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2020年2月13日木曜日

第21話「私は葉書」

私は「葉書」である。大手出版社の編集人の方が、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演された時、葉書は心の握手なんですと言った。有力編集人ともなると、毎日毎晩、天才、奇人、変人や狂人に近い小説家大先生と付き合う。朝まで生テレビのように正に朝まで飲み、食い、交論、談論をし、悪口雑言を聞きなだめたり助言したりする。小説家という先生方は自分の作品についての評価、評論をことの他気にする。編集人は夜が明け帰宅すると、前夜会った先生方に、一枚一枚心のこもった葉書を書き、ポストに投函する。ここまでやって編集人の一日は終る。大先生たちも、中先生も、小先生もこの一枚の葉書で、よしまた頼まれたら書いてやろう、となる。これがメールとかFAXとかではイケナイ。葉書は封筒に入った手紙と違って、手にした人はその文章が読める。仮りに大先生から返信の葉書が届くととそれはお宝物の葉書となる。かつての文士は葉書の名手であった。私葉書は味のある文章、味のある絵付、凄みのある一言なんかを書いていただくと、とてもいい気持ちになる。郵便屋さんが私葉書に配達してくれることに感謝するのだ。私葉書に思い出深い一枚の葉書がある。それは先日亡くなった野村克也3冠王&名監督から届いたものであった。ある仕事に出演していただいた。父と子が本音を言うものであった。その仕事では、何組も出演していただいた。撮影した数日後、万年筆で書かれた達筆な文章による礼状だった。私葉書は大変感激をした。私葉書のような仕事をしていると、いろんな人とお仕事をするが、見事な葉書一枚と言うと、野村克也さんを思い出す。数年前定宿にされていた都内のホテルラウンジで奥さまと珈琲を楽しんでおられた。友人と一緒だったのだが、私葉書はご無礼はお許しくださいと、お二人の前に立ち、一枚の葉書の御礼を言った。亡くなった次の日のテレビでニュースを見たり、記事などを読むと、かつての教え子たちが、監督からごていねいな葉書をもらって励まされたとあった。皆さん口を揃えて、達筆にして名文だったと。名監督は人の心を動かす名人でもあったのだ。私葉書はこの父と子の雑誌広告シリーズなどで、業界の登竜門の新人賞を受賞できた。私葉書は亡き野村克也さんと、心の握手ができていたんだと思った。心よりご冥福をお祈りする。監督としての通算成績は、1565勝1563敗、2つだけ勝ち越し、率にするとジャスト5割であった。王や長嶋はヒマワリ、オレはひっそりと咲く月見草と言った。人を育てた人こそが大才だとも言っていた。京都丹後の峰山高からテスト生で入って、野球界に偉大な足跡をのこした。コンプレックスと反骨心がその支えだったという。私葉書は届くかどうか分からないが、今惜別の葉書を書いている。

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