」なんかこの映画と比べたらおもちゃみたいなもの。CGも全くない時代に作った最高傑作。
「近藤勇 池田屋騒動」嵐寛寿郎の近藤勇が絶品であった。芹澤鴨の訳進藤英太郎が中々よい。
「破れ太鼓」木下恵介監督。坂東妻三郎の土方から成り上がったカミナリ親父が何ともいい風刺劇。
「柳生武芸帳」近衛十四郎の刀さばきはうまい。
「人間魚雷回天」松林宗恵監督。木村功、岡田英次、宇津井健、みんなアルカイダ、ジハードであった。戦争は馬鹿げている。
「雲ながるる果てに」特攻隊の若者の出陣前夜、木村功、鶴田浩二が散りゆく若者の苦悩を切々と演じている。
と、終戦以前の物ばかり見まくりました。
今の日本映画のヒット作品はほとんどマンガが原作。即ち小説家や脚本家がマンガ作家の発想力、展開力、何より情報力に劣っている為だ。徹底的に昔の作品を観まくる、そこにこれからの映画作りの原点がある。日活ロマンポルノが甦るという記事があった。いい事ではないか。今をときめく映画監督の多くはロマンポルノ出身なのだから。
CGを見飽きた人々は必ずアナログに帰って来る。人間ドラマに芸術作品に帰ってくる。

2010年1月18日月曜日

人間市場 チンケ市

人を決して信じない、人に任せない、信じられるのは金、金、金だけの人。
沢山見て来ました。ほぼ全員地獄を見ています。又、今現在地獄に向かっています。本人は目の前の預金通帳の数や持ち株や金庫に隠したお金を見ると自分がまさか地獄に堕ちるとは思わないのです。


お金はお足ともいいます、逃げ出すと足力が凄いのです。お金ばっかり追っていると家族を失い、友を失い、恩人は怒り、知人は呆れ返り離れて行きます。


ケチでチンケな奴は裏の世界では最も嫌われます。あいつは器量がない、金離れが悪い使えない奴と言われ蔑まされるのです。問題は本人が気付いていないのです。


ケチでチンケな奴ほど逆の事を言います。あれは俺が買ってやった、あそこは俺が払ってやった、あいつにはいつも小遣いをやっている、あの女には随分と注ぎ込んだぜ、えらい金がかかる女でな、なんて格好いい事言う、が実態はこうなる。女の言い分、あの人は本当ケチで金にブシイ(シブイ)のどういう家で育ったのかしら、異常に金、金、金。私には一円だって渡さない。買い物に行く時必要な額を言うとそれだけ、必ず領収書を持ってこい、お釣りを出せだもんね。その内地獄を見るわよとなる。


拝金主義者は絶えず恐怖心を持っている。疑い深くこんなにいい思いがいつまでも続く訳がない、もしお金がなくなったらどうしよう、一、二、三、何度も通帳の数を勘定し数字を確認する。淋しい人生なんです。お金がある不幸とお金が無い不幸、人の心の中は金色の闇、人間は難しい生き物だ。


私はお金は無いけど幸せ者です。少しお金が入ると映画や本や音楽や絵本や若い人材を育てる為に使ってしまいます。愚妻には知らないわよ、勝手ばかりしていてと言われます。
後は食べて飲んで旅してオケラになるのです。人はお金に付いて来てもそれだけ無くなれば直ぐ離れて行きます。(小判鮫たちです)私がしっている拝金主義者の末路の一部を紹介します。
一人は交通事故であっけなく。
一人は全身癌が転移しています。
一人は自分の息子に殺されました。
一人は内妻に突き落とされました。
一人は自ら死を選びました。
一人は愛娘がヤクザ者に連れ去られ息子が外国で麻薬の不法所持で捕まりいつ帰れるか判らない。
一人は生涯ただ一度身内の保証人になり家を取られたのです。
一人は放火にあい何もかも失いました。燃えないはずの金庫の中のお札は熱でほぼ消えていました。
一人は未だ行方不明。


えらい暗く嫌な話ですみません。
宇宙飛行士が「神」を見てしまい何人も数奇な運命を辿っています。拝金主義者はお札という「紙」を見て数奇な運命を辿るのです。その確率はほぼ90%です。ある人間が蛸の吸盤の吸い付きを見て地下足袋を思いつき大ヒットしました。
そしてゴムの加工技術で旅客機や戦闘機のタイヤを作り、戦争成金となり車社会の到来でタイヤメーカーとして発展させ莫大な利益を生み出しました。


その一族が黒い鳩となっています。あんまり凄い金満一族なので私と違って一桁二桁金銭感覚が違うのです、ただはっきり言える事は地獄への入り口に立った事です。


一度ガタが来るとガタガタになるのです。少しだけ、気持ちだけ、恥をかかない位で丁度いいのが、お・か・ね。持ち慣れないのを持つと、ああオッカネェです。
ある取材で兄鳩は弟鳩の事を、僕たちは父親が違うからあまり兄弟愛は無いかもしれないと言ってました。既に生き地獄の中に居るのかもしれません。
兄鳩のギョロ目誰かにソックリです。ご想像にお任せします。

2010年1月17日日曜日

人間市場 寿し市

先だってどこぞの国のタイヤメーカーが我が国の食べ物屋に星一つだ、二つだ、三つをつけた。
我が国の人は、外国人から評価を受けると舞い上がってしまう。


一軒位、バカヤローテメーラ、フランス料理のコテコテのソースに慣れてる奴にこちとら日本料理の味が判ってたまるか、このスットコドッコイ。顔洗って出直して来い、と突き放したという話は聞かなかった。数寄屋橋に私の名前と似た寿し屋がある。ちなみに私は三郎である。


その店のなんと馬鹿馬鹿しい事か。たかが寿しでお一人、お酒とお通しと刺身と寿しで三万円位。一杯、二杯と杯を重ねると、もう寿しの味を一気に忘れる値段が付く。一度行った。
知り合いがそれなりの人であったので、怪し気な私にも一応それなりに対応してくれた。
地下一階。


その隣りにバードランドという焼鳥屋がある。阿佐ヶ谷から進出して来た。こちらはリーズナブル、旨い。感じがいいである。一方は高い、気取っている、寿しは握りが緩い。握りは強くても駄目。台に置いたら少しほんの少し動く感じが名人芸。高いネタを仕入れてくれば誰が握っても旨いに決まっているのだ。着物をお召しになった女性と仕立てのいいスーツを着た御仁が食べていた。
このマグロ本当のマグロみたいで美味しいとか、この白身、なんて色白なのかしらとか、このコハダなんかイワシによく似てる、美味しいわ。なんてスットコな事を言っている。よっぽどひっぱたいてやろうかと思ったが、目上の人と一緒、私の行きつけじゃない。
おやじと言えば、ニヤニヤしながら一応アチコチ目配り。上がりもいいわ、ガリもサイコー辺りになると、生来一言多い私は腰を浮かしそうになる。頼みもしないのが次々出る。掟みたいに出る。外人も数人来ていて、しょう油皿にシャリをボロボロにしている。カタコトの星三つをもらったんですってね、本当オメデトウゴザイマスなんて言ってやがる。堺正章の番組じゃあるまいし。


江戸前の寿しなんざ、本当の立ち食いでさっと食べて、さっと帰る。これがルール。で、その日支払った金額は対して旨くもない(あの程度は幾らでもある)店に品定めされている様でキュークツで仕方なく、不快で仕方なく、十万円でお釣りがチョット。ナメトンノカと思い、マア、これがこの世の別れと支払って終わり。


カッパ巻きなんか、巻きが緩くて海苔が割れてやがんの。それから何日かした日、早朝築地の市場で朝ご飯を食べて居たら、何、何とあの店の若い者が二人、場内の立ち食い寿しを旨そうに食べてやがった。べらぼうめ〜と思ったが、あんまり美味しそうにしているので、放っておいた。その店は、間違いなくあの三つ星より旨いのです。特上で1600円です。十貫位食べても同じ位。


寿しの命は、コハダ、穴子、赤身、かんぴょう巻き、玉子。ちなみに中トロは昔、脂身(しみ)といわれ、縁起が悪く捨てられていたとか。いきなり中トロだ、大トロから入る人とは付き合わない。


私の寿し屋のオススメ。
赤坂「濱寿し」私の名を出せば少し安くなります。おやじはミーハーでテレビ出たがりで困り者です。私の信頼する食通、加藤雄一さんは銀座「小笹寿し」を支持。女性に人気は銀座「まる伊」ここも私の名を出せば握り一貫位サービスしてくれます。昼のちらし寿しは大行列。前日のネタの在庫一掃みたいにこれでもかとシャリの上に乗っています。


ミシュランに旨い店なし。これ、間違いありません、あるのは気取りだけ。
旨い店は自分でめっけるもんですよ。あっ、忘れてました。ホテルオークラの地下に久兵衛という店があります。先日、巻き物が満足に出来ないので気合いを入れたら、店内シーンとなりました。遠くで河野洋平さんがキョトンとしていました。私は一言多いのです。




江の島に来ましたら「寿し政」をぜひ。その昔裕次郎さんの行きつけ、今も石原慎太郎さん伸晃さんを頭に、石原軍団の集結場です。オヤジさん、息子さんサイコーです。

2010年1月16日土曜日

人間市場 検診市

○山□子さん、ファ~イ。こっち来てお洋服を脱いでこの服に着替えて下さい。
ファイ、ファイ、まず身長を測りましょうね、ここに乗って顎を引いて背中を真っ直ぐにして下さい。
アラッこの間より1.5cm縮まりましたね。アラ、そうですか何ででしょうかね。後、胸のレントゲンと血液検査をしますからね。


もうお判りですね、この日は老人検診の日。病院の待合室は65歳以上から90歳位の老人で一杯です。調子が悪い友人の為に、院長先生に大学病院への紹介を頼みに来たのです。院長室の入り口のレザー張りの長椅子に座って居ました。


おばあちゃん幾つと聞くと、アタシわ84歳ですと○山□子さんはお応えになりました。ヘェ~それでも検診するんだ、おばあちゃん幾つまで長生きしたいのと尋ねると嫌な顔もせずに死ぬまで生きていたいの、美味しいもの食べたいのよワッハハハ。おじいちゃんは七年前に死にました、コロッとね。ワッハハハ。毎年やってるの?そうですよ、あそこにいる人たちはお友達、ここで会えるのが楽しみでね。あの人は高血圧と痛風と酷い耳鳴り、あの人はリウマチとアトピー、あの人は坐骨神経痛と高血圧と高血糖、あの人はこの間大腸癌を切ったのよ、あの人は胃と腸を何しろ一人暮らし、あの人は可哀相な人でね、ハイ、レントゲン室入って下さい。ファイ、ファイと。




ここで○山□子さんはレントゲン室へ。先生の声、ハイ大きく息を吸って、ハイ吐いてぇ~、そう上手いですよ直ぐ終わりますからね。


一月一日元気であれば○山□子さんはめでたく一歳年を重ねたはずです。
病院の待合室は家庭の医学書一冊分の患者さんが来る所です。この人たちはほぼ皆お正月寒川神社に行って、無病息災、八方除、火災難除、家内安全、旅行安全、病気平癒、交通安全、孫やひ孫の受験の合格祈願等をお賽銭100円でお願いするのです。


おばあちゃん、おじいちゃんがのんびり猫を膝の上に乗せてミカンなんか食べている写真は一家の財産です。お正月はお餅を喉に詰まらせるのが多いのです。気をつけて下さい。
○山□子さんは身長が1.5センチ伸びます様になんてお願いするかもしれませんね。




昔はいいおばあちゃんやおじいちゃん役者がいました。浪花千栄子さん、北林谷栄さん、笠智衆さん、浦辺粂子さん、三益愛子さん、伊藤雄之助さん、森川信さんはフーテンの寅の初代おいちゃん、バカダネーの一言が何とも味がありました。


この頃いい老人役者がいませんね。どうしてでしょうか。あっ、ひとつ思い出しました。病院の待合室で隣のおじいちゃんに余計な事を言ってしまいました。おじいちゃん、人間金持ちも貧乏も死んだらみんな白い骨と灰。どんなにお金を持っていても金色の骨と灰にはならないからね、死は平等だからと。
おじいちゃんはゴルゴ13を読んでいました。ゴルゴみたいな怖い顔で睨み付けられました。そのおじいちゃんは近所でも有名なお金持ちです。

2010年1月15日金曜日

人間市場 アウト市

ピークアウトとトライアウト。
ニーチェ曰く「どんな強い者もいつかは疲れる」又、「どんな英雄もいつかは飽きられる」と言った哲人がいた。

ピークアウトとは盛りを過ぎたという事つまり、限界という事である。会社に定年がある様に人間の運命にも定年がある。名コラムニスト山本夏彦は「人生とは死ぬまでの暇つぶし」と言った。ピークアウトを自分の肌で感じたらクヨクヨしない方がいい。運命の先に寿命がある、その間のもう一度の人生に挑戦すればいいのだ。

一生懸命生きた結果であれば後輩に道を譲ったと思えばいい。運命は自らの手で切り拓かなければならないが、寿命や天命は向こうからやって来る。コンニチワと迎えが来ればハイ今行きますと行くまでの事なのだ。

定年を迎えた人がよく言う言葉はこれから好きな事をやって生きるよと。こう言える人は恵まれている人。未だローンやら病人やら老人を抱えているので、どんな仕事でもいい働かないと、と言う人。あるいはワーカホリックが身に染み付いて働いてないと落ち着かないとにかく働きたいという人。頭は白くなり薄くなり走ることはままならず目は遠くなり記憶は飛び新しい事は頭に入らない、でも朝決まった時間に起きて昼には定食を食べ、ドトールでコーヒーを一杯飲み、仕事が終わったら冷えたビールをグイっと飲みプハァ~と声を出し、ヤキトリを四・五本食べる。牛タン塩、レバーをタレ、皮、ぼんじりは塩、給料日には奮発して手羽先の塩を追加する。枝豆やモロキュウ又は冷奴があれば極上の時間となる。人間は本来遊ぶ為には生まれていない(遊び人もいるが)男は地を耕し稲や麦を植え野菜を作り、魚や貝を採り鹿や猪を狩猟する、これが掟。

ピークアウトは自分で決めた方がいい。人が何と言おうと自分は今が盛りだと思えばいいのだ。ニーチェなんてくそくらえなのだ。小倉遊亀、片岡球子、奥村土牛なんて百歳になってもピークだったのだから、人生に定年は無いのだ。

トライアウト。これはキツイ、切ない、悲しい、辛い。プロ野球の世界で十二月入団テストというのがある。天才、十年に一度の大物、甲子園のエース、怪物、色々に形容されてプロ野球に入団したものがプロの厳しい洗礼に遭いメッタ打ち、エラーの連続、三振凡打の山、期待を裏切り続ける。監督やコーチと折合いが付かない。

自信過剰が不幸を呼ぶ。人の成功を妬みだす。一軍に入ってもすぐに二軍に落ち、ずっと上に上がれない。更に妬み心は荒む。又、自分では未だ未だ出来ると思っていても球団からはいらない、つまりは戦力外通告を受ける。まだやりたい、どこでもやりたい、二十代から三十代の選手。野球しかやってこなかった屈強な男たちだ。トライアウトシステムは各球団がテスト生のテストをするのである。成功する機会はほんの少数でしかない。

ああ、もっとちゃんとやっていれば、ああもっとうまくやっていればと思いつつマウンドに立ち、打席に入る、コーチたちの厳しい目が光る。テストが終わり後日結果を待つ。妻や子供と、ある者は一人で、ある者は恋人と二人で。首を長くして筋肉に隠れた胸をドキドキさせて。

万に一つの希望を持って携帯が鳴るのを待つのだ。ブルルルー、携帯が鳴った。直ぐ手にする。もしもし、ハイハイ、ハイ。目からうっすら涙が流れる、果たしてその結果は。