電車の中でお化粧するなんて、ある電鉄会社がマナー広告をして評判を呼んでいる。
問題を提起しそれが評判になればその広告の役目はひとまず成果ありといえる。
すごい人を二人、東海道線グリーン車の中で見た。
一人は髪フサフサの中年男であった。
顔のシワシワの割にはやけに髪の毛が多いとは思っていた。
11月末とはいえその日は暑かった。
直射日光を浴びたせいか藤沢駅を過ぎた頃、両の手で長い髪の毛をつかみ、ジワジワゆすり、両手でグイグイとカツラを外した(同じことをかつて見たことがある)。
それをヒザの上に置いた。バッグから出したスプレーで何かをカツラ内に吹きつけた。
ツルツルの頭にもブシュープシューとかけた。
持ち出したブラシとクシで、カツラの毛を丹念に丹念にとかした。
別にいいじゃんと言えばハイとして言いようがない、カポッと頭にのせると別人となった。
切符チェック&売り子の女性が来たので、笑顔で冷たいお茶を買った(多分お坊さん)。
大船から年の頃は五十五、六、七才位の実に身じろいが正しい着物姿の女性が乗って来た。何やらクラシックのイベントに行くようだ。そこに携帯が鳴った。
蚊の鳴くような声で、今、電車の中なの、もう少ししたらかけます。
と実に育ち良しやという感じであった。
次に染付けのトートバッグからスポーツニッポン紙を出し、前の席にそれを広げた。
そして片足をスポニチの上にのせた。
次にバッグから小物入れの様な物を持ち出し爪切りを出した。
そして足袋を外し、足の爪をパチン、パチンと小気味よく切り出した。
みんなの表情が止まった。
それはまるでノーマンロックウェルの描く、イラストレーションの様であった。