私は「服薬」である。生涯何も薬を服用しなかった人は、現代社会が生じた頃から誰もいないだろう。人それぞれに体質があり、各器官、各臓器の性能が違い、遺伝子が違う。頭痛、腹痛、鼻炎、歯痛、尿モレ、便秘、下痢、喉、扁排線、咳、アレルギーなど、人間がかかる病は分かっているだけでも、ぶ厚い家庭の医学の本になる。お医者さんに行くと、それらに適した薬を処方してくれる。かつては病院内で薬をもらったが、現在は調剤薬局に行って薬をもらう。その時に、私服薬が発生して、“お薬手帳”をもらう。○△さんお薬ですよ、ファイハイとオバアチャン、イヤになっちゃうねマッタク、こんなに薬を飲まなけりゃイケナイなんて、私服薬はたくさんの袋に入れられる。オバアちゃんお薬手帳は、ファイハイありますよ、こんなにたくさん。そんなに全部を持って来なくてもいいんですよ、嫁が持たせてくれたバッグの中に入ってますよ。え~と、え~と、よく分からないけど、あっ、それそれですよ、アラそうみんな同じだけど。今度も朝、昼、夜、就寝前に分けてあげますからね。アラそういつもと同じね。私服薬は小さな四角いビニール袋に入れられる。そこには、朝とか昼とスタンプがされている。オバアちゃん、これはヒンニョウ、これは血圧、これは便秘、これは腰痛、これは尿酸、これは血糖、これは偏頭痛、これは……これは……。マッタクこんなに薬を飲んだらおなかがいっぱいになっちゃうわ、ダハハハ……。私服薬は治験を経て、許可されたもののみに服用が許される。ハイこれはウイルス用ですよと出される薬はない。人類の歴史は、ウイルスとの闘いの歴史でもある。文明の進歩が新たなウイルスを生む。お薬手帳にペタッとシールを貼るには、途方もない時間がかかる。人間は戦争で何千万人を殺すが、ある人間の思いもよらぬ発見と発想から、何千万人もの命を守って来た。私服薬はアイデアの証である。中国五千年の歴史は、漢方の歴史だ。その調合は奇跡に近い。昨夜「コンテイジョン」という映画を見た。現在の新型コロナウイルスを予言していたような映画であった。スティーブン・ソダーバーグ監督、マット・デイモン主演。世界は突然発生したウイルスに攻撃される。はじめは咳と喉の痛みと頭痛、そして発熱であった。生魚から(?)生肉から(?)生ゴミ、あるいわ人体から、現代社会は新しいウイルスを生む宝庫だ。私服薬が出番となる日は遠い。人とヒトはパニックを起こす。愛しているわ、なんて言いながら抱き合い、Kissをしようと思った時、ゴホン、ゴホンと相手が咳込んだら、その瞬間に愛は終る。離れて、離れてと。世界保健機構は感染者の致死率は20%という。世界人口が70億か80億人とすると、15・6億が死んでしまう。人類を救う物は何か、カビからペニシリンができたように。生き物を救うのは動物か植物からでしかない。パンデミックはネズミ算のように増え続ける。ネット上にはデマが乱れ飛ぶ。過去のワクチンにヒントはないか。映画では人間の12人の内の一人が致死すると予想する。世界中はマスク、マスク、マスク。アメリカ合衆国は250万人が致死する。私服薬は出番が来ない。かつて戦争用にあるあらゆる細菌兵器が研究された。その研究ストックは、どの国にも秘密のまま隠されている。人類を救う大発見は、“一木一草”とその周囲にある。地の中の虫にもある。オバアちゃんのお薬手帳に貼られるまでには、世界中で数千万人が死ぬ。誰のせいだといえば、文明の進化のせいだ。新薬のワクチンは当然のように、夥しい数の人体実験(治験)が行なわれる。私服薬は一日も早く、お薬手帳にペタッと貼ってほしいと願う。最早オリンピックなどは、夢のまた夢だ。人が集まる所はウイルスが集まる所。映画では……。今と同じだからぜひ見てもらいたい。映画ではコウモリが落とした、フンを食べた豚たちから、私服薬は生まれた。SARSのワクチンである。何! とんかつが食べたいだと。
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