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2020年6月5日金曜日

第75話「私は冗談」

私は「冗談」である。眠れぬ夜は起きていながら夢を見る。恩人から米寿の御祝の写真が送られて来た。みんなはマスクをしていた。先輩からある賞を受賞してパーティを行なった。全員マスクをしていた。知人から新しい家を建てその知らせの写真葉書きが来た。家族みんなマスクをしていた。ある先生が実は愛人が一人増えた、とび切りの美人だからよく見てなと手紙と写真一葉が封筒に入っていた。二人共マスクしていた。後輩から真鶴に釣りに行って、やけくそに投げ釣りしたら、大魚が釣れたと写真と釣り仲間たち、一人ひとりマスクをしていた。久々に銀座を歩いていたら後姿がやけに美しい(?)松屋の信号のところに立ち停って、振り返ったらマスクをしていた。マスクを外した私冗談は持っていたカバンを手から落とした。私冗談の愛すべきクリエイター赤城廣治君が、ずっと熊本城再建のキャンペーン広告をしていると聞いていた。その新聞記事が載っていた。「籠城じゃ」というキャッチフレーズが紹介されていた。熊本城は築城の名人、とりわけ城壁、石垣造りの名人、加藤清正がプロデュースした難攻不落の城、あの西郷隆盛が攻め落とせず。土佐出身の谷干城たちが籠城戦で勝ち抜いた。西郷は加藤清正に負けたごわすと言ったとか。赤城廣治君のこと以外は冗談ですと、私冗談は久々にウイスキーをいつものグラスに入れた。このグラスはいい酒以外は使わない。お気に入りのバカラだ。一昨日ポストの中に、水のトラブルの時にはぜひ、というカラーの名刺と、いい土地買いますと言う、住友不動産のA4三つ折りのチラシ、それと一緒にペラペラっとしたビニール袋、中に政府支給のマスクが二枚入っていた。出来の悪い冗談みたいな気がした。大変お世話になっている歯医者さんが人形町水天宮側で独立開業をした。かねてより開業したらポスターを二点プレゼントすると約束していたので、提案したものを打ち合わせに行った。一点のキャッチフレーズは、「生か、歯科」日本には現在コンビニ以上六万数千の歯医者さんがあるが、くしの歯が抜けるように、一つ、二つ、三つと閉院している。もう一点は「歯医者復活戦」人柄と腕前がよくないとダメ、ただの歯医者さんは、敗者となる。先生の名は「渡邊哲平」さん。すばらしい人格と腕前だ。いい歯医者さんを探している人は、渡邊哲平デンタルクリニックへ。私冗談の名を出せば。麻酔なしで歯を抜いてくれる。(これは冗談)かつて歯医者さんは、いちばんもうかると言われていたが、今は冗談話だ。私冗談もウソまみれの世の中で、何が本当で何が冗談かが、分からなくなった。そうそう松屋のところで後姿だった美人(?)が、何故に振り返ってマスクを外したか、と言えば右手に焼き立てのワツフルを持っていた。マスクを外すと、ギョッギョッと樹木希林さんみたいであったのだ。私冗談の目はすっかり座敷牢生活で、トロくなってしまった。私冗談はマスク大嫌いなので、口を開けず鼻で息をしながら歩いていた。資金はないがやり残した作品をなんとか形にしたい。天才中野裕之監督に、ある作品を再編集をしてもらっている。気に入った原作だったのだが、自分ですっかりストーリーを失った。ヨシ! これだと天才に電話した。さすがに凄い、第一回目の作品が送られて来た。ウイレシイスバラシイと夜遅く電話をした。十年ほど前に奥多摩の奥地で撮影したものだ。人にはあの世に行く前に謝りたい生き物が、必らずいるはずだ。次の世紀新生児はマスクをしたみたいにこの世に出て来るかも知れない。私冗談は本気でそう思った。(文中敬称略)


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