法律の掟の中に“共同正犯”という罪がある。
例えば七人で本屋さんに入った。その内の一人が本を万引きした。
残りの六人はそれを知らなかったと言うが、防犯カメラには六人が万引きした人間の事を知っている様であったり、見方によっては万引きに気が付かなかった様でもある。
一人の人間は入り口付近でキョロキョロしていた。
一人の人間は首が痛かったのかグルグル回していた。
一人の人間は大きなトートバッグを持っていた。
一人はチューインガムを一枚噛んでまた一枚口に入れた。
一人はメガネのレンズをハンカチで拭いていた。
一人は本棚に手をかけメールを送っていた。
万引きしている一人は本屋さんたちの憎き大敵、常習犯であった。
持って来た大きな紙袋の中に布袋を入れていた。
パッコリ開けたその中に高価な本を選び次々と入れていった。
何個かある防犯カメラは鮮やかな手口を見つけられなかったが、一台がかろうじて一冊の本を入れたのをキャッチした。七人はゾロゾロと店を出た。
万引きした人間は当然お金は支払わない。
店を出た後モシモシちょっと待ってとなった。店員二人が紙袋の中の布袋を見せてもらうと、そこには十数冊の本が入っていた。実にあっさり万引きを認めた。
ありがとうなどと礼を言った。万引きした男は駆けつけた警官に連れて行かれた。
万引き人間は警官にも礼を言った。
後日、六人の人間も警察に捕まった。
が、六人は本当に何も知らないと言い続けた。実は本当に知らなかったのだ。
キョロキョロしていたのは彼女を待っていたから。
首をグルグル回していたのは前夜寝ちがえていた。
トートバッグを持っていたのはいつも持っていた通り。
チューインガムはいつも噛んでいるから。
メガネのレンズはくもっていたから拭いただけ。
本棚に手をかけてメールしていたのはその方が楽チンだったから。
実はこの七人はフェイスブックで知り合い、その日初めて会っただけ、分かりやすい本屋の前で会い、残りの人間が来ないので、まあ本でも立ち読みしましょうやと店内に入ってウロウロしていただけであった。
で、結果は主犯一人、他の六人は“共同正犯”となった。
その理由はそれぞれの行為や仕草が万引きを助けるサインであった、また囮であったと決められた。ウソッー、信じられねえ、ジョーダンじゃネエーと言い張り起訴された後、法律と長い間闘った。
主犯は勿論刑務所に。
前科十一犯、全て万引きであり、全て本屋さんであった。
無類の読書好きで刑務所が何より好き、いちばんゆっくり読書が出来るとうそぶく男であった。あんまり刑務所に入りたがるので、入る度にオメエーは本ばかり読んでいるからシャバに出ろと、出されてしまうのであった。
その度に頼みますから刑務所に置いて下さいと泣いて叫ぶのであった。
実はこの話は私の作り話。
先日有隣堂という本屋さんに入りウロウロ本を探しながらフト思いついたのです。
映画にしたら面白いかもと思ったのだが???マークが多いので考え直しです。
STAP細胞の小保方さんを主犯にするなら、共著に名を連ねた他の博士たちはみんな、共同正犯なんだよ、科学者も信用出来ない世の中は困ったもんだ。
“STAP細胞はあります”を信じています。例え私一人でも。
難病と戦う人々の思いを込めて。
〈神が一つのドアを閉めたら、もう一つのドアが開きます〉立ち読みの本で知った言葉です。