こんな例えをしたら叱られるかもしれないが、こんな例えしか思いつかない。
ロックは全体主義になる。熱狂する大群衆の前で独裁者がボーカリストになり絶叫をしたら。ドラムスと二人のギタリストと共に。
五月二十三日(土)横浜アリーナで敬愛する中野裕之監督に大熱狂を見せてもらった。
上階にあった招待席はゆったりとした椅子席であった。
360度ギッシリの若者、下を見ると平場に立ち見の若者が柵で囲まれている大きな三つのブロックの中に、ギューギュービッシビシにつまっている、熱狂的ファンたちだ。横浜アリーナは17000席と資料にある。空席なんか一つもない。
中野監督がハイ、水といって冷えたクリスタルガイザーを渡してくれた。
午後六時ゲストの歌が始まる。ヒタヒタと迫るような歌声、私小説のようなフレーズ、どこまでも静かだ。
五曲唄ったあと、今日はONE OK ROCKの横浜公演にお呼びいただき光栄ですとマイク越しにいった。そうです、ONE OK
ROCKの公演です。
六時四十分、薄暗いステージ、ボーカルの声が男になった。
と、その瞬間からそこは熱狂広場、重低音、体の中を地下鉄が走るようなウルトラスーパーウーハーの世界。おまえらしか聞き取れない。
99.99%がハイル・ヒトラーのように右手を挙げる、そして終りまで挙げ続ける。
もの凄いことになった。ドラムの激しい音、二人のギタリストから繰り出される強烈なリズム、小さな体を躍動させるボーカリスト。
走る、飛ぶ、踏み台みたいなのに上がって大ジャンプする。
160センチ位の体が2〜3メートルの巨人に見える。
おまえら△◯かあ〜、99.99%がイェーイ、おまえら△◯か〜、イェーイ、ズキューン、バコーン、ガガァーン、どでかい雷が落ちたようおな大音響、吹き出す白い煙、分割されたスクリーンには炎、激流、地球、破壊される壁、赤や緑色のビーム光線がスモークあふれる空間を突き抜ける。英語で唄っているのか、日本語なのかも分からない。
99.99%がハイル・ヒトラー状態で熱狂する。
だが限りなく100%がルールに従っている。この光景は何かに似ていると思った。
それが独裁者の演説であった。あの状態でボーカリストが、おまえら戦争するか、といえば99.99%がイェーイと応えただろう。
極度の興奮状態では何もかもイェーイなのだ。
私は耳鳴りを忘れ、首や座骨の痛みもおしりの下から突き上げてくる重低音で忘れてしまった。頭がクランクランしたので丁度横にあった鉄の柵を握った。
九月に追加公演やるぜ、イェーイ。そしてアンコール、アンコール。
ボーカリストはステージの隅から隅まで行って最敬礼をした。
ありがとうございます横浜サイコー、九時五分に終わった。
中野監督はこんな激しいステージと共に世界十一カ国の公演を二ヶ月つきっきりで撮り続け映画にしたんだと改めて驚いた。その後中野監督が迷路のようなところをスタッフと共に案内してくれた。そしてONE OK ROCKのメンバーと会わせてくれた。
汗びっしょりの四人の若者は実に清々しいスポーツマンのようであった。
ボーカリストは世界タイトルマッチをフルラウンド戦ったボクサーのようで神々しかった。
中野監督を見つけると、あっ中野さんといって近づき強く抱き合った。世界中をロックで戦って来た者同士の泣けちゃうシーンであった。二人に言葉はいらない。
おまえら独裁者に負けんじゃないぞ、「戦争法案」に絶対反対しようぜといえば99.99%がイェーイと応えたのではないだろうか。
ふと故忌野清志郎のステージを思い出した。彼以来反原発・反戦争を堂々と唄うロックンローラーはいない。♪〜どうしたんだ ヘイヘイ どうしたんだ ヘイヘイなのだ。