首切り花とも呼ばれるのは椿の花だ。
精一杯咲いていると思っていると突然ポトンと落ちる。
小さな庭に緋色と、紅色の寒椿が咲いてはポトンと落ちていく。
二つ、三つ続けて落ちると花と花と花が重なり合うことがある。
ポトン、ポトン、パサバサという小さくざわめく音がする。
日本人の人質二人の首が切り落とされた。
無惨残酷なのは、この国の人々はすぐに忘れてしまうことだ
人間にとって一番悲しいのは、愛されないことより、忘れ去られることだという。
先日芥川賞と直木賞が発表になった。さて、名前はというともう忘れている。
その程度の賞になってしまった。
高倉健はいつ死んだか、菅原文太はというと、もう忘れている。
まてよ昨日は何を食べたっけというとすぐには思い出せないことが多い。
一昨日となるとほぼ忘れてしまっている。
記憶は脳の中でポトン、ポトンと消え落ちていく。
テロリストは、この国の人々が忘れた頃に再び日本人を人質にするだろう。
「忘却とは忘れ去ることなり、この忘却を知るこころの悲しさよ」その昔、大ヒットした映画「君の名は」の中にこんな一節があった。
君の名はとたずねし人ありからはじまった。3.11が急速に風化し忘れられている。
ポトン、ポトンというより、ツツツツーツーと忘れられている。
あと十日もすれば、首を落とされた二人の名前も忘れられてしまうだろう。
ならば何もかも全て覚えていろとなると超人以上にならねばならない。
人間が人間らしくあるための条件が思い出せない。
現在二月四日午前三時十四分五十六秒、今日は何を食べたか思い出している。
背中の向こうでパサバサと音がした、椿の花が落ちたのだろう。
そうか、昼にきしめんみたいなパスタと、夜は刺し身と握り寿司を六、七貫食べた、巻物を少し食べた、味噌汁が出たが中に入っていた白い物を思い出せない。
朝といえば紅茶だけだったと思う。東京へ向かう列車の中でピョコンと頭を下げた同年輩の男がいた。君の名は(?)一日中ずーっと思い出せない。
午前四時、日本テレビ「Oha!4」が始まった。
ヨルダンのパイロットが殺害され、サッカー日本代表監督、アギーレの首がドタバタと切られたと伝えている。これもすぐに忘れられるだろう。
きしめんみたいなパスタの名が思い出せない。君の名は(?)。(文中敬称略)