かつてミュージシャンの発するメッセージは体制を批判し、政治を攻撃し、国を動かし、世界を一つにするパワーを持っていた。
大好きなイーグルスが来日する。名曲「ホテルカリフォルニア」で病んでいるアメリカを批判した。
要約すると「ようこそホテルカリフォルニアへ、ここは天国かもしれないが、地獄かもしれない。ここはいい人ばかりでも一度入ったら出る事は出来ない。ここでは1969年よりもうアルコール「精神」はありません」とベトナム戦争を行ったアメリカをホテルカリフォルニアに置き換えたのだ。
この名曲のライブ盤が出た時丁度カリフォルニアのズマビーチにいた。
そこでアイワのカセットデッキで最大ボリュームにして聴いて痺れきった。
ベトナムの戦地に入ったボブディランやショーンバエズ、名曲「風に吹かれて」では「どれだけ見上げたら空は見えるの?いくつ耳を持ったら人々の泣き声が聞こえるの、どれだけ人が死んだらもうたくさんだと分かるの?友よその答えは風に吹かれている」とメッセージを送った。
レッドツェッペリンの名曲「天国への階段」で「光るもの全て黄金だと信じている女がいる。彼女は天国への階段を買おうとしている。ああどうしたことか、よく耳を澄ませばあの調べが聞こえるだろう。皆がひとつになり、ひとつになり、ひとつが皆になり岩になるときに転がりはしない岩になる・・・」と迷える社会に対して痛切にメッセージを送った。
ジョン・レノンは名曲「イマジン」で争う事なき世界を願ってこの世を去った。
変女ヨーコ・オノに会わねばきっとビートルズは続いた筈だ。
「考えてごらん富というものがなかったら。君には想像出来るかな 貪欲や飢えがない人間愛に満ちた世界を。考えてみてもし全ての人が世界を全て分け合ったらと。全ての人が今日のために生きている」
今この心の戦争ともいえる病んだ社会夢や希望を失った国、権益ばかりを争う世界。インターネット社会が生んだ人間関係の寸断、疑心社会の増殖。井上陽水はかつて名曲「傘がない」で「都会では自殺する若者が増えている。冷たい雨が心を濡らすそれが問題だ」とメッセージを送った。
そして今、その通りの社会が生まれた。井上陽水は39年前に既に現代社会の崩壊を見抜いていたのだ。
音楽は何故メッセージを失ってしまったのか。何故ミュージシャンは戦う事を忘れてしまったのか。集団でガヤガヤ踊り歌うダンスミュージック。日本語にもなっていない複雑怪奇な恋愛ソング。
あなた、君、僕、愛、別れと出会いに終始する少女マンガの主題歌の様な歌ばかりだ。
聴いていても分からないフレーズの洪水だ。
誰か出ないか、世の中を正そうというメッセージの送り手。不条理を問うメッセージ、人間の強さや弱さを語る胸に突き刺さるメッセージ、心を揺さぶるフレーズ。自分に音楽的センスの無い事を悔やむ。
何しろ通信簿で音楽はずっと(1)だった。
深夜イーグルスのライブDVDを観て聴いてまるで寝れなくなったギターの音が全身に突き刺さったからだ。フォークソングを求めているのではない。戦うメッセージが聴きたい。人間は戦いを忘れたらただの霊長類に過ぎないのだ。
イーグルスはホテルカリフォルニアという名曲を生んだ後長い長いスランプに陥って解散した。
三月に年老いたイーグルスが来日する。必ず行ってホテルカリフォルニアを聴きたい。そのメッセージは今まさに現代に通じるからだ。我々は出口のないホテルカリフォルニアの中にいる。
そこには「精神」がない。人々は天国への階段を登る力もお金もない。
世界はますますひとつにならず、友よ答えは風の中に吹かれていない。
でも「ゴーアヘッド」前に進もう。一人一人が。