さておむすびの子といえば、そう「小むすび」なのだ。
黒々と上質の海苔でくるまれた小むすびは、3.5センチ位の三角形の大きさであった。
美しい女性のやわらかな手で丹念に丹念にむすばれた品だ。
一人前八個で700円、それにたくあんがついていた。
十三日の金曜日、大先輩に指定された店は「しみず」という店だった。
さすがにセンスのいい大先輩が指定してくれた店だけあって、すこぶるいいセンスといい味と、いい酒の店であった。
京風のおばんざいだが味は関東風のやや濃い味。
野菜煮、サンマのみりん焼き、鮭のハラス、ハムカツなどを三人で食した。
三十年以上赤坂で営んでいるというのに、しょっちゅうそのビルの前を通っているのに全く不勉強で知らなかった。
一階に懐かしいマックス・ローチというドラマーのポスターとディジー・ガレスピーのポスター。二人共モダンジャズの巨匠、地下一階はジャズのライブハウスであった。
「しみず」は二階にあった。馴染みの客以外まず分からない。
店は六時を過ぎるとすぐに満員になり、私たちが帰る頃は二回転目であった。
私たちは三時間半近く話の花を咲かせた。
店内の飾り付けも良く、花の生け方もいい、日本酒の銘酒が酒屋さんのように並んでいた。
三十人位入るはずだ。客筋は見た目で分かる、私以外はすこぶる上質のお客さんたちだった。
私は連休あたりからセキが止まらず強い薬を飲んでいたので、実は料理の味も酒の味も残念んあがらとぼしかった。だがいい料理は目で分かる。
ハムカツなどは見ているだけでゾクッとするほど旨そうであった。
「しみず」は通信簿でいえば間違いなくすべて5であった。
セキが治ったら必ず行こうと思っている。
というよりも行かねばならない。何故ならばお店のお品書き、つまり黒いバインダー二つ折りのメニューをカバンに入れて持ち帰ってしまった(黒いバインダーは私自身いつも持っているので)。
十二時二十分家に着いてそれに気付いて直ぐに電話をした。
ママさんというか美人女将さんが未だ店にいたので、メニューを持って帰ってしまった、スミマセンと言うと、今度ぜひまた来てください、その時まで大切に持っていて下さいな、なんて言われたからだ
「しみず」は一人で行って、いい酒二合ほど飲んでおつまみ二品位を食べて、最後に小むすび一人前とお味噌汁で三千円位だ。
でも「しみず」は人に教えたくない店でもある。
0 件のコメント:
コメントを投稿