“変な女”とあえていう。
東京駅午後十一時〇二分、平塚行に乗って辻堂駅に着いたのがほぼ十二時だった。
昨日はかなり暖かかった。
ホームに降りてマフラーをバッグの中に入れた。
ダンボールに二十五冊の本を入れてヤマト運輸に行ったら七時で終わっていた。
ファミリーマートに行けば送ってくれるというのでダンボールを両手で持って歩いた。
仕事場に帰ってボールペンを持つと手が震えていた。
そんな慣れないことをしたのでホームを歩くスピードはゆっくりだ。
階段を登り改札口を通過して階段を降りた。タクシー乗り場には十人近く並んでいた。
私はゆっくり歩きその列に入ろうとすると、一人の女が走って来て私の前に割り込んで来た。
三十二、三歳だろうか。黒のバックスキンのピンヒールをはいていた。
酒に酔っているようだが酒の臭いはしなかった。
濃い茶色のジャケットに黒いフレアーのスカートを着ていた。
パンパンに膨らんだガマ口を大きくしたような海老茶のショルダーバッグを肩にしていた。「すいません、ルール違反ですよね、今日結構暖かかったので薄着なんです」
長い髪をかき分けながらいった。
いいよ一人二人はどうってことないから、なんて気取ったセリフをいった。
なんとなくバックからマフラーを出して首に回した。
やっぱりいけませんよねみんなちゃんと並んでいるしといった。
うるせいなこの女と思ったがマアマアあと三人だと大人ぶった。
そして変な女はタクシーに乗る時にありがとうございました、私は寒さが苦手だったんですといって茶色の名刺いれからこういう者ですと名刺を渡してタクシーに乗って行った。
名刺を見ると「ソニーライフ・◯◯◯◯生命保険株式会社 経営企画部 役員室秘書 ◯上◯ずみ」と書いてあった。名刺にはEmailとかURLとかが書いてある。
なんだいもし私が悪質なインターネットオタクだったらどうすんのと思った(私は全くネットなどできない)。
名刺は破らずに持っている、デスクの女性に見せてから破る。
やっぱり酔っ払っていたのかもしれない。
気味の悪い話を乗ったタクシーの運転手に話した。よく知っている運転手だった。
名刺を見てへぇー名刺まで渡すなんてといった。
家に着いてNHKを見ると、人質になっている日本人の命があと二十四時間だと臨時ニュースで伝えていた。いつもON AIRしている時論公論は中止しますとテロップが流れていた。
真冬なのに生暖かい夜だった。
それなのに私寒さが苦手なんですといった変な女の顔を思い出した。
私の読みでは酔っ払って乗り越してあわててタクシー乗り場まで走って来た。
酔いが一気に醒め、気が動転した。
私のような人相風体の悪い人間に名刺を出す位だから。
東海道線には毎日ドラマがある。毎日短編映画二、三本のシナリオがかける。
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