2010年1月31日日曜日
人間市場 デニーズ市
ある哲人、ある政治家が言った言葉である。60分間速歩で歩き、消費カロリーは300カロリーである。汗まみれになって息を切らせて、コップ一杯のビール分である。
ようこそデニーズへ。かつて入った事もないファミレスに入った。注文はアイスコーヒー一杯である。別に健康オタクではない。自らに達成感を求めて、自らの根性を試している。ゴールドジムに入ったのである。
朝7時半、ようこそデニーズでアイスコーヒーのブラックを頼む。
目の前に四組のお客さんが見える。80人程入る店である。中年の夫婦、若い男二人、一人のOL風の女性。二人のサラリーマン風の男がなんとなく目に入る。
目はメニューのある数字を追っている。中年の夫婦は和定食である。ご飯、味噌汁、焼き魚、卵焼き、グリーンサラダ、納豆。メニューには780キロカロリーと書いてある。食欲盛んな太った夫婦はもりもり食べている。若い男二人は早朝より生ビールを大ジョッキで飲んでいる。フライドポテトにマスタード、トマトケチャップ付きである。ミックスサンドを二人で、メニューの数値は1100キロカロリーである。一人のOL風女性、年の程は25、6歳であろうか、スクランブルエッグ、コーヒー、ハムチーズの小さな盛り合わせとコーンサラダを黙々と食べている。メニューには780キロカロリーと書いてある。太っていないサラリーマン風の二人は何と朝から牛丼を食べている。それにコーヒーである。メニューには860キロカロリーと書いてある。味噌汁、香の物付きである。皆、食欲は旺盛である。
私と言えば、ただアイスコーヒーを飲んでいる。元々、朝食の習慣はない。かつて大河内教授という東大の学長が退任の言葉で、太った豚より痩せたソクラテスになれと言った。私はただ太った豚で終わりたくないのである。ガバガバ食べ、チョコパフェを食べ、飲み放題のコーヒー等をガブガブ飲む人を見ると、強烈な嫌悪感が走る。長生きしよう等と思う気はさらさらない。
中年夫婦の食欲は旺盛である。出た物をすっかりたいらげ、デザートに季節のフルーツを頼んだ。
8時になったので私はその上の階のジムに入った。耳にイヤホンをつけ、速度を時速6kmにセットして速歩で歩く。20分も過ぎると汗が出てくる。目の前のメーターに走行距離、消費カロリー等が表示される。30分を過ぎると汗と共に前の晩の酒が出てくる。少しピッチを上げる。テレビの画像を追いながら、ベルトの上を歩く。40分、45分、50分、60分。全身汗まみれとなる。
私の横で痩せた女性が、もの凄い速さでベルトの上を走っている。凄い速くて痩せている。美人ではない。何か恐い。私がシャワーを浴び、帰り支度をしていても未だ走っている。その時間すでに一時間半は超えている。私はインストラクターに聞いた。あの人は何なの?答えは、神奈川のマラソン大会で二度優勝している人だった。なるほど。
東京に出るべく駅の改札口に行く。そこにかの中年夫婦がいた。共に太っている。糖尿病になるか、通風になるか、高脂血症になるかよろしく食べまくってという気持ちである。
犬も歩けば棒に当たるという。この15年歩いて、歩いて、歩き続けた。中々棒に当たらない。ようこそデニーズのように、ようこそいいアイデアに会いたいものだ。ホームにOL風の女性が立っていた。右手に「美的」という月刊誌を抱えていた。
毎日歩かなければならない人をアル(歩)中というらしい。私は酒のアル中でありながら何となくこの15年アル中になっている。目の前に、牛丼、玉丼、カツ丼、ウナ丼、天丼が浮かんでは消える。何の為にドンドン歩いているのかは判らない。
2010年1月30日土曜日
人間市場 無気力市
無気力的脱力性の人っていますね。何かヤル気あんのか無いのか、朝ごはんや昼ごはんをちゃんと食べているのいないのか。何か下っ腹丹田に力が入っていない人です。
NHKの天気予報士の渡辺博栄さんなんかその筆頭です。もの凄い台風が近づいて来ていても、豪雨があっても、洪水となっても全く話すトーンが変わらない。この人は天気予報をしている間強風で大木がなぎ倒されて命に危険があってもきっと、何事もない様に原稿を棒読みしているだろう。
細い体、猫背気味、度の強い眼鏡、消え入りそうな声、この人が天気予報をすると大事も小言に思える。私はこういう脱力性の人が実は大好きなんです。ヤル気あんのかオリャーとか大声出すと、ありませんなんて軽くいなされるのです。
鶴岡政義と東京ロマンチカというグループがあります。「小樽の人よ」なんて大ヒットを持っています。「君は心の妻だから」なんて毒フグを食べたより痺れます。このグループのリーダーでギタリストの鶴岡政義さん、この人も全くヤル気が見えません。全然当たらない占い師風、すっかりさびれた神社の神主風です。チョビヒゲを生やし、古ぼけたギターをつま弾きます(中々いいんです)か細く、度の強い眼鏡をかけ下をずっと向いています。上を向いて歩かない人なのです、だから時々十円玉や百円玉を拾うことがあるといいます(想像です)。ギターを弾きながら今日は客の入りがイマイチだなとか、ボーカリストの三条正人がもっとギャラを上げろと言っていたなとか、ただア~とか、ウ~とか歌っている連中にリストラを宣告しなければとか考えながらつま弾いているのです(想像です)。
NHKの「のど自慢」の演奏者たち、ピアノ、ギター、アコーディオン、ドラムみんな全然ヤル気が見えません。何しろ歌う相手がリズムを外すのでそれを追いかけてあげるのですから伴奏とは言いません、追秦です。ヤル気なんか出したら大変な惨事が起きてしまいます(想像です)。気合いだ、気合いだ、気合いだなんてハチマキして喚いているアニマル浜口もこの人たちの前では気合いが入りませんし入れられません。
柳生流の極意に無刀取りというのがあるそうです。文字通り相手の刀を素手で取り(或いははさみ)相手を倒す。その極意こそ無力なのです。上ばかり目指す事を考えている目先の勝負ばかりに気を取られている方々、是非ご紹介した人々を見て下さい。きっと勉強になりますよ。
今私が手がけている本の一つは偏差値36位の劣等生がわずか半年死に物狂いで勉強したら見事早慶に入学できたという11人の実録物です。高校の先生から日々お前ヤル気あんのか、今のままじゃ田舎の三流大学にも入れないぞ(すみません、先生がそう言ったそうです)ブログアクセスNO1の塾長林尚弘先生25歳(学習院出身)が出版の相談に来ました。
劣等生という言葉が気に入り引き受けました。三月頃には書店に並ぶはずです。受験は一つのコツだと林先生は言います。
この参考書一冊と決めたらそれと心中する覚悟でその参考書を食べ尽くすのです。偏差値の低い受験生の人、劣等生と言われている人、まだまだ諦めてはいけません。打つ手は沢山あるのです。この国の歴史を動かして来たのはみんな下級武士、劣等生たちですから。
2010年1月29日金曜日
人間市場 待合室市
どんより、まったり、ひんやりしている無言の空間にその女性が入ってくると一瞬室内は緊張感が生まれる。
長身、黒髪、知的、優雅、ハイセンス。こんな人がどんな病気なんだろうと待合室にいる人たちは心の中で思っているに違いない。
風邪かな、胃かなそれとも腸かな、先生はいいな、あんな素敵な女性に、ハイ、服を開けて下さい、聴診器かなんか当てて、ドッキンドッキンの音を聴いたり、お腹なんか触って少し固いですねなんて言ったり、エコーなんか必要でもないのにゼリーみたいのを塗って何やかんやすんだろうなと思っている事がありありだ。
オイ、君たちよからぬ事を思ってんだろうと言おうと思ったが私の口から出た言葉は、お母さん元気?この間風邪引いたって言ってたけど、おそば屋さんで会った時グズグズしてたよ。おばあちゃんは相変わらずお元気だったね。こういった瞬間、室内にプア~ンとした空気が漂いました。会社大変だねと続けると更にみんな自分の病気も忘れたのです。
その女性はJALのスチュワーデスさん、今はキャビンアテンドさん。小さな頃から知っている娘さん、お人形みたいに可愛く、幼稚園、小学校は白百合、その後は清泉インターナショナルへ、英国、仏語、露語が得意。苦手は日本語なのです。少し気取り気味で少しタカビー的、かなりエラソー風日本語なのです。
この日はお母さんの薬をもらいに来たとの事。隣同士に座り二人で話しているとみんな興味津々の感じ。耳をそばたてていて名前を呼ばれ慌てる人もいたりして。会社近々や辞めるんですよ、なんで?と聞くと、何かすっかりプライド傷ついちゃってと答える。アレもダメ、コレもダメ、ダメダメ尽くし。今は成田まで電車で通っているんですよ、だって。
実はタクシー券を使っていたのです。他にも至れり尽くせりで来たのです。
御年28歳独身、かなりワガママです。お金がかかりますがどなたかいりませんか?
ご紹介します?別に本人から頼まれてはいませんが。
私が手にしていた週刊誌の表紙にでっかい文字でJAL法的整理へなんて書いてあります。記事の中には甘ったれた体質、法外な給与年金体制、パイロット、キャビンアテンドへの特権なんて書いてありました。プライドの高い雲の上の人(職場です)ですが是非どなたか立候補して下さい。人生に墜落する危険がかなりありますが。
2010年1月28日木曜日
2010年1月27日水曜日
人間市場 山下公園市
2010年1月26日火曜日
人間市場 ピンポ〜ン市
六十代の女性と三十代中頃の女性そして十歳位の女の子が立っていた。何か、あの私たちキリスト教の布教です。イエス様にご興味は?ノーです。イエスでないのですみませんと言った。
今日は扉を開けてくれてありがとうございましたと言う。丁度玄関の装置が壊れていて家の中の画面に写らなかったのだ。他の家は空けてくれないんですかと聞くと、ええ、ほとんど開けてくれませんと言いながら頭を下げて他に向かって行った。
ピンポーンというから又、玄関を開けると手に大きな紙袋を持った二十六,七のアンチャンが立っていた。チワー、読売新聞なんですがとってくれませんかとりあえず夕刊だけでもいいんすよ。三ヶ月だけでも、何なら本紙無料で入れますよ、三ヶ月でいいんですたのんますよ、これどうぞと紙袋を出す。朝日インテリ、読売ヤクザ、毎日ノンポリって知ってるか、もっとも朝日も毎日もまるきり駄目新聞になっちまったが、読売ヤクザはそのままだな、人の家に勧誘に来るのにスリッパはないぞと言うとすんませんと頭をぺこりと下げた、じゃいいすよこれどうぞと言うからいらないよと言って帰しました。
ピンポン、ピンポーンというから玄関を開けると若い男女。何ですかと聞くとケーブルテレビなんですけど入ってもらえませんかと言う。色々入っているからいいよと断る。カタログ読んどいて下さいと渡される、読んどくわとサヨウナラ。ピンポン、ピンポーン、何ですかと聞くと植木職人です、前を通ったら門の椿の木がお手入れ不足。誰かにお手入れを頼んでいますかと言うから、長い間見てくれていた人がこの間亡くなったんだ、だから植木屋さん探してたんだよ。じゃ是非やらせて下さい。オイ挨拶しろや、この若いの慶応大学の湘南キャンパスを卒業してから私のところに弟子入りして来たんです、中々見所があるんですよ。来週に来ますけどご都合は、ちょっと家の奴がいないから連絡先教えといてよと言ってその日はお別れ。
ピンポン、ピンポーン、自治会の集金です。
ピンポン、ピンポーン、花屋ですが。ピンポン、ピンポーン、クリーニング屋ですが着物が上がりました。ピンポン、ピンポーン、JAですがお米を持って来ました。
ピンポン、ピンポーン・・・、もしもし俺だ。ピンポンピンポンうるさくてしょうがない直ぐ帰って来い、しょうがないでしょ月末なんだから何て呑気な事を言う。とにかく直ぐ帰って来るんだぞガチャン。
ピンポン、ピンポーン、いませ〜ん、誰もいませ〜ん。留守ですよ。
そして電話帳を手に、もしもし金丸電気さんですか、玄関がピンポンピンポンうるさいんで音を消して欲しいんですけど、えっ、直ぐ来れないの?直ぐに。頼みますよ。マイッテんだよ親父さん。
2010年1月25日月曜日
人間市場 サンドウィッチ市
2010年1月24日日曜日
人間市場 便秘市
2010年1月22日金曜日
人間市場 鳥ドリ市
借金ばかりしている鳥は何て鳴く?それはいつもピーピー、ピーピー。
過去ばかり振り返る鳥は何て鳴く?それはいつもカッコ、カッコ。
お経ばかりあげている鳥は何て鳴く?それはいつもホケキョ、ホケキョ。
人の事をいつもコケにしている鳥は何て鳴く?それはいつもコケコッコ、コケコッコ。
キスばかりしている鳥は何て鳴く?それはいつもチュッ、チュッ、チュッ。
いつも人の話に感心ばかりしている鳥は何て鳴くのでしょ?それはいつもホォー、ホォー。
自分が苦しみを一身に背負っている様な鳥は何て鳴くのでしょう?それはクッ、クッ、クッ、クッ。
小さな庭にある梅の木に小さな蕾が見え始めました。その木の枝に色んな鳥が飛んで来ます。それこそトリドリです。忙しそうに動き回ります。カタッっと音がしただけでみんな飛んで行ってしまいます。そして又来ます、万両とか千両の赤い実をとっていってしまいます。柚の木の黄色い身を突っつきまくります。鳥たちのフンがいい土を育ててくれ、木を育ててくれます。
いい借景だった家の前に家が建ち始めました、相続税を払うために売ったそうです。奥さんは愚妻のお茶のお師匠さん(宗偏流)。娘さんは私の娘のピアノの先生。大きな家に大きな庭でした。
早朝から日が落ちるまで箒を一本持ってアッチコッチ掃除をしてくれるご主人でした。朝起きたら死んでいました。あんまり家が大きいのでご家族は判らなかったのです。ある日すいませんね、お宅の前に家を建てさせてもらいますよとご挨拶に来てくれました。駄目ですとは言えないので鳩サブレーかなんかを有り難く頂きました。
工事の音がしていると鳥たちが近づきません。気に入っている夏紅葉の木に陽が当たらなくなりそうです。小さな池に久々鯉の子供を入れようと思って昔買った金魚屋さんに行ったらもうありませんでした。熱帯魚屋さんに行ったら教えてくれるかもと思って行ったらそこもありませんでした。
昔デパートの屋上はそれはそれは楽しい処でした。楽園でした。藤沢のさいか屋に電話したら魚類はとっくに売ってないと言われました。
仕方ないから魚類図鑑で鯉とか金魚を描いてやるべえと構想を練り始めました。風情のない町になって行くのは淋しいものです。果物屋(交通事故)おもちゃ屋(突然死)電気屋(不明)洋品店(ユニクロのせい)本屋三軒(万引きとブックオフ)銭湯(不明)駄菓子屋二軒(不明)中華屋(病気)魚屋二軒(やる気喪失)おでん屋数軒(不明)うなぎ屋(火事)みんな消えて無くなりました。
共通していたのはみんな借金鳥で、ピーピー鳴いてカッコーカッコーと過去を懐かしんでいるとの事でした。(タクシーの運ちゃんに聞いた話です)
近所のセブンイレブンとサークルKが店を閉めました。こちらは毎日寝不足で奥さんがすっかり参ってしまったそうです。モニターで万引きを見張る、レジのお金をくすねられるのを見張る、ホトホト寝不足で夫婦でもうやめようとなったそうです。
先日海岸でボンヤリ海を見ていたら元セブンイレブン浜須賀店店長夫婦が仲良く夕方の散歩をしてました。どうだい元気かと言ったら、毎日寝てばかりで太ってしまいました、と言って江ノ島の方に行きました。
俺の人生の閉店はどんな形にするかとふと考えました。自分の体に白い紙を貼って歩き回る。長い間のご愛顧を心より御礼申し上げます。様々なご無礼、乱暴浪籍、悪タレをお許し下さい。ここにて閉店申し上げます。こんな感じが良いかもしれない。ツケが残っていたらお早めにご請求下さい、お支払いできない場合がありますので、店主敬白
一人の釣り人が大きな真ゴチを一匹と平目を一匹ルアーで釣っていました。
2010年1月21日木曜日
人間市場 ボカシ市
ボカシとは何か。ボカスとは違う、ボカスには主体的意思を感じるがボカシは何となく曖昧模糊だ。話をボカシ、売上げをボカシ、交際をボカシ、仲違いをボカシ、陰部をボカシ続ける。
ちょっと何でこんな話になったの?全然最初の話と違うじゃない。え、どうなの?え~、あの~、まぁ~と表情をボカシ出す。ボカスのだったらボカボカにするがボカシは中々手強い。すいません、あの~、本当すいません。
え~っと、なんだいハッキリしろっていうんだよ!何でこうなるの?何でそういう不真面目、不誠実、不見識、訳判んねえな君みたいな人。何かボカシの入ったヌード写真みたいじゃないかい、えっ、私はヌードなんかなりませんよ。当たり前だよ、君のヌード見てどうすんだよ。変な例えは止めて下さい、プライド傷つきますから。よく言うよ何がプライドだよ、嘘ばかり嘘八百八橋じゃないか、俺は嘘は大嫌いなんだよ。プライドなんていうのはちゃんと約束を守る人間が持つものなのだよ。君は何で人の目を見て話をしないの、どうして目がキョロキョロ動くの?駄目だよ人と話す時は目を泳がしちゃ。君のやっている事は刑務所の塀を上を歩いてんだよ、判る?俺が訴えたら御用だよ、そうするか?止めて下さいお願いします。じゃどうすんのみんなに迷惑かけてんだよ。えっどうするの。あの~、え~と、別にボカシてる訳じゃないんですが、あの~、顔中汗だらけ汗中顔だらけ、ちょっとおしぼり持って来てやってくれる、こいつ駄目だわ全然。信用できないボカシ話はここでお終いにする。
ある日、元小学館の少女コミックの編集長、業界では名の知れた男との会話です。こういう男は一歩外に出ると、何言ってやがんでバカヤローと空缶なんか蹴っ飛ばすんです。オイッそこの表現はボカスんだぞ、何ていうとジャーナリストの上に立っている感じですが、オイッそこのとこボカシ入れろなんていうと途端にポルノ雑誌ぽくなるんです。
ある日、キミ本当は彼氏いるんだろ、いや~だいな~い、全然。話ボカシてばかりじゃないか。だって、私、いや~だ何言ってんの。
銀座東映の側にガラス張りの喫茶店の中、私は映画が始まるまで少し時間があるのでコーヒーを飲んでました。目の前の映画の内容より、耳側の話の方が面白いのです。明らかに入れ込んで買い込んでいる片思い男と、明らかに誘い込んで買わせている女。相方三十前後、男は自営業風、女は半堅気風。雪ん子みたいな茶色のブーツがやけに目立つ。12月24日男はプレゼントを渡そうとしています。小さなグッチの箱にリボン付き、中は何でしょうかなり興味あるな、ちょっと中は何って聞いてみようか。連れがプライバシーはボカシた方がいいのよだって、つまんないな。あの雪ん子、君に気がないよ全然。スレッカラシだよ話ボカシまくりじゃないって言ってやらないとプレゼントでカード地獄かもよ、と言っていたらとんでもない事が起きました。
シツコイ人嫌い、もうこんな事しないでと言って男に水をぶっかけて立ち上がったのです。雪ん子恐し、哀れ小太りの男の眼鏡はかなりのボカシがはいってしまいました。
2010年1月20日水曜日
人間市場 最弱市
2002年サッカーワールドカップ世界最強を決める試合の日に、世界最弱を決める国際連盟公認の試合が行われていた。場所はヒマラヤ山間の王国ブータンである。
試合は世界ランク202位のブータンと世界ランク203位のモントセラトである。モントセラトは英国領の火山島面積102km²、小豆島より小さく伊豆大島より大きい。人口8,995人。ブータンの首都は標高2320m。
モントセラトはカリブ海の民、当然試合となると酸欠になった魚がアップアップする様になった。しかもチャンリミタン競技場は多摩川の河川敷と同じ様なもの11人の内8人が高山病となった。
前半は0-1と互角であったが後半はフラフラとなり結局0-4で敗退。予想通り地球で一番弱い国となった。悔しかった、せめてあと二週間早く着ていればとヘッドコーチが言ったとか。
こんな楽しい話を言語の機関銃、ジョークの刺し綱、言葉の吹き矢、井上ひさしさんのエッセイ『ふふふふ』で知った。
こんな試合なら何を置いても見てみたいと思った。最強もいいが最弱はもっといいものだ一方、2006年最強を争ったフランスとイタリア戦、あの有名なジダンの頭突き一発があった。ファイト一発はリポビタンDだが、この一発はイケマセンDであった。イタリア、マテラッツィがジダンをシャツの上からしつこく押さえ込んでいた、ジダンがそんなにシャツが欲しいなら後でやるよと言ったとか。
そこでマテラッツィがこう言い返した。
「テロの売春婦の息子め、くたばっちまえ」
「あるいは、おまえのシャツじゃなくて俺はお前の奥さんのシャツを脱がせたいんだ」
世界各国の読唇術の専門家が分析した。ジダンは頭に来た、だから頭を出した。
どーんと一発。世間では頭突きと言う。
結果はPK戦でイタリアの勝ち。後味の悪い試合となった。最強と最弱、フェアプレイとアンフェアプレイ。勝者には何もやるなと言ったのはヘミングウェイだ。
世の中あまりにも勝つだ負けるだばかりとなった。値下げの全力競争だ。私たちの国は大切な何かを忘れてしまったのかもしれない。自分たちの作った商品への誇り、プライド、頑固な姿勢だ。値下げで日本一、世界一になっても所詮はバーゲンセールの成功者だ。
ブータンとかモントセラトの選手、サポーターも全力を出しつくした。正々堂々戦った者だけが生む皆こぼれんばかりの笑顔であったという。
最強という言葉にあまりに支配されていた自分を反省し今後は最弱を目指す事にしたいと思った。ジダンがモントセラトのコーチになったり、マテラッツィがブータンのコーチになり子供たちに夢を与える。こんな光景を目にしたい。勝者にやるべき事はたくさんある。私は堂々たる敗者であり続けたい。
次のW杯アフリカ大会、最弱のドラマを見に行きたいと思う。
エメラルド色の海の上でサッカーをしたり、真っ青な空中でサッカーをする事だって不可能じゃない気がする。
2010年1月19日火曜日
人間市場 吉永小百合市
2010年1月18日月曜日
人間市場 チンケ市
2010年1月17日日曜日
人間市場 寿し市
我が国の人は、外国人から評価を受けると舞い上がってしまう。
一軒位、バカヤローテメーラ、フランス料理のコテコテのソースに慣れてる奴にこちとら日本料理の味が判ってたまるか、このスットコドッコイ。顔洗って出直して来い、と突き放したという話は聞かなかった。数寄屋橋に私の名前と似た寿し屋がある。ちなみに私は三郎である。
その店のなんと馬鹿馬鹿しい事か。たかが寿しでお一人、お酒とお通しと刺身と寿しで三万円位。一杯、二杯と杯を重ねると、もう寿しの味を一気に忘れる値段が付く。一度行った。
知り合いがそれなりの人であったので、怪し気な私にも一応それなりに対応してくれた。
地下一階。
その隣りにバードランドという焼鳥屋がある。阿佐ヶ谷から進出して来た。こちらはリーズナブル、旨い。感じがいいである。一方は高い、気取っている、寿しは握りが緩い。握りは強くても駄目。台に置いたら少しほんの少し動く感じが名人芸。高いネタを仕入れてくれば誰が握っても旨いに決まっているのだ。着物をお召しになった女性と仕立てのいいスーツを着た御仁が食べていた。
このマグロ本当のマグロみたいで美味しいとか、この白身、なんて色白なのかしらとか、このコハダなんかイワシによく似てる、美味しいわ。なんてスットコな事を言っている。よっぽどひっぱたいてやろうかと思ったが、目上の人と一緒、私の行きつけじゃない。
おやじと言えば、ニヤニヤしながら一応アチコチ目配り。上がりもいいわ、ガリもサイコー辺りになると、生来一言多い私は腰を浮かしそうになる。頼みもしないのが次々出る。掟みたいに出る。外人も数人来ていて、しょう油皿にシャリをボロボロにしている。カタコトの星三つをもらったんですってね、本当オメデトウゴザイマスなんて言ってやがる。堺正章の番組じゃあるまいし。
江戸前の寿しなんざ、本当の立ち食いでさっと食べて、さっと帰る。これがルール。で、その日支払った金額は対して旨くもない(あの程度は幾らでもある)店に品定めされている様でキュークツで仕方なく、不快で仕方なく、十万円でお釣りがチョット。ナメトンノカと思い、マア、これがこの世の別れと支払って終わり。
カッパ巻きなんか、巻きが緩くて海苔が割れてやがんの。それから何日かした日、早朝築地の市場で朝ご飯を食べて居たら、何、何とあの店の若い者が二人、場内の立ち食い寿しを旨そうに食べてやがった。べらぼうめ〜と思ったが、あんまり美味しそうにしているので、放っておいた。その店は、間違いなくあの三つ星より旨いのです。特上で1600円です。十貫位食べても同じ位。
寿しの命は、コハダ、穴子、赤身、かんぴょう巻き、玉子。ちなみに中トロは昔、脂身(しみ)といわれ、縁起が悪く捨てられていたとか。いきなり中トロだ、大トロから入る人とは付き合わない。
私の寿し屋のオススメ。
赤坂「濱寿し」私の名を出せば少し安くなります。おやじはミーハーでテレビ出たがりで困り者です。私の信頼する食通、加藤雄一さんは銀座「小笹寿し」を支持。女性に人気は銀座「まる伊」ここも私の名を出せば握り一貫位サービスしてくれます。昼のちらし寿しは大行列。前日のネタの在庫一掃みたいにこれでもかとシャリの上に乗っています。
ミシュランに旨い店なし。これ、間違いありません、あるのは気取りだけ。
旨い店は自分でめっけるもんですよ。あっ、忘れてました。ホテルオークラの地下に久兵衛という店があります。先日、巻き物が満足に出来ないので気合いを入れたら、店内シーンとなりました。遠くで河野洋平さんがキョトンとしていました。私は一言多いのです。
江の島に来ましたら「寿し政」をぜひ。その昔裕次郎さんの行きつけ、今も石原慎太郎さん伸晃さんを頭に、石原軍団の集結場です。オヤジさん、息子さんサイコーです。
2010年1月16日土曜日
人間市場 検診市
ファイ、ファイ、まず身長を測りましょうね、ここに乗って顎を引いて背中を真っ直ぐにして下さい。
アラッこの間より1.5cm縮まりましたね。アラ、そうですか何ででしょうかね。後、胸のレントゲンと血液検査をしますからね。
もうお判りですね、この日は老人検診の日。病院の待合室は65歳以上から90歳位の老人で一杯です。調子が悪い友人の為に、院長先生に大学病院への紹介を頼みに来たのです。院長室の入り口のレザー張りの長椅子に座って居ました。
おばあちゃん幾つと聞くと、アタシわ84歳ですと○山□子さんはお応えになりました。ヘェ~それでも検診するんだ、おばあちゃん幾つまで長生きしたいのと尋ねると嫌な顔もせずに死ぬまで生きていたいの、美味しいもの食べたいのよワッハハハ。おじいちゃんは七年前に死にました、コロッとね。ワッハハハ。毎年やってるの?そうですよ、あそこにいる人たちはお友達、ここで会えるのが楽しみでね。あの人は高血圧と痛風と酷い耳鳴り、あの人はリウマチとアトピー、あの人は坐骨神経痛と高血圧と高血糖、あの人はこの間大腸癌を切ったのよ、あの人は胃と腸を何しろ一人暮らし、あの人は可哀相な人でね、ハイ、レントゲン室入って下さい。ファイ、ファイと。
ここで○山□子さんはレントゲン室へ。先生の声、ハイ大きく息を吸って、ハイ吐いてぇ~、そう上手いですよ直ぐ終わりますからね。
一月一日元気であれば○山□子さんはめでたく一歳年を重ねたはずです。
病院の待合室は家庭の医学書一冊分の患者さんが来る所です。この人たちはほぼ皆お正月寒川神社に行って、無病息災、八方除、火災難除、家内安全、旅行安全、病気平癒、交通安全、孫やひ孫の受験の合格祈願等をお賽銭100円でお願いするのです。
おばあちゃん、おじいちゃんがのんびり猫を膝の上に乗せてミカンなんか食べている写真は一家の財産です。お正月はお餅を喉に詰まらせるのが多いのです。気をつけて下さい。
○山□子さんは身長が1.5センチ伸びます様になんてお願いするかもしれませんね。
昔はいいおばあちゃんやおじいちゃん役者がいました。浪花千栄子さん、北林谷栄さん、笠智衆さん、浦辺粂子さん、三益愛子さん、伊藤雄之助さん、森川信さんはフーテンの寅の初代おいちゃん、バカダネーの一言が何とも味がありました。
この頃いい老人役者がいませんね。どうしてでしょうか。あっ、ひとつ思い出しました。病院の待合室で隣のおじいちゃんに余計な事を言ってしまいました。おじいちゃん、人間金持ちも貧乏も死んだらみんな白い骨と灰。どんなにお金を持っていても金色の骨と灰にはならないからね、死は平等だからと。
おじいちゃんはゴルゴ13を読んでいました。ゴルゴみたいな怖い顔で睨み付けられました。そのおじいちゃんは近所でも有名なお金持ちです。
2010年1月15日金曜日
人間市場 アウト市
2010年1月14日木曜日
人間市場 深刻劇市篇
新国劇の主役は、島田正吾と辰巳柳太郎と特別法律で決まっていた。可愛い子分のお前達と別れ別れになる門出だ。万年池に・・・と続く名場面は国定忠治だ。
コチラの深刻劇の主役は毛髪である。毛髪が頭皮と別れ別れの門出となるとハゲである。生ハゲである。恐いお面を被った顔で子供を泣かす、なまはげの祭りとは違う。冗談を言っている場合ではない、冗談じゃないのである。
ある女性の統計によると、お見合いで一番ゴメンナサイをするのはハゲの人であるという。ハゲにもその人の数だけ個性がある。5円パゲからツルパゲまで、このハゲのハンデを埋めるのは巨万の富とか巨額の資産しかないのに、フェラーリやマセラッティを持っていてもハゲは嫌なの、とのたまう女性がいる。
何と残酷、何と無情ではないか。金も無力なのだ。
世界中でハゲになりたくてなった人は、国連の調べでも一人もいないという(?)。毛が一本、二本と抜ける度に父を憎み、遺伝子を憎み、一族の血を憎む。朝起きる、枕に毛が。頭を洗うのが恐い、でも仕方ない。洗った頭をタオルで拭く、タオルに毛が。鏡を見る、おでこが昨日より0.1ミリ広くなった。ヤバイ、明日0.2ミリ、明後日0.3ミリ・・・やばい、やばい。せっかく、好きな女性が出来たのに。
ハゲを意識するのは小学生から、早熟の子は物心付いた時からという。お父さん、パパ、ダディの頭を見て半分毛がない。隣のオジサンフサフサ。何で、どうして、やめて。きっと僕も、俺も、私も必ずハゲる、遺伝する。その恐怖におののく。
ハゲ=モテない、単純一時方程式である。小さな時から異常によく頭を洗う。シャンプーをバチャバチャかけ、ゴシゴシ洗う。高見盛が恐怖心を取り除く為に顔をバンバン叩く様に、頭をバシバシ叩く。顔にニキビが出る青春の頃は、もうハゲ恐怖シンドロームである。野球部に入ったのに、なるべく野球の帽子を被らないで先輩に怒られる。
中学、高校、大学、入社。一年留年下ので24歳である。次兄は28歳、長兄は31歳。父の頭の毛髪はチョンマゲを切った侍の様である。長兄はやたらに育毛剤を買ってくる。通販でも買っている。毎月の投資額は15000円位。次兄も又毎月投資をし額は13000円位だ。父はもう、育毛は諦めカツラのカタログを取り寄せている。
聞くところによるとシャンプーのし過ぎ、頭皮叩きすぎはかえって悪いのだという。チクショウ、シャンプーのコマーシャルめと思った時は手遅れになっている。人間の毛髪は、正しくは伸ばし放題にしておけば腰辺りまで伸び、自然に脱毛し、自然に育毛するのだという。基本的にはハゲになる構造になっていないという。抜けたら生えるのである。しかし、抜けても生えない。
日本語の仲で、一番人を傷付ける言葉はハゲではないだろうか。チビとかバカとかマヌケは、笑ってだから何だっつうのと反撃が出来る。頭に真っ黒な髪があるからだ。髪は勝負する為の強大な力なのだ。
それにしても、テレビのコマーシャルで人の弱みにつけ込んで色々なメーカーが心くすぐる様な事をやっている。あれも駄目だった。最近、櫛を入れるのが恐い、シャンプー恐い、頭ゴシゴシ恐い、タオルでふきふき恐い、鏡見るの恐い、家出るの恐い、歩くの恐い、電車の恐い、会社に入るの恐い、エスカレーターが恐い、女性の目が恐い。これじゃ引きこもり、対人恐怖症、出社拒否。
ハゲで良いじゃない、ファッションじゃない、上等じゃない、悔しけりゃハゲてごらんよ、文句あるの?無いでしょ。お、君いいハゲ方じゃない。おや、先輩ビシッとハゲ決まってますね。何だ久し振り、順調にハゲてるじゃない。や〜来た来た、絶妙バーコードが。相変わらず仕立て上がってるじゃないですか、一本一本勘定出来ますよ。キレイだな、ビューティフルですよ。
様々なハゲが集まって来た。この集いは、第一回脱毛・育毛を誇る会。又は、脱毛・育毛真剣比較討論会。又は、脱毛・育毛世界サミット等の名称を決める会である。一応、会長は毛沢山氏である。ちなみにハゲが原因で死んだ人は統計上いません(?)
2010年1月13日水曜日
人間市場 干し柿市篇
その人の名を神崎東吉という。
幻冬舎を定年となり同士たちと無双舎という出版社を立ち上げた。近頃出会った人では出色の人である。
すこぶる柔和、すこぶる鋭い、すこぶる官能的、すこぶる気配り、なにしろすこぶるだらけの人なのです。
父君は直木賞作家。その血を色濃く受け継いでいます。一度私が書いた小説の原稿を読んでもらったら、真っ赤に直され血だらけとなりました。原型をとどめないものとなりました。私の原稿をあそこまで真っ赤にしてくれた人は後にも先にも神崎東吉さんです。あそこまで直されると何かとっても気持ちがいい気分です。ジムでたっぷり汗をかいて体に溜まった毒素が毛穴から出た後の爽快感です。
よく小説家は編集者が育てるといいます。新人の作家などは突っ返された、見る影もなくなった自分の原稿を見て自信喪失、インポ、生理不順、ヤケ酒、カラミ酒となってしまいます。この原稿ボツ、これもボツ、これもボツとなるのです。編集長がオイ、ボツボツいいの見つけろなんて怒鳴るのです。
神崎東吉さんは薄い髪で小太りです。一見優しいのですが目が魔の様に鋭いのです。今三冊の本を一緒に進めています。山梨県に縁があり先日「枯露柿」という干し柿を送ってくれました。これが何と美味しい事か、例えは悪いが豊満な女性の密かな部分の様。たっぷり肉厚、深い割れ目。決して甘過ぎず気品あふれ一口歯を入れれば粘りが強く抵抗する。元華族かなんかの家柄のいい少し年を召した女性。服の下の体はグラマラス、下腹部には少し肉が付き甘味を帯びた香りを放つ、ルノワールの裸婦の一部分が干し柿になった様なのである。高貴なる淫靡とでも表現しておく。
市田柿とは一線を画す。一度ぜひ食して欲しい逸品である。
この間久しぶりに中学時代のクラス会があってさ、二十人位集まったよ。
あいつ憶えてる?みんなで追っかけたあのクラス一番の美人、すんげえ変わっちまっていてさ驚いたよ。すっかり痩せてやつれてさ、そうまるで鄙びた干し柿みたいだったよ。人間あそこまで変わるかな、当たり前だよ。三十年も経っているんだから。そうだよな、月日は残酷だよな。
顔なんか厚化粧で白い粉が浮いていてさ、目尻なんか下がってたるんでんだよ。
判った判ったもう止めろ、酒が不味くなる。だから俺は行かないんだ、人生長くやっていれば色々あってしんどい、辛い思いが顔に出るんだ、お前だって見られたもんじゃないぜ。すっかり鄙びた干し柿みたいだぜ、ぺったり長い顔に縦皺だらけさ。よせやい、干し柿だなんて。昔読んだ古典にこんなのがあった。
絶世の美女に恋をした男がいた。その美女は不幸にも死んでしまう。男は悶々とした日々を過ごす。そしてある日美女の墓に行く。どうしてももう一度あの美しい顔を見たい、そう思い一心不乱に墓を掘るそして美女を見つける。しかし美女はすでに白骨となっている。男はその白い骨を集め箱に入れ持ち去る。
それから数年後あるお寺で修行を重ねる一人の僧侶がいた。その僧侶は骨を持ち去った男であった。自らの一生を美女の為に供養する事を決めたのだ。
美女と男は一度も言葉も交わした事のない間柄であった。
2010年1月12日火曜日
人間市場 鰆市篇
不器用な私が魚を釣って来た時、1500円を払うと三枚に、刺身に、切り身におろしてくれた魚屋さん夫婦が店を閉めた。20年余、ソーセージといえばこの店の物しか家の者は食べない肉屋さんが消えた。おでん大好き家族の支持するおでん種の店が消えた。おめでたい時に欠かせない、美味しいお赤飯を作ってくれる和菓子店が消えた。何かにつけ駆けつけて来てくれた電気屋さんが消えた。若い夫婦がやっとの思いで作ったという小さなパン屋さんがあっという間に消えた。高原野菜が絶品だった八百屋さんが消えた。メンチコロッケが抜群だったお総菜屋さんが消えた。喫茶店を改良してカレーライスだけを売って大好評だったカレー屋さんが消えた。
「長い間のご愛顧ありがとうございました。当店は○月×日に閉店させていただきます。」
この文を書いている主人、それを見ている奥さん、家族、そしてそれを貼るセロテープ、ガムテープ、画鋲も辛い。出来る事ならもう少し頑張ろう。でも、このままじゃどうしようもないじゃない。でもお父さん、借金膨らむばかりだよ、と息子。ん、でもな。時代の流れよ、しょうがないじゃない、と娘。でもな、俺に他に何が出来るんだよ。もういいじゃない、毎日毎日こんな事話してたら病気になっちゃうわ、と娘。駅前に大きなスーパー出来たし、もう駄目なんだよお父さん。後4年で年金が少しでも入るし、でもな、たかが知れてる額なんだぜ、なあ母さん。せっかくの仕入れた物、作った物捨てるのは死ぬ程辛いからね。
長い、暗い、辛い、切ない会話が続いていた筈である(想像です)。人は何が辛いかって、自分が丹精込めて使ってきた物を捨てる時程辛い事はないと思う。生涯かけて店に並べてきた物を捨てる時程辛い事はないと思う。昨今はコンビニ大手が大手メーカーに対し、こんなもん売れませんよとか、こんな品、こんな味、こんなパッケージ置けませんよとか、生々しいシーンがテレビで流れる。その昔酒屋さんだった所が一番コンビニに変わっている。24時間夫婦で経営、アルバイトの人間に売り上げを取られない様、商品を万引きされない様、売り場の裏のビデオモニターを見続ける。コンビニの本部からお姑さんみたいにあれこれ注意される。あ〜あ、もうやってられないと近所のコンビニも消えた。ブックオフという得体の知れない本屋になった。本屋で万引きされた本がここに集まるという。
消えた人達によくやって来たじゃない、消えた方がきっと幸せですよと声をかけたい。頑張って来た人には、きっと良い事がある。ほら、息子さんの就職もちゃんと決まったし、娘さんも大学に自力で入った。嫁に出した娘さんに赤ちゃんが出来た。幸せじゃないですか。私の大好きな魚に鰆がある。みんなにきっと春が来る。活きのいい春が来る。
2010年1月11日月曜日
人間市場 馬と鹿市篇
しかし猫死だとか、鳥死だとか、魚死だとかは聞いた事がない。
しいて挙げると豚死という言葉がある。犬死は美学が見えるが豚死は馬鹿に見える。この馬鹿にしているという言葉も、何故馬と鹿を選んだのか説明してくれた先生や博学の徒もいない。馬の後を鹿が追いかけたという説が幅を効かせている。
拙者、殿への忠心ため腹を切る。待て、早まるな。今お主が腹を切れば相手の思うつぼ、犬死に。これが、待て、早まるな。今腹を切ればお主は豚死だ、となると甚だ緊張感に欠ける。犬は忠心の証しであったのだろう。
犬千代はいても、猫千代、豚千代、鳥千代はいない。猫といえば鍋島藩の猫騒動、猫屋敷、化け猫、猫なで声。不義、不忠、裏切りの証しである。あいつは猫みたいに良い奴だとは言わない。
愛犬家というと海辺を散歩する姿は何かいい感じに見えるが、愛猫家というと少し恐い。犬は化けて出ないが猫は化けて出る。よく犬は人になつき、猫は家になつくという。人間を単純に犬科か猫科で分類すると付き合い方も上手くいく。
ああこの人は猫なで声だな、腹の中できっと舌をベロッと出してるなと判る。犬科の人は正義感が強いが、敵に吠えるその口で味方にも噛みつき困らせるのがいる。忠犬でも悪い例えで言われる事がある。曰く、あいつはまるであの人の飼い犬だ。お手もするし何でも尻尾を振って付いて行く。やだねぇああいうの、ああまでして出世したいかね。こんな風である。逆もある。あいつは偉いね、落ちぶれたけど最後まで恩人に付いて行って自分の人生を犠牲にした、忠犬物語だなとかである。一度自分の回りの人を犬科か猫科に分類してみるといいかもしれない。いや、下らんことかもしれない。
さて、馬鹿は何故馬と鹿か。いずれも悠々たる生き物である。名馬の誉れは数多い、馬は武士の魂であった。鹿といえば優美この上なく都には欠かせぬ生き物である。その角は気高く、誇りに満ちている。馬が武の象徴なら、鹿は雅の象徴である。白馬、白鹿、見事である。それが馬鹿と書かれると途端に切なくも悲しく、淋しいものになってしまう。それに怒ると馬鹿野郎である。こうなるともう、武の象徴、雅の象徴でもない。いつ、いかなる時にいかなる理由で馬鹿という言葉が生まれたか歴史の大きな謎である。博学の友に聞く事としてここは終わる。
あっ、猫が又魚を持って行った。
「コラァー」
あっ、犬が買ったばかりのソファーに又穴を開けた。
「馬鹿め、何してんだ。あ〜あ」
「猫だって犬だっってストレス溜まってんのよ、しょうがないじゃない、絶対ぶったりしないでよ」
愚妻が言った。
「猫は恐いわよ、ず〜っと恨まれるからね。犬だって昔は狼だったんだからガバッと噛むわよ」
お〜よしよし、猫なで声を出し、お〜よしよし、猫を手なづけるのであった。猫は転勤になった義姉の家に仮住まいしている時、義姉が帰ってくるまでお願いねと置いていっていたのだ。お互いに腹の擦り合いが長く続いた。馬鹿という生き物にはまだ会った事はない。何処のペットショップにも売っていない。何か一番仲良くなれそうな気がする。
2010年1月10日日曜日
人間市場 天才市篇
100mを9秒台で走る。100mを46秒台で泳ぐ。鉄の球を90m以上飛ばす。
一本の棒で5m以上もの高さを超える。走る、泳ぐ、投げる、飛ぶ。
より高く、より速く、より遠く。オリンピックの選手は皆凄い、超人である。
プロ野球、プロテニス、プロレス、プロゴルフ、プロバスケット、プロフットボール、プロサッカー、プロは皆天才である。
しかし恐縮ながら、この人達は人生の相手にして恐いかというと首を傾げたくなる。叱られるのを承知で言えば、一歩間違うと馬鹿みたいなのである。
例えばサッカー馬鹿、野球馬鹿、ゴルフ馬鹿、テニス馬鹿、格闘技馬鹿というように、とめどなく馬鹿がついて回る。お前それしか出来ないのかとか、お前他に話題はないのかと馬鹿にされる。その道にのめり込んだ為に、他の道を知らない。その道しか知らない為に人生の迷子になってしまう。
故に、まさかあのスポーツマンがという人ほど間違いを犯す(Tウッズもそうでした)。過ぎたるは及ばざる如しである。何も道を極めたるを侮辱する気は更々しない。見上げてごらん夜の星をである。私が声を大にして言いたいのは、色んな人と出会い色んな遊びをしなさい(手錠をかけられる遊びではなく)という事である。
世にも恐い人がいる、底光する様な人がいる。総じて、目立たない、どこにいるか判らない、何を考えているのか判らない、吹けば飛ぶ様な感じである。昔から「あの馬鹿が」等と言われたりする。どっこい、こういう人が一番手強い。凄い、えらい、恐い。
プロスポーツの人の様に、凄い事が凄い数字とか記録で判れば、凄いですねと言えるけど、ものすごい人は判断不能なんです。
記録では表されないんです。
吹けば飛ぶ様な将棋の駒の様な人、部屋の片隅で黙々と答えのない答えを探している人、公園なんかでボーッと空を見ている人、湖面に向かって石ころを投げ続けている人、会いたいですね。
オーラを頂きたいです。皆さん、皆さんが小馬鹿にしている人の中にいるんですよ。凄い人、恐い人、天才が。あのアホがと思っている人、是非ご紹介下さい。
2010年1月9日土曜日
人間市場 凄い人市篇
ここに紹介する人は、ウルトラ級に凄い健筆家である。大江戸八百八丁に生きる人々の世界を題材に、もの凄いピッチで本を出版し続ける。
かつては広告界の大巨匠であった人である、ソニーが初めてトリントロンカラーを世に出した時、「僕タコの赤ちゃん、今生まれたばかり」のコマーシャルで国内外を問わず世界中の賞を総ナメした。
プロデューサー、コピーライター、クリエイティブディレクター、作詞家。
まだ新人だった真野響子さんをカティサークのコマーシャルに起用、わずか3000ケースだったカティーサークを一気に30数万ケースにまでした。記憶が正しければ、一位ホワイトホース、二位ブラック&ホワイト、三位J&B(?)。どん尻だったカティーサーク36万ケースは一気に二位になった。
が、巨匠はある日全ての栄光を捨てて一からスタートした。小説家へ転身したのである。
名は、望田市郎から本庄慧一郎へ変わった。
鮮やかな行動であった。全てを捨てて新たにデビューする。言うが容易いがこれは大変な事なのです。生死をさまよった大病を克服し、鮮やかな転身をした。愛妻が巨匠を支えたのだ。御年○×歳、数字は伏せる。ぜひアクセスして欲しい。人生のギアチェンジに年齢は関係ない事が判るはずです。時代小説、官能小説、歴史小説、ジャンルはデパートの食堂の様になんでもござれ。次から次へ筆は走りまくる。
私の大尊敬する人、見本とすべきご夫婦である。石神井公園辺りで刀は差していないが、万年筆を胸に忍ばせ、短髪、少々丸めの体、鋭い目、身長160センチメートル位の柔らかな殺気を放つ人がいたら、その隣にしっかりと寄り添う品格あるご婦人がいたら、本庄慧一郎さんだ。男の人なら切られない様、女の人なら一度も味わった事のない官能の世界に呼んでもらって下さい。
あいさつはただ一つ「愛読者です」この一言で、鋭い目はウサギの様に優しくなり、家にいらっしゃい、コーヒーか紅茶か緑茶でも、となるはずです。ケーキとか和菓子なんか出るかもしれません。スコッチが一杯出るとしたら勿論かティーサークのはずです。
追記、ある倦怠期を迎えていた中年夫婦が一冊の本を代わる代わる読んだ。その夜夫婦は青春時代の様に激しく求め合った。疲れていた夫婦は疲れを知らぬ夫婦となり、口論する事も亡くなったという。本庄慧一郎の官能小説のとりこ、エロスのとりこになってしまっていたのだ。
ハーレクインロマンを読んでいたマンネリ夫婦はそれを全て茶袋に入れ、ガムテープを貼り粗大ゴミの日に出した。
2010年1月8日金曜日
人間市場 車内市篇
少し小太りの運転手さんだった。深夜、東京から家まで速ければ一時間程である。
「別に、どうして」
「たいがいの人は暗い中で小さな文字を読んでると、気持ち悪くなるっていいます」
「あ、そう、こうやって車の中で読むのは昔からの習慣でね、また楽しみなんだよ」
「運転手さん、もしかして青森の人」
「判ります。いや、つい先日青森にあるお城に行ったんですよ」
「あ、弘前城」
「そう、その時立ち寄った弘前城の側のおそば屋さんの女将さんと同じ訛りだったので」
「あのそば屋はちょっと高いでしょ」
「まぁ場所がいいし、中々風情があったよ。弘前城は綺麗だね。お城も綺麗だけど手入れが抜群だね。日本一じゃないかな。どの城も行ってみると観光客のゴミだらけだもんね。弘前城はゴミひとつ落ちてない感じだったなぁ」
「みんな一生懸命城を守っているからね。ねぷたと同じ、青森の二つの命だね」
「そうかもしれないね。春、桜の季節にもう一度行って絵葉書のような風景を見てみたいよ」
「春は綺麗だよ」
「そうだろうね。運転手さん何で東京に出てきたの?青森の方がいいじゃない。東京はよくないよ、何もかも、今読んでいる記事にも信じられない事件が沢山載っているよ」
「幾つに見える」
「同じ位ですかね」
「まあそんなところだよ」
「体の隅から隅まで、心の端から端まですっかり汚れちまったよ。何のお仕事です?こんな深夜に遠くまで。有り難いことですが」
「まあ、ヤクザな仕事ですよ」
車は戸塚を過ぎ、家まで後二十分程である。渋滞もなくスムーズだった。
車はもう十分ほどのところまで来た。車内灯を消した。
「あ、運転手さん、これ沖縄の焼酎友達から貰ったんだけどプレゼントするよ、娘さんきっと見つかるから、連絡だけは取れるようにしておいた方がいいよ。親子の情は切っても切れないから。お酒だから、めっからない様にしなよ」
2010年1月7日木曜日
人間市場 先輩市篇
私に大好きな先輩がいました。今は秋田に帰って余生を送っています。この人が酒を飲むと一大事、二大事、特大事となります。デザインの天才と酒癖の悪い天才が同居しているのです。何回も警察にもらい下げに行きました。
一、 無銭飲食
一、 不法侵入
一、 下着ドロ
一、 暴力行為
一、 公務執行妨害
つまりは金が無いのに飲んで人の家の庭に入り、そこにかかっていた洗濯物をポケットに入れて出てきた家の人に手を出し、駆け付けた警察官を殴り付ける。それでご留置となる訳です。
次の日は全く青菜に塩、何にもオボエテネエーンダー、イヤ~マイッタマイッタなんて言うのです。でも天才的に器用な人でした。
一度電話が入り、ちょっと来てケロ、どこにいるの?築地の「江戸銀」っていう寿司屋知ってる?ちょっと腹減ってカウンターで寿司食ったらえらい高いんだ。金ねえんだ来てけれ。で「江戸銀」へ。一番奥のカウンターという事は一番いいネタ一番高いとこ、本人はケロッと側の小さな川の流れに泳ぐ金魚なんか見ている。
マイッタマイッタ、東京の寿司はなんて高いの。ウニ四貫、イクラ二貫、トロ二貫、赤身二貫等々、あろう事か伊勢海老の味噌汁も。もう飲んで食べて大ゴキゲン。スマン、スマン、ウマカッタ!幾ら持ってると聞くと小さな財布に四つ折にした千円札が二枚だけ。
ここは高い店なの、この場所は特に高いの、知らねえ~もん、スマンスマンいつもスマン、さっ帰ろうと連れてお支払い。な、なんと2万3200円、これだもんね、さあ帰ろうとお店を出たのが午後一時四十分位。先輩ヨレヨレ。この人には二冊も三冊も小説が書ける位の尻拭いをし続けたのです。いい人なんです、大好きなんです。
ある日電話が入りました。ちょっとある所に来てというかなりヤバイ感じ。千鳥ヶ淵側のホテルのロビー、恐いお兄さんが二人先輩をサンドイッチにしています。俗にいう切り取り屋。銀座のクラブのつけの取立てです。
銀座でも有名でとんでもなく高いクラブ。帰りは大和のハイヤー呼び放題。
溜まったツケが約300万、さあどうするとなったのです。とてもそんな金はない。
そこで私はある提案をお兄さんにしました。毎晩先輩をお店に出します、そして先輩の友人、知人に私がこの状況を詳しく説明してお店に飲みに来る様にします。三ヶ月位で必ずツメます(払う)だから今日はこれまでにしてねと、本当かというから名刺を出し何かあったらここへいつでもと。
次の日から夜になると先輩は二軒掛け持ち、私といえばありとあらゆるルートにハイ出し(出て来い)をかけました。
お店は大繁盛、ボトルキープは来ない内から割当を決めて入れておく。(先輩はそれほど人気者だったのです)オーナービックリ、マスタービックリ、兄さんビックリ、ホステスビックリ大会です。なんと一ヶ月と少しで完済です。
実はこれからの方が大変な事になたのです。ず~っと、ず~っと、ず~っと尻拭いをし続けたのです。でも大好きな人なのです。
2010年1月6日水曜日
人間市場 元気市篇
杉浦嘉昌さん七十歳。この人には心から敬意を表す。
小さい、細い、でも凄い。右手がなんとも細い。生まれついての体であるという。なんでもポリオの影響であったと、底抜けに明るく、前向きの人。中央大学法学部出身、ご当地のマラソン大会の時は目の不自由な人と紐で繋がり併走する。杉浦さんはいつも首から紐を輪にしているその中に右手を入れている。
その杉浦さんに江ノ島バナナボーイズというチームの選手たちを紹介してもらった。
この人たちは、みなさん体がご不自由な人たち。車椅子を自分で操作して体育館に集ってくる。ローリングバレーというスポーツをするためだ。下半身が不自由な為、みんな床に座り、転がる、体中の使える所を思い切り使う。手足の関節にはサポーター、ネットの上にはボールが上げれない為、ネットの下をボールシュートするのだ。
四、五人ずつが左、右に分かれて試合をする。全国大会を目指し練習する。コーチは健常者の若者二人。声にならない声を出し、叫びにならない叫びを出す。
杉浦さんの解説によると、ああやって怒っているのは、もっと自分の使える所は使えと言っているのですよ。
写真を撮っていいですかねと言うと、全然OKですよと言った。みんなたっぷりと汗をかいている。若者から中年、老人まで。杉浦さんは言う、この人たちは決して自分たちを見て同情をしなくて。逆に自分たちを見て元気になって欲しいと言ってるんです。練習が終わったらみんなでビールを飲むんですよ。ハンデがあるからって家の中に引き込んでいない様に、そう言いました。
五体満足の私は元気を沢山もらいました。反省もさせてもらいました。みんなちゃんと仕事をしているとの事。元気を出せ五体満足の人よ。