お前の食べているそれは何だ!
私の隣で「おにぎり」ではなく「おにぎらず」を食べていたら必ずそう言うだろうと思う。おにぎりを三角形に握れるかどうかで男は女性を必要として愛する。
これはいわば日本史のようなものである。
“梅干しは一日の養生”という言葉がある。
ごはんの中に一つ、太陽のような赤い梅干しが入っている。
その近くのごはんには梅干し色がじんわりとついている。
私の持論だが引きこもりや非行防止、あるいは非行悪化防止に母親の手と指で握った梅干し入りのおにぎりが最大の効果があると思っている。
母の手についた水気、塩気、ゾクッゾクッとする梅干しの酸っぱさ、一口食べ半分残し、また一口食べてゾクッゾクッと身震いする。
梅干しを種だけになるまで口の中で転がす、舌の上にのせては舌で転がす。
種をカラカラになるまで口の中で転がす。
ごはんについた梅干しの色の部分は、一気に食べず上手にそこ以外を食べる。
ごはんに海苔が付いていれば極上のおにぎりになり、歯に付いた海苔を最後に舌で楽しみながら味わうことができる。
母親が握ってくれたおにぎりに勝る愛情の料理はない。
私はこれを“正三角形不良防止の法則”といっている。
または“引きこもり脱出推進の定理”ともいう。
◯□ちゃんここ置いておくからねと不貞腐れて部屋で煙草を喫っている、その部屋の扉のところに置いておく。
ババアこんなもん食えっかと野球のボールみたいに投げ捨てられても、それを続ける。
引きこもりの子が部屋の中からメールでババア!ラーメン作れだ、カレー作れだ、チャーハン作れだと日々指示をだす。
その部屋の扉のところに三角形の梅干しおにぎりを置いてあげる、ひたすら根気よく。
鮭でもダメ、明太子でもダメ、おかかや昆布もダメ、イクラなどとんでもない。
梅干しが唯一無二の存在だ。
で、話は「おにぎらず」だ。
これが食に関する調査「ぐるなび総研」の2015年「今年の一皿」No.1になった。
米離れが進む中、自由で斬新なアイデアだと。
おにぎらずは、海苔の上にごはんを敷いて好みの具材を乗せ、海苔の四隅を中心に合わせるように包んで、包丁などでカットする。
ある漫画から生まれたらしい。
これは米離れでなく、親離れを生む。
作り方とネーミングに愛情を感じない。
中にイロイロ入れてカットしたのを見ると“ごはん海苔付きサンド”みたいだ。
私の勝手な想像だが結婚してすぐに離婚する原因は三角形におにぎりが握れるかどうかにある。キミ、明日友だちと釣りに行くからおにぎり四つ握って置いてくれる、なんて頼んで朝みたらラグビーボールや月餅みたいになっている。
えっ、ヤバイ何これ!となりそれが引き金になる。
ネーミングの上手い人に「おにぎらず」に変わるものを考えてほしいと思う。
「ネコいらず」みたいだし。幸い現在まで私の隣で食べている人はいない。
ずーっといないことを願っている。