日曜日床屋さんに行った。月に2回が決まりだ。
その日愚妻が弁当を作って置いて出掛けた。床屋さんに行くと少々お待ちをであった。
丁度昼頃朝ヨーグルトだけだったのでお腹が空いてきた。
床屋さんの三軒隣に「一喜」という居酒屋がある。昼はランチを出している。
確か店先の小さな黒板に白墨で、鯖塩焼き+コロッケ+味噌汁780円と書いてあったのを思い出した。
家に帰れば弁当があるのだが(弁当はよく作る)鯖塩焼きが気になった。
この頃鯖の塩焼きの旨いのはとんとごぶさただ。ノルウェー産が一番脂がのって旨いのだ。
銀座の阪急百貨店の裏通りに鯖塩焼き定食の専門店があったのだがどうやら閉めてしまったと聞いた。
床屋さんにちょっと「一喜」で昼飯食べて来るわと言って出た。
昼はオジサンとオバサンの二人。鯖旨いかと聞けば、マアマアかなと応える。L字型になったカウンターに座る。
左隣に中年オジサン一人(隅っこ)右斜め前の四人掛けのテーブルに若いカップル一組であった。
鯖塩焼き定食を頼む。
スポーツ新聞があったので読み始めると左から聞き慣れた音楽というより映画の主題歌が流れて来るではないか。
「およしなさいよむだな事~」座頭市ではないか。隅っこのお客の左斜め上に病院のベッドサイドに置いてある位の大きさの液晶テレビで座頭市が始まったのだ。
右目はスポーツ新聞、左目は座頭市、頭の中は鯖塩焼きとなっていた。
時代劇専門チャンネルなのだ。私もよく見る。CMなしでしっかり見れる。
中・高年第一線引き下がり、カネなし、ヒマあり、やること浮かばずの人気のチャンネルだ。
二十分ほどして鯖塩焼きの登場、レンジでチンではなくちゃんと焼いてある。
「オメェーは座頭市か、ヘエそうでやんす。アノー今サイコロの目は五と二の半ですよねといえば、このドメイラ何処を見てやがる四と二の丁だと中盆はいう。イケマセンやアッシーみたいなヨワイモンオダマシタラ、ナニコノヤロー」なんてぐいぐい聞こえてくる。もうその目は座頭市に釘付け。懐かしいな座頭市、第一話は荻窪大映パルサスで観たのを思い出す。
鯖塩焼きはすっかり冷めてしまったし、コロッケもしんなりしてしまった。
箸を持ったまま画面に食い入る。勝新太郎は座頭市になるために生まれてきた様な役者だ(兵隊やくざと悪名も最高)
すっかり映画に一喜一憂していると床屋のおばあちゃん「アノォーお待たせしましたどうぞ」とドアを開けながら言った。
おばあちゃん今いいとこなんだよ、これが終わったらいくからと言った。
そしてそれから一時間半座頭市物語となった。
何、この後は市川雷蔵の「眼狂四郎」、その後は江波杏子の「女賭博師」と続くらしい。
出るに出れない。オヤッ隅っこでチャンネル権を持っているオッサンに特製のラーメンとご飯が出た。
黒板のメニューになし。どうやらオッサンはほぼ三食ここで食べている様だ。紙袋から自分で持ってきた明太子を出した。負けてんなやっぱり毎日来ている人には。
「一喜」にはシネマという絶品の定食がある。