タン、シロ、カシラ、レバー、カワ、シシトウ、イカダ、ギンナン、アスパラ、シイタケ各一本を食べる、日本酒一合、ハイボール一杯。
辻堂駅と繋がっている湘南テラスモールへ買い物に行った帰りがけである。
海風に乗って“ヤキトリ屋”の香り高く、誇り高い煙が少々空腹となった身に染みこんで来たのだ。先日“ヤキトリ”を食べたばかりなのにその誘惑に引きずられて入った。
十二月二十三日(月)、明日はクリスマス、モールの中は人、人、人。
混雑が大の苦手、人に酔ってしまう症状がイライラと出るのだが、ひとまずジューススタンドでブルーベリージュースのSサイズを飲む。
本屋さんに行き、メモをしておいた本の名を見せて、後でまた寄るからよろしくと言って次に目指す店に行く。
ショッピングはサッと見て、コレダッと思えばパッと決める主義だ。
若い頃勤めていたデパートの社員食堂で休憩に入った女性たちのオドロシイ光景、オドロシイ会話が私のトラウマなのだ。
「あのダッサイお客、何着たって似合わないのにあれも、これもとフィッティング、それから他のところも見てくるから」「ざ、けんじゃないわよね、買い物に時間かけて決めない男はサイテーよね、アッタマキチャウ」などと日々聞いていた。
売り場にいる時と休憩に入った時は、殆ど別人となるのがデパートの女性だ。
極稀に別人にならない女性もいるのだが、たいがい村八分のようにいじめられる。
「ひとりで気取ってんじゃないわよ」なんて言われてだ。
むかしのスチュワーデス、今のキャビンアテンダントなんかもほぼ同じ。
機内と社外では信じられない姿となる。制服という決まりに縛られている女性は、私服になると別人になる度が激しい。
オバちゃんあと二本食べたいんだけどと言った。
トリを焼く煙で黒くなった鼻の穴を少し広げ、脂ぎった顔を少し崩し、ボンジリと言った。で、ボンジリと合鴨を頼んだ。このヤキトリ屋夫婦とは三十五年位の付き合いだ。
ずっと、ずっと、ずーっとヤキトリだけの夫婦に感心する。
この夫婦は店内と店外で別人になる事はないと言われている。
午前十時頃から串刺しを始める、その後はずっと立ちっぱなし、パタパタ、パタパタ打ちっぱなし。店を閉じ洗い事や片付けをしてバタンキュー。
別人になる時間が無いのだと思う。
一週間に一日の休日はひたすら肉の仕込みに費やすのだ。
これサービスと言って出してくれたモロキューに味噌をつけながら、人生は日々同じ事の繰り返し、日々新たなりだと思った。
今年もあと七日だ。ボンジリに山椒を少しまぶして食べたらプリプリとし、ピリリッとうまかった。ボンジリは鳥のオシリの部分だ。
鳥だけは絶対苦手という心優しい知人もいる。
鳥と聞いただけで、トリハダが立つのだと。確かに串刺しにされている変わり果てた姿をじっと見ているのはツライ、もはや朝一番を知らせる、コケコッコーの声は出せない。
人間は何でも食べてしまう野蛮人なのだ。グイッ、冷えたハイボールが喉を通って行く。