「人間の条件」
別所哲也さんは俳優であると同時に、日本俳優史上初の凄いことをやった。
俳優さんの仕事といえば与えられた役を演じる事だが、この人は、映画界を育てる役をこなした。(現在も続行中)小説の名手といえば、いかに短く書くかであった。小説の神様と言われた志賀直哉さんはその代表である。ある読書家の書評に、これこそ小説だと思ったものとして、川端康成の「心中」というのがあった。読書家でない私でも読めそうなページ数が書いてあった。それは文庫本でわずか三ページほどとあったので、読んでみたいと思い調べてもらうと、パソコン上に現れた。プリントしてもらうと、コピー用紙(B5判)一枚の中4分の3、これぞ小説なのであった。話を別所哲也さんに戻す。この人は短編映画専門の映画館「ブリリア・ショートシアター」(横浜市西区みなとみらい)を立ち上げ、世界的な国際短編映画祭に育て上げた。2008年2月から始めた。これまでに3000作品を上映、入館者は26万人を数える。来年2月に建物との契約が切れるのを期に、今年の12月2日をもって閉館する。別所哲也さんは一定の役割りは果たしたと。10月29日(日)の東京新聞朝刊の大きな記事で語っていた。この映画祭を目指して世界中から短編が応募し、今をときめく新人監督や撮影、編集、証明、美術、録音などあらゆる部門の新人が育った。130席ほどの映画館は国際交流の場となった。この10年の功績は正真正銘の文化功労者である。私は長編映画より短編が好きである。勿論いい映画なら何時間でもいい。松竹映画の名作「人間の条件」五味川純平原作、小林正樹監督を第一作から最終作まで一気に上映する機会があった。
9時間以上である。有楽町の映画館は満員であった。私は亡き母と共に観た。主人公梶が愛する妻のもとに帰りたいと歩き続け、ついにバッタリと倒れる、美千子ちょっとだけ寝かせてくれと。そこに雪がしんしんと降り、やがてこんもりと人の形となって終わったと時、すでに朝となっていた。映画館内は拍手の渦となった。2ヶ月で9人を殺したという事件を知るにつけ人間の条件とは何かを考えている。フツーの職人さん、フツーの先生、フツーの魚屋さんや八百屋さん、床屋さん、乾物屋さんにクリーニング屋さんたちが、軍隊に入ると鬼になってしまう。人を殺して、殺して、殺しまくる。死の恐怖と上官からの絶対命令。「人間の条件とは」という問いかけに対して絶対服従という習性を答えとして出す。梶はあくまで不条理に抵抗する。戦争の極限は人間を変える。人間は生きるためなら、人間を殺す。80代90代の老人が、近所の公園でゲートボール大会を日常的にやっている。ある日ベンチに座ってそれを見ていたら老人の一人が私の隣りに座った。小柄な好々爺である。おじいさん戦争に行ったと聞いたら、行ったよと言った。何人殺したのと聞いたらキッと目付きが鋭くなり、目は血走ったように三角形となった。
ジョーンですよと言って公園を出た。このことをモチーフにある短編映画のシナリオを書いたのだが、資金がない。今の世の中、人間の条件とは金があるかないかとなってしまった。ネット上でこれほど自4殺願望の人間が交流しているなんて知らなかった。川端康成の「心中」は夫婦と子どもの無理心中を、清列な文章で書いてあった。週末”人間の条件”を考えてみませんか。人間は人間の中に、誰でも狂気の人間を潜ませている。
だから私は戦争反対。別所哲也さん大絶賛である。(文中敬称略)
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