これを書いているのは午前三時三十七分である。
浅い眠りで直ぐ目が覚めてしまいNHKを点けた。そこには日本の鉄道史を伝えるSLたちの素晴らしい映像がひたすら無言で映し出されている。まるで巨大な昆虫の様なSLたちの雄姿。黒煙を上げ、黒灰色と白濁色を時に雄叫びを上げる様に、時に風に流され、時に緑の田園の中を白い蒸気を広げて走る。
※写真はイメージです |
私は鉄道オタクではないのでその雄姿の種類はまるで分からないが、その姿は日本の原風景そのものである。波打ち寄せる海岸、強風に木々が揺れる山間。猛吹雪の中を雪を蹴散らし進む。
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春の梅や桜、夏の向日葵畑や入道雲の下、青い海、秋のコスモスたちそして紅葉の中、日本が大切にして来た四季の移ろいの中に黒い塊は力強く泣き叫び又、自信と誇りを持って黒煙を上げ蒸気の花を咲かす。
高い建物の街、日本家屋だけの村々、山河は友の如くSLを待ち続け迎え入れる。
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速い事は良いのだろうか。速さを求め得た物も多いが私は失った物の方が何十倍も多いと思う。
荒れ狂う漁村を走るSLたち、それに手を振る漁師たち。
人間はおよそ時速4㎞で歩くという。歩く中で人と人文化と文化、情と情が通い合った。仮に時速40㎞でも歩く事の10倍である、それだけで十分ではないか。
速さを競い合った為に今や帰郷するという行為すら情緒のない日帰り行為になってしまった。
なんと青森まで3時間20分で行けるのだから。日本人が日本人になくなってしまったのは速さへの挑戦だった。
青森新幹線 |
ある地方の表示にこんな看板があった。「慌てるな、昔はみんな歩いてた」遅い社会に戻るべしだと思う。知らなくてもいい様な情報が寸時に世界中から入る。
もし「神」がいるとしたらこの地球という数奇な星を消滅しようとたくらみ始めたのだと思う。
速い事は何もいい事でない。日本再生はSL時代に戻せだといいたい。
まるで巨大な墓場に立つ墓石の様なビルの中を走る新幹線、一分一秒遅れると酷い目に遭う乗務員、ヒステリックに遅れを怒る客たち。
今、時間は四時二分。画面には高い橋の上を走るSL、滝の水の流れの横を走るSL。
強くて優しいかつての日本人の様である。全てが一幅の絵である。
思わず冷酒を飲みだしてしまった。もし、アフリカの大陸にSLが煙を上げ蒸気を放ちライオンやトラやキリンや象やシマウマたちと一緒に走っている姿を想像したら何とも複雑な気になってしまった。
日本よ「日本人に帰ろう」日本人の心を世界に知ってもらおう。
今再びのSLだ。「ゆっくりそしてのんびりと」
君が代と共に日の丸の旗が画面から流れ始めた。どうやら朝刊が来た様だ。ゆっくり読むとしよう。
政治家には「百年の計」が必要である。私ならこう言いたい「日本人に帰ろう」と。
これからずっと少子高齢化社会である。
故里は遠くにありて想うものなりだ。