ある一冊の写真集を買い求めて、ある一軒の珈琲店に行くことを決めていた。
著者-コロナ・ブックス編集部/発行所-株式会社平凡社。
題名は「作家の珈琲」である。
1,600円で作家たちがこよなく愛し通った珈琲店や珈琲のある生活をかいま見ることができる。私の目的は京都、烏丸紫明(からすましめい)にある喫茶店「花の木」である。
祇園で行っている「フェルメール
光の王国展」に、大変お世話になっている羽毛ふとんの老舗メーカー東洋羽毛工業(株)さんが、新ブランドoluha(オルハ)の敷ふとんと枕で寝ながらフェルメールを観る、ネルメールというような大胆な企画に出品しており、31日の最終日前に撤収の打合せに行くことにしていたので、スケジュールの中に「花の木」に行く予定を入れてもらっていた。
何故かといえば私が大ファンであった故高倉健さんが大の珈琲ファン、そして大の「花の木」ファン、そして店内には高倉健さんが大ファンだったというフランスの名優ジャン・ギャバンの大きな写真(私もジャン・ギャバンの大ファン)、つまりファン、ファン、ファンがこの店にあるからだ。
開店して49年、マスターはアルバイト時代からこの店一筋。
「花の木」には高倉健さんの大ファンのピラニア軍団が集まり高倉健さんと映画談義をいつまでも楽しんでいたとか。ちなみにピラニア軍団とは、京都東映全盛時代の大部屋の俳優たちの集まり。今では名優の一人である小林稔侍さんもピラニアの一人だった。
故室田日出男、故川谷拓三、八名信夫、志賀貢などなどが珈琲を飲みながら映画への想いを語り合ったのだ。
そう思いながらそれほど広くない店内を見た。
49年の時間がたっぷりと染みこむ店内はぜひ一度行って味わってもらうしかない。
えっ、こんな静かなところに「花の木」はポツンとある。
高倉健さんは撮影所からタクシーで通ったという。静かなところで、大好きな映画バカたちと子どものようにワイワイガヤガヤ映画作りを語ったのだ。
私は860円のカレーライスとアイス珈琲を、一緒に行ったプロデューサーは860円のハヤシライスと珈琲を頼んだ。実に旨いだろ、ジャン・ギャバンが声をかけていた。
いうことないほど旨い。
この席でね、健さんがよく錦さん(萬屋錦之介)にお説教をしてましたよといってマスターは笑った。