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2020年3月13日金曜日

第36話「私は2輪」

私は「2輪」である。五輪は平和の祭典だが、今では商業五輪(オリンピック)になっている。私2輪は自転車である。オートバイのように力強いスピード感はない。私2輪はひたすらペダルをこいでないと倒れてしまう。人はそれを自転車操業という。私2輪は半世紀ペダルをこいで来た。おしりはずっとサドルの上にのせていたので、きっと人よりは固いはずだ。私2輪はハイコロとか、チャリンコなどといわれて来た。少年の頃は自転車が持てなくて、貸し自転車に乗っていた。ちくしょう、いつかピカピカのチャリンコを買ってやると思っていた。貸し自転車はタイヤの大きさで値段が違った。一時間とか二時間借りて乗った。10円とか30円、長くて50円位だった。ブレーキがついてないので、こいでないとフラフラとして転倒する。つまり少年の頃から自転車操業をしていたのだ。当時小坂一也とワゴンマスターズというバンドに人気があった。原田実がバンドマスターであったが、小坂一也の人気は絶頂だった。故小坂一也は人気女優の永遠の恋人と言われた。~ サイクリング サイクリング ヤッホー ヤッホー なんて歌ってサイクリングブームを呼んだ。「青い山脈」という戦後を代表する青春映画には、~ 若くあかるい 歌声に 雪崩は消える 花も咲く 青い山脈 雪割桜 などと若い男女が美しい山並みを見ながら、丘の上を自転車で走る。青春の先には、明るい未来と四苦八苦がある。それを乗り越えるんだと暗示した。戦争が終った空には爆撃機も、戦闘機も飛んでなく。青い空、白い雲たちが意気高く歌っていた。貸し自転車に乗った、私2輪少年は暗示されてた通りの茨の道を進む。十代の頃は「日月火木金土」と競輪場に通った。水曜日は休みなので、川崎競馬や多摩川、平和島の競艇に行った。未成年だったのに、お化粧をした年上の女性と一緒だった。独特の人間たちの中に、マブイ(美しい)女性はキラキラしていた。ランチはアジフライとか、クジラのカツ。揚げたてにブルドックソースとか、イカリソースをかける。ジュワーと音がする。それを食べながら、差せとか逃げろとか、まくれとか声を出す。かませ、かませと声を出す。夜ふとんに入ると頭の中に、京王閣、松戸、西武園、立川、競輪場の打鐘(ジャン)の音が、ジャンジャン鳴る。競艇場のエンジンの音や、川口のオートレース場のバイク音が唸りを上げる。学校からの呼び出しを持って母が来る。ガバッと起きて、我に返る。ハイナシだ。ハイナシとは金が無いという事だ。ハイナシの人生を経験し、私2輪は自転車操業をして来た。だが天は味方をしてくれた。私2輪は競輪、競馬、パチンコ、麻雀。花札。チンチロリン、オートに競艇、スマートボールにラッキーボール。トータルするとかなりプラスであった。たくさんの後輩たちを面倒見て来れた。だが会ったら土下座して、お詫びをしなければならない人も多い。二十代になって殆ど止めた。会社経営(プレゼンテーションに勝つか負けるか)がバクチと同じであった。この世とあの世がくっつき出した歳になった今、世界は株価大暴落、大不況へのジャンの音が鳴りはじめた。アメリカのトランプが、守りに滅法弱いことを証明した。カジノ経営を失敗した男が、アメリカの経営の失敗を世界にさらけ出した。私2輪にまた、また、また、また……。大不況の波が押し寄せて来た。サイクリング サイクリング ヤッホー ヤッホーとは行かないだろう。なだれは消えなく、花も咲かないかも知れない。土壇場は修羅場になるだろう。私2輪はジャンの音をBGMに(耳鳴りが酷い)勝負に出る。勝負は最後に生き残った者の勝ちだ。攻撃は最大の防御だ。私2輪には長い間苦楽を共にして来た。仲間たちがいっぱいいる。この日が来るのを数年前から読んで、手を打って来た。皆で支え合い、励まし合い、助け合って行く。仲間は宝だ。アジフライと、クジラのカツを食べて。私2輪にブレーキはついてない。グチをこぼした者は負ける。アベノミクスは見る影もない。私2輪は人生を土壇場と、修羅場の中の人間から学んだ。教科書には人生がない。正しいか、間違いか。その間がない。本当の正解はそこにある。人の心は難解な問題だ。

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