この男以上の人間は広告代理店のクリエイターの中にいなかった。その男があの世に旅立つ。今日十時~十一時が告別式だ。悲しいことに家族葬で参列ができない。四十年近く前初めて出会い、いろんな仕事を一緒にした。天才、奇才、一流といわれる人たちも多くいたが、仕事への嗅覚に優れ、企画立案力、判断と決断力。その展開力、交渉力、提案力、表現力、プレゼンテーション力、一つひとつの仕事への熱力が凄かった。長期ロケ、過酷なロケでの統率力、忍耐力、その全てが天才の上を行っていた。私は広告代理店のクリエイターと数多く仕事をさせていただいたが、ついにこの男以上の人間はいなかった。人にやさしく、ロマンチストで、フェミニストであった。声がよく声優もこなしていた。男は顔じゃない。女にモテ過ぎるほどモテたので、私は“歩くモーテル”と言った。逆に私を“歩く迷惑”と言った。なかば決っていたものを私がよく引っくり返したからだ。最高のライバルであり、最高のコンビだった。そして最高の友人だった。今、私の体には脱力の風が吹き抜けている。つい先日に大尊敬していた、師匠が八十余年の生涯を閉じた。稀代の名文家であり、博覧強記の食通だった。この十日間の間に二人のかけがえのない存在を私は失った。実姉、義兄、義兄、師匠、恩人、友人、今年去った人たちの葬儀はない。全て家族葬だ。♪~夜がまた来る 思い出つれて おれを泣かせに 足音もなく なにをいまさら つらくはないが……。深夜、小林旭の“さすらい”をしみじみ聞いた。超天才のその男はみんなに愛された。はじめて会った時、私のキーワードは“少年と風”だと言った。少し太目の体、細い目をゆるませ、やさしい声で、“いいネ、いいネ”と言った。そして二年後、某大手飲料会社の大プレゼンテーションを決めた。当時六本木に竜雷太の経営する竜の子という店があった。夜、みんなで乾杯! 乾杯!と叫んだ。みんな若かった。その男が信頼したすばらしい上司、私たちはお殿様と言っているが、お殿様はベラボーに予算がオーバーしても、笑って許してくれた。男のダンディズムの見本だった。やっぱり二案出しますかと言うと、どんな大きなプレゼンでも、いいよ、一案でと言ってくれた。BOSSは私たちコンビを信頼してくれていた。私は今そんな日々を思い出している。さらば友よ、私は死ぬまでクリエイティブに生きる。あの世から大磯の大親友と見守ってくれ。それからお殿様も頼む。骨と灰をもらいに自宅に行くからな。体に力が入らない。心に力が入らないのだ。合掌 (文中敬称略)
1 件のコメント:
ビックリしました。
人生を楽しむ哲人でした。
歌手のsさんに似てるのに女性にはモテました。
私は大人の女性の振る舞い、クリエ-タ-としても、門まで連れていってくれました。
銀座の清月堂で、美味しいコーヒーとチーズケイキをご馳走になりながら、色んな事を教えていただきました。
六本木のサンバクラブでは、楽しく踊り、大人の遊び方も学びました。
私の母親もT氏のファンでした。
カンヌでの盛装したk氏と二人が楽しげに撮影された写真をみながら、涙が出てきました。
ご冥福をお祈りします。
合掌
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