「君、○☓大学の学生だろ?」と聞けば、大学生とおぼしき若者が、「ハイ、そうです」と言った。「高見順のコーナーはどこ?」と聞くと、「えっ、タ・カ・ミ・ジョンですか?」と言って、パソコンを叩いた。「スミマセン、アリマセン」。「えっ、ないの? それじゃ伊藤整の『氾濫』はある?」と聞いた。「えっ、イ・ト・ウ・セ・イの、ハンランですか? ハンランってどう書くのですか?」と言うから、メモに、「氾濫」と書いた。若者はパソコンを叩いて、「スミマセン、アリマセン」と言った。「有隣堂」ともあろう書店に、高見順も、伊藤整もないのか。ちょっとしたいきさつがあって、高見順と伊藤整をと思って、わざわざ雨の中湘南テラスモールに行った。学生さんはバイトである。とある大学の学生さんだが、文学は学んでいないようだ。「○☓大学湘南キャンパス」として有名だ。なぜ有名かと言えば、湘南とは名ばかりでキャンパスはキツネやタヌキ、アライグマやハクビシン、テンやウサギ、蛇やその他の生き物がたくさん住んでいた場所にある。湘南と言えば、青々とした空と海をイメージするだろうが、まったくの詐欺的名称の大学だ。と、私は思う。湘南台駅からバスに乗って、どんどん潮の香りから離れていくと、山の気配がしてそのキャンバス停留所に着く。○☓大学3年という若者に「今、何を読んでいるの?」と聞いたら、若者の後ろから40代中程の店長の次ぐらいの男が、「すみません、何かお探しの本が」と言うから、「同じことは二度言わない主義だからね」と意地悪く言った。「メモに書いて学生さんに渡したからヨロシク!な」と言った。男は嫌な客だな、マッタク、バカヤロー、アホ、と顔に描いてあった。雨ばかり降っていると、心までジメジメして来る。本がなぜ売れないか。その一つに、私は書店のあり方にあると思う。書店は本を“置いてやって”いるので、売れなければ返本できる。「いらっしゃいませ」と客を向かい入れることもなければ、「ありがとうございました。またのお越しをお待ちします」ということもない。すべてが事務的に行われる。書店にとっての大敵は“万引き”で本を盗まれることだ。盗本にあったら書店がかぶるからだ(そういう決まりらしい)。コンビニと同じで裏で何台もの監視カメラをチェックしている。盗本の犯人は学生が圧倒的に多いと聞いた。写真集や大図鑑、美術、建築関係などの高額本は、アジア系がグループでやって来て、ひと仕事やるらしい。池波正太郎先生風に言えば、急ぎ働きを助ける“引き役”がいるらしい。バイトで入ったアジア系の学生が、監視役になったときに、仲間にメールして手引きするのだという。1冊1万円ぐらいの本を3冊、2万円ぐらいの4冊、5冊とカッパられたら、大赤字だ。盗本は盗本を買う奴等がいるからやる。日本中の本屋さんが本が売れなくて店を閉めている。その原因のなかには、盗本によるものが多いと、「日本盗本対策連盟&連合会(こんなものありません)」が発表していた。その額甚大であった。それにしても呪われたように雨が降る。昨日は新天皇即位の行事がある日で休日。楽しみにしていた少年野球の応援は中止だった。夜やけに寒いので、湯豆腐を食べた。秋はなく、冬が近い。
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