昭和二十一年製作といえば敗戦後直ぐにである。
「わが恋せし乙女」という70分ほどの映画だ。
監督は木下恵介、撮影は楠田浩之というやがて日本映画史上に名作を残す名コンビの出発点といっていい作品だ。私はこのところ木下恵介を研究中。
モノクロ作品で木下恵介と名人楠田浩之の絵を超える作品はないと思っているからだ。
映画の舞台は長野県浅間山を見上げる牧場だ。
その牧場には数十頭の牛と馬が放牧されている。その牧場の入口に赤ん坊が捨てられる。
母親は投身自殺をする。
牧場の夫婦は二人の男の子がいるがその赤ん坊を我が子として育てる。
やがてその赤ん坊は美しい娘となる。胸のボタンを一つ外すとすっかり大人っぽい。
白いスカートから見える両の足は躍動する。
体全体が快活であり笑顔はどこまでも無邪気だ。
やさしい兄を実の兄でないとは露ほど知らない。
村の青年たちは戦争から解放された自由を歌で、踊りで、祭りで満喫する。
娘は乗馬も楽しむ。兄はそんな妹を眩しくみつつ恋を感じる。
楠田浩之のカメラはロングで、真俯瞰で、クローズアップで移動車で自由奔放に撮る。
浅間山からは白い噴煙が上がっている。戦争のない日本はどこまでも美しい。
兄は母からもう本当のことをいってもいいよといわれその機会を待つ。
もう一人の兄は戦争に行って帰って来ていない。
今日こそと思った日、妹は好きな人がいるのと兄に相談する。
その相手は戦争で片足が不自由になった、年の離れた小学校の教師であった。
兄は二人が手をつないで牧場の側を歩く姿を丘の上から見る。そして…。
この先はTSUTAYAで借りて下さい。映画屋たちは戦争に負けてなかった。
さて、浅間山で噴火し始めたとニュースで報じられている。山は怒っているのだ。
戦争参加に突き進む愚かな者たちに。
この国は小松左京の日本沈没によると、浅間、白根、富士山が大噴火しやがて日本列島が消失する。難民となった日本人の少数はどこぞの国を走る列車の中に詰め込まれる。
何やらそんなストーリーがリアリティを持って来た。